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[1−28]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第28話 どうぞ召し上がれ

 アルデオレが匂いを辿って着いた場所は厨房だった。扉を少し開けて中を覗くと、侍女が一人で何かの料理を作っていた。

 オレはその侍女を驚かせないよう、まず扉をノックする。すると侍女が「はーい」という返事と共にこちらへやってきて扉を開いた。

「えっと……あなた様は……」

「衛士のアルデと言います」

「衛士様……ですか? それにしては格好が……」

「ええまぁ……非番でして」

「そうでしたか。それは失礼致しました。それで、どのようなご用件でございましょう?」

 どうやら、オレの嘘を信じてくれたようだ。年の頃20歳前後の侍女はニコリと微笑んでくれた。オレは内心ホッとしつつも嘘を重ねる。

「実は……いま城内がちょっとゴタゴタしているのですが……」

「あっ……はい、聞き及んでおります。なんでも犯罪者が逃げ出したとか……」

「はい。それで非番のオレも駆り出されているのですが、ちょっとお腹が空いてしまいまして……何か食べ物があったら分けて欲しいなと」

「そうでしたか。それはお疲れ様です。では中へどうぞ。ちょうど今、衛士様たちの夜食を作っていたところでしたから」

 そうして侍女さんはオレを招き入れてくれた。

 うう……城内をゴタつかせている犯罪者ってのはオレだというのにいいコだ……まぁ冤罪なんだけど。

 オレはテーブルに着席して、侍女さんは「あと数分で出来ますから待っていてくださいね」と言いながら鍋の前に立った。

 雑談がてら話しかけると、この厨房は、普段は囚人の食事を作る場所とのこと。なぜ地下に厨房があるのか不思議だったが合点がいった。今は、出張っている衛士たちの食事を作っているそうだが。

 非番の衛士まで集められているのは本当だそうで、だから詰所の食堂だけでは足りないらしい。

 そんな雑談をしていたら夜食が完成し、ビーフシチューとパンが数個、テーブルの上に並べられた。

「簡単なもので申し訳ないですけれども……」

「いえいえ、とんでもない。ほんとありがたいです」

 嗅覚に続き視覚まで刺激され、オレのお腹はもはや警報並みの音を立てている。口からは涎が溢れ出しそうだった。

「それでは頂きます……!」

「どうぞ召し上がれ」

 にっこり笑ってくる侍女さんに、オレは頭を下げてからスプーンを手に取り、勢いよくビーフシチューに突っ込んだ──すると。

 ──ビー! ビー! ビー!!

 突如、けたたましい警報が鳴り響き、オレは驚いて立ち上がる。

「な、なんだ!?」

 オレの疑問には、警報自体が答えてきた。

 ──ビー! ビー! ビー! 毒検知! 毒検知!! お手元の食事には毒が混入しています! 食べないでください! 食べないでください!!

「なんだと!?」

 オレは目を剥いてビーフシチューを見る。滑らかなシチューの中に、とろけそうなお肉と、味の染みてそうな野菜が入っていて、見ているだけで食欲をそそられる。

 こんなに上手そうな料理だというのに、毒入りだなんて信じられないのだが……!?

 そもそもこの警報はどこから──

 ──オレが戸惑っていると、侍女さんが眉をひそめて聞いてきた。

「あの……アルデ様? どうされたんですか?」

「えっ……?」

 これほどうるさい警報が鳴っているというのに、どうされたも何も……あ?

 オレはハタと気づいて、ティスリの指輪に視線を向ける。

 もしかして、この警報はオレにしか聞こえていないのか?

 なぜならティスリの指輪をしているのはオレだけだから……

 オレは、ティスリと始めて会ったときの、酒場での台詞を思い出していた。

 「食事の毒検知、病原菌の撃退、疲れたときの回復魔法まで自動で発現されます」という台詞を。

 そして毒検知した場合、本人だけに警報で知らせる仕組み……ということなのか?

「アルデ様?」

 驚いた顔で小首を傾げる侍女さんに、オレは視線を移した。

 まさか……このコが毒を入れたのか?

「あの……侍女さん。このシチューをちょっと食べてみてくれませんか?」

 すんなり食べようとするなら、その前に止めようと思っていたのだが……

「え……!?」

 侍女さんは、オレが予想していた以上に驚いて、そして両手をワタワタと振って拒んできた。

「いえいえ! わたしはいいですのでアルデ様がどうぞ!?」

「なぜです? ちょっと味見くらいいいじゃないですか」

「こ、これは衛士の皆さまに作った食事ですから!」

「そんなこと言わずに」

「いえいえいえ!? 夜遅くに食べたら太っちゃいますから!!」

 ………………そうして。

 二人の間に、数秒のしじまが訪れる。

「くっ!」

 先に身を翻したのは侍女だったが、オレは咄嗟にその手を掴むとひねり上げた。

「痛い痛い!」

「やっぱり刺客だったか!」

「やめて許して犯されるうぅぅぅーーー!!」

「んなことしねぇよ!?」

 思いも寄らないことを叫ばれて、オレは思わず周囲を見回してしまう。

 まぁ……すでに犯罪者だと思われているのだから、さらなる醜聞が広まったところでどうってことはないのだが。

 何もかも冤罪なのだがなぁ……

 オレは泣きそうになるのを堪えると、侍女の耳元で囁いた。

「いいか、よく聞け」

「ひぃ……!」

「オレは、ティスリ──いや王女殿下の魔具を所持している。その気になれば、この王城を一瞬で吹き飛ばすことも可能だ」

「な、なんてこと……!」

 そもそもオレは、指輪の効果範囲や持続時間すら知らないが、そんなことを敵対する連中に説明してやる必要はもちろんないので、盛大にハッタリをかました。

「だから上の連中に伝えろ。死にたくなければ、オレを王女殿下に会わせろ。さすれば王城が吹き飛ぶような最悪の事態は避けられる、とな」

「わ、分かったわ……だから離して……」

「期限は明日の夜まで。それ以上は待てないからな」

 二日連続の徹夜──通称『二徹』は避けたいのでオレは期限を設けておく。あと敵が妙な悪巧みをしないためにも。

「しっかりと伝えろよ?」

 そう言い含めてからオレは侍女の手を離すと、侍女は脇目も振らず一目散に部屋から出て行った。あの逃げ足からいって、侍女というよりは女兵士か何かだったのだろう。であれば伝令は正確に伝えられるはずだ。

「さて……そうしたら、これからどうするか……」

 我ながら、今のハッタリはけっこうな信憑性があったと思っている。何しろティスリの名前を出したからな。

 となるとティスリの実力を十二分に知っている王侯貴族が交渉のテーブルに着く可能性は高いだろう。田舎の家族に手を回すことも期限が明日ならば不可能のはずだ。早馬を走らせたって間に合うわけがない。

 そうなれば、無駄に王城を動き回って体力を使うのも馬鹿らしい。厨房を見回せば食材と水は豊富にあるわけだし、自分で料理を作れば毒入りを食べることもない。さらに、扉の前にバリケードを作れば仮眠くらいは取れるかもしれない。

「よし。そうしたらここに立て籠もるか」

 オレは決心すると、毒入りシチューを捨ててから料理に取りかかるのだった。

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