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[4−3]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第3話 ……何かに目覚めそうでヤヴァイかもな、コレ

 アルデオレは、涙目になるティスリに驚いて凝視していると、ティスリが頬をカァッと赤くして両手で顔を押さえた。

「み、見ないでください……!」

「え、あ、え? あ……はい……」

 ティスリは、パジャマ姿でベッドの上にぺたんと座り、両手で顔を隠してうつむくも、その耳まで真っ赤になっているものだから……オレは戸惑わずにはいられない。

 今のティスリはフツーに服を着ているわけで──例えば王都の旅館で酔っ払って迫られた時のほうが、よっぽどキワドイ格好をしていたわけだが──でもどうしてか、オレはイケナイことをしている気分になってきたので、取り上げた掛け布団を返す。

「あ、あの……これ……」

「…………………………」

 ティスリは掛け布団を無言で受け取り、少しの間もぞもぞしてたかと思ったら、元のカタツムリ形態に戻っていた。

 そうしてまた、だんまりである。

「おーい、ティスリ?」

 しかしティスリの返事はない。

「いったいどうしたってんだよ? オレは退散していいのか?」

 すると布団の塊がふるふると震える。どうやら……首を横に振るジェスチャーを布団全体で示しているらしい。

「じゃあ、なんなの? 何か話でもあるのか?」

「………………」

「おーいティスリ。黙ってたら分からんだろ」

「………………」

「せめて、どうして泣きじゃくっていたのかを──」

「泣いてなんていませんよ……!」

 くぐもった声が布団の中から聞こえてくる。勘に障ることについては、言い返す気力があるらしい。

 ようやく口を開いたので、ひとまずオレはそこから切り込んでみた。

「めっちゃ涙目になってたじゃん」

「二日酔いが酷くて、目が充血してただけです!」

「そんなの魔法で治せばいいだろ?」

「二日酔いはなぜか魔法で治せないのですよ!」

「そうなの?」

「最低でもきっちり半日は苦しむのです! しかも今日はまだ気持ち悪いのです!!」

「まぁお前、昨日はムチャクチャ呑んでたからなぁ……」

「………………!」

 オレが昨日の話に触れると、ティスリはまた口を閉じる。

 うーん……

 どうやらまだ体調は完全回復には至っていないようだが、それでもおしゃべりくらいは出来るらしい。

 にもかかわらず、未だこうして引きこもっているということは……やっぱ、昨日の所業が原因で、オレやユイナスに合わせる顔がないのだろう。

 いやオレはもう今さらな感じがあるから、引け目はユイナスに対して、ということだろうか。

 なのでオレはその辺を刺激してみることにした。このまま引きこもらせるわけにもいかないし。

「昨日のお前、ぶっちゃけ……酷かったぞ?」

「………………!?」

 布団の塊がびくっ!と反応したが、オレは構わず続けた。

「ナーヴィンとは馬鹿話ばっかりしていたし」

 びくっ……!

「それを見ていたミアにはドン引きされていたし」

 びくびくっ……!

「ユイナスに至っては、もはやダル絡みをしまくってたし」

 びくびくびくっ……!!

「せっかく農業でみんなの好感度を稼いだってのに、それを相殺して有り余るほどの醜態だったな。ほんっと、昨日が少人数でよかったよ」

「あ、あなたは……!!」

 オレの非難に堪えきれなくなったのか(非難というかすべて事実を述べているだけなのだが)、ティスリが顔だけ布団から出すと、やっぱり涙目のままオレを睨んできた。

あるじを慰めるとか励ますとか、そういう気遣いは出来ないのですか……!?」

「慰めたって、昨日の醜態は取り消せないが?」

「………………!!!?」

 う〜〜〜ん?

 普段から自信家で高飛車で、何かとオレをコテンパンにしてくるティスリの悔しがる顔を見ていると……

 ……何かに目覚めそうでヤヴァイかもな、コレ。

 オレが情け容赦ない言葉を浴びせたら、ティスリは、亀のように布団に顔を引っ込め、震える声で言ってきた。

「あなたが、そんなに冷たい人間だったとは知りませんでした!」

「だってなぁ。人の忠告を無視して、酒を呑みまくったのはお前じゃん。弁明の余地ないだろ」

「こうなることが分かっていたなら、無理やりにでも止めなさいよ!?」

「えー、イヤだよ。攻勢魔法の雨あられになるかもしれないし」

「その魔法をかいくぐってでも止められるでしょ!? あなたなら!」

「………………魔法を放つのは決定事項なのか?」

 ミアんちが倒壊しなくてよかったとオレは心底思う。

 まぁ冗談はさておき──いや冗談なのか? という疑問が一瞬よぎったがそれは封殺することにして、落ち込みまくっていたティスリも、普段の調子が戻ってきたようなので、オレは本題を切り出した。

「慰めろというなら慰めるけどさ。酒に慣れていないころは、誰だって一度や二度は醜態を晒すもんだ。だから気にすんな」

 オレが、よくある慰めを口にしてしばし、布団の中でモゾモゾしていたティスリがのっそりと起き上がる。

 そしてベッドのうえにちょこんと座り、布団を抱き締めて顔の半分を隠しながら聞いてきた。

「…………アルデは、どんな悪酔いをしたのですか?」

「そうだなぁ……オレの場合は……って」

 そこでオレはすぐ気づき、ティスリを半眼で睨む。

「お前、オレの悪酔いを聞き出して、どうするつもりだ?」

「どうもしませんよ?」

「絶対になじってくるだろ!?」

「だって! アルデばっかりわたしの悪酔いを知っていて不公平ではないですか!」

「お前が呑むのが悪いんだろ!」

「呑みたかったんですから仕方ないでしょ!」

「悪酔いするのが分かってるんだから少しは自制しろよ!?」

「分かってますよ! もうお酒は呑みません!」

 さすがのティスリも昨日で懲りたのか、今回ははっきりと「呑まない」と言い切った。これでオレは、酒で迷惑を被ることはなくなりそうだ。

 ………………まぁ、なぜかちょっぴり惜しいことした気分にならなくもないが。

「とにかくだ」

 惜しい気分を押し込めてオレは言った。

「やっちまったもんは仕方がないだろ。大切なのは今後だよ」

「………………それは、そうですが……」

「お前が気にしてんのはユイナスだろ? ミアやナーヴィンの反応も気になるとは思うが、なぜかお前は、ユイナスに執着してるもんな、珍しく」

 オレがそう言うと、ティスリはしおらしくなってコクリと頷く。

 なかなか沈痛そうなその雰囲気に、オレは素朴な疑問を抱いた。

「そもそもどうして、ユイナスをあんなに気にしてるんだ? お前、王女だってのに、平民をすごく気遣うヤツなのは知っているが、それにしたってユイナスは特別扱いしてるし」

「そ、それは……」

 ティスリはオレから視線を逸らして、訥々とつとつと語り始める。

「わたしが市民を気遣うのは、市民こそが国家のかなめだと考えているからです。市民なくして、国家は成立しないのですから」

「へぇ……?」

 学のないオレでは、なぜティスリがそう考えているのかまでは分からないが、普通の王侯貴族と比較すると、あり得ないことを口にしていることだけは分かる。ただの王侯貴族は、オレたち平民を家畜同然と思っている節があるからな。

 にも関わらず、王侯貴族の実質的なトップであるティスリがそういう考えを持っているのはいいことなのだろう。まぁ、今は王女を辞めてるけど。

 オレがそんなことを考えていたら、ティスリが話を続けていた。

「ですから、わたしが市民を大切にするのは当然なのです。だというのにこの国の王侯貴族は、その大切な市民をないがしろにしていて。だからわたしは──」

「いや、お前がオレたち平民を大切にしてくれるのはありがたいけど、とは言ったって、お前がユイナスに執着しているのはちょっと違う話じゃね?」

「うっ……そ、それは……」

 オレがそこを指摘すると、ティスリが言葉を詰まらせる。普段のティスリなら、どんなことでも明確に答えを出してくるというのに、ユイナスのことに関しては曖昧な返事しかしないのだ。

 でもまぁ……人に対する感情なんて、常に曖昧なのかもしれないな。

 だからオレは付け加える。

「お前がユイナスを好いてくれているというのなら、兄としても嬉しいんだけどさ。正直、友達にしたいならアイツはおすすめしないぞ?」

「そ、そんなことはありませんよ……ユイナスさんは魅力的です」

「そうかぁ? 友達にというなら、領都で出会ったフォッテスのほうがぜんぜんいいと思うが」

「もちろん、フォッテスさんとも仲良くなりたいですが、わたしたちの旅に付き合わせるわけにもいきませんし……」

「まぁそりゃな……そうなると、しばらく村に滞在するならミアとかどうよ? ユイナスと比べるべくもなく、アイツはまともな性格だぜ?」

「も、もちろん……ミアさんとも仲良くしたいと思ってます」

 そういうティスリだったが、どうしてか、ミアに対しては心を開いていないように見える。フォッテスとはすぐ打ち解けていたと思うが。何がどう違うのか、男のオレでは分からないかもなぁ。

 ぼっちのティスリには、まともな友達が必要だと思うんだが……

 それと友達という言葉から悪友の顔が連想されたので、オレは付け加えておく。

「ちなみにナーヴィンはやめとけよ? 悪いヤツじゃないが、友達になったら、あとあと面倒になりそうだから」

「ええそうですね。彼はやめておきます」

 ふむ……ナーヴィンをサックリ切り捨てられるあたり、人を見る目がない、というわけでもないようだが……

 ならなんで、うちの妹に執着するんだ?

 オレは首を傾げるしかないのだった。

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