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[3−16]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第16話 手の掛かる弟って感じはするかな

「へぇ……いろいろ大変だったんだね」

 ミアの家に招かれてお茶をすすりながら──アルデオレは、衛士追放になった経緯を説明した。もちろん、ティスリと戦ったことは伏せた上で。

 そうして一通りの説明を聞き終えたミアが、オレに言ってくる。

「それで……新しい仕事がティスリさんの護衛なのね? そしてティスリさんは、農業視察や体験をするためにうちの村に訪れたと」

「ああ、そういうこと」

「ふぅん……そう……でも護衛って、アルデ一人だけなの? アルデが強いのは知ってるけど……」

「なんかそれ、ユイナスにも聞かれたが……そうだよ。ま、いろいろ理由があってオレ一人で大丈夫なんだ」

「……ユイナスちゃんは、護衛をやりきれるかどうかの心配をしていたんじゃないと思うけど……」

「じゃあなんの心配をしてたんだ?」

 それは、ここに来る前にティスリにも言われたな。なんか、オレだけが気づけていないみたいな言い方をされるのは釈然としないな。

 だから率直に言って欲しいのに、ミアもなぜか言葉を濁した。

「それはその……あ、ほら。ティスリさんは政商のお嬢様なんだし、身の回りの世話をしてくれる侍女だって必要なんじゃ……」

「まぁ、そう言われてみればそうかもだけど」

 よくよく考えてみたら、王侯貴族って、自分の世話を侍女や執事にやらせてるって話だもんな。それこそ朝起こしてもらうところから始まって、着替えも付き人がいないとできないとか。食事はもちろん専属料理人が作るわけだし。オレたちからしたら信じられないけど。

 でも今までの旅路で、身の回りの世話をティスリが要求してきたことはなかったし、困っている様子もなかった。だからオレもまったく気にしてなかったんだが。

 なのでオレがティスリを見ると、ティスリは、にこやかな笑みをミアに向けたところだった。

「ご心配なさらなくても大丈夫ですよ。わたしは、身の回りのことは自分でできますから」

「そうなんですか?」

「ええ。政商と言っても平民ですからね。いざというときのため、なんでも一人でできるよう教育を受けています」

 いやお前、元はゴリゴリのお姫様だろう? オレは思わず突っ込みたくなったが、そこはグッと我慢する。

 当然、王女殿下だったティスリが、身の回りのことを自分でやれるような教育なんて受けているわけがない。ということは独学で身につけたのか、あるいは侍女にやってもらっているうちに自然と覚えたか、どちらかなのだろう。ティスリは紛う方なき天才なわけだし、その程度は造作もないはずだ。

 それに『いざというときのため』というのは本心なのだろう。まさにその『いざ』となったこの旅路では、身につけた生活スキルが活きているわけだ。

 まぁたまに、食べ歩きが恥ずかしいとか、ちょっと意外な反応を見せるときもあるけど、その程度は大した問題でもないしな。

 そんなことを振り返りながら、オレはミアに言った。

「そういうわけで、ティスリに侍女はいらないし、本来なら護衛も必要なさそうだけど……まぁ一人旅というのは寂しくもあるしな」

 オレがそう言うと、ティスリがちょっとムキになってくる。

「さ、寂しがってなどいませんよ……! あなたを護衛に付けているのは、ひとえに、普通の暮らしを間近で感じるためなのですからね?」

「あー、はいはい。分かった分かった」

 ここで言い合いをする気のないオレは、ティスリを適当になだめてから、再びミアに向き合った。

「まぁとにかくだ、ティスリは見聞を広めるために旅を始めて、それにオレがお供しているってわけだ」

「そうなんだ……」

 話が一段落して、なぜか、ミアの顔が一瞬曇った気がした。

 しかしそれはオレの思い過ごしだったのか、ミアはティスリに笑顔を向ける。

「そういうことなら──改めて、本当にありがとうございました、ティスリさん。失業したアルデを拾ってくれて」

「え、ええ……ですが、お礼を言われるほどでもありませんから……」

「そんなことないですよ。あ、けど、わたしがお礼を言うのも変ですよね」

「いえ別に、変というわけではないですけれども……」

「アルデとは、生まれたときから一緒に育ってきたから、家族のように感じられちゃって」

「そ、そうなんですか……?」

「ええ、そうなんです。いつも心配をかけられてばかりなんですよ」

「おい、ちょっと待て」

 変なことを言い出したミアに、オレが待ったをかける。

「いったいいつ、オレがお前に心配をかけたんだよ?」

「いつもだよ、いつも。例えば、まだ小さいころから森に立ち入って、一人で狩りをしようとするし」

「ちゃんと狩りできてただろ」

「普通、大人でも一人で森には入らないよ。動物だって危険なのに、魔物でも出たらどうするつもりだったの?」

「この辺に魔物なんて出てこないし、出てきたとしても逃げればなんとかなるさ」

「ほら、そういうところが心配だったの」

 ミアはため息をついてから、再びティスリを見た。

「それにアルデは、戦いは大人顔負けでしたけど、勉強はぜんぜんダメで……」

「ああ……それはそうでしょうね」

「おいティスリ、なぜそこで納得する?」

「だってあなた、衛士受験で覚えたはずの法律を、綺麗さっぱり忘れたじゃないですか」

「き、綺麗さっぱりは……忘れてない……ぞ……?」

「ちょっとアルデ、それ本当?」

 すると今度はミアが言ってくる。

「衛士受験の勉強、わたしが散々付き合ってあげたじゃない」

「そ、それは感謝してるし、ぜんぶ忘れたわけじゃ──」

「なら、貴族法第一条第一節を言ってみなさい」

「え……!? な、なんでこんなところで法律の復習なんだよ!」

「覚えているならすぐ言えるでしょ」

「い、いやだから、今は関係ないだろ!? そもそも衛士は追放クビになったんだし!」

「当時からぜんぜん関係ないわたしは、未だに覚えてますケド?」

「う……そ、それは……」

「独学じゃ分からないっていうから、わたしが理解して、それをかみ砕いて教えてあげたのに」

「だ、だから感謝してるよ……」

「でも綺麗さっぱり忘れたのよね?」

「わ、悪かったってば!」

「まったく……そんなんで心配かけてないとか、どの口が言えるのかな?」

「ぐぐ……」

「衛士になってからだって、どうせ貴族達の反感を買って追放クビになったんでしょう? アルデは昔から、処世術というものを知らないんだから」

「それは、同じ平民のお前だって似たようなもんだろ……!?」

「ザンネンでした〜。うちは村長をやってるから、子供の頃から、貴族相手の立ち振る舞いは熟知してるんですぅ。だから、貴族相手の対応だって教えたじゃない。合格した途端にそれも忘れて、気ままに過ごしてたんでしょう?」

「ぬぐぐぐ……!」

 オレが言い返せないでいると、ミアは、困り顔が半分、してやったりが半分という感じでティスリを見た。

「というわけで、アルデには昔から心配かけられてきたんですよ」

「そ……そぉですか……」

 ティスリのほうはと言えば、笑みを浮かべてはいるが、なぜか口端を引きつらせていた。

 今さら隠す気もないが、表情を引きつらせているのは──オレはいささか物覚えが悪いので、ティスリはその事実に引いているということか? それこそ、今さらな気もするが。

 そんなティスリが、ミアに言った。

「アルデとミアさんは……とても仲がいいんですね?」

「そうですか?」

「ええ……それはもう……まるで姉弟みたいな?」

 ティスリが、どうしてか張り付いた笑顔でそんな例えをする。

 するとミアは「ああ……」と声を出した。

「まぁ確かに、アルデは、手の掛かる弟って感じはするかな」

 その台詞に、オレは「オレの方が生まれは早いっつーの」と内心で愚痴るが、言葉にするのはやめておいた。それをキッカケに、またぞろ黒歴史を明かされては敵わない。

 オレが言葉を飲み込んでいると、ミアが話を続ける。

「でも──」

 そして少しうつむいて、ミアがぽつりとつぶやいた。

「──血は繋がっていないけど」

「………………え?」

 そんな当たり前の言葉に、ティスリの表情は強張ったように見えた。

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