naoto

まだ見ぬ感情に出会うために歩いて旅して書を積んで。 世界は広い。

naoto

まだ見ぬ感情に出会うために歩いて旅して書を積んで。 世界は広い。

記事一覧

ありあまるほどの富

ぽたり。ぽたり。 汗はとめどなく流れ続けては、土埃が舞う乾燥した大地に滴り落ちていった。 まるで身体中の水分を吸収されているかのようだ。 熱波の到来によって40℃…

naoto
2週間前
4

砂漠が綺麗なのは

"砂漠が綺麗なのは、どこかに井戸を隠し持っているからだよ" (星の王子さま/サン=テグジュペリ) という一説がしばらくの間、僕の関心ごとの一つだった。 PCTを歩き始めて…

naoto
2週間前
12

歩幅を見失わないように

pacific crest trailのスタートまで遂に1ヶ月を切った。 最初にこのトレイルを歩くと心に決めたのが2年前。 長かったような、短かったような。 色んなことが起こったし、か…

naoto
4か月前
10

旅の終わりに

歩き終わったのは確か午前10時ごろだったと思う。 1200kmぐらい歩いて最終目的地の勿来(なこそ)海岸にたどり着いた。 この旅最後の宿として予約した民泊のチェックインまで…

naoto
8か月前
13

塩1トンを味わうということについて

 僕の知っている限り、歩き旅という旅の仕方はあらゆる旅の中で一番ゆっくりと時間が進む。 車や電車に乗ってしまえば一瞬で過ぎ去っていく当たり障りのない景色たちや声…

naoto
11か月前
11

旅の中に入った日

2023年5月9日、僕はみちのく潮風トレイルと言う青森県八戸市から福島県相馬市までのみちのく地方沿岸をつなぐ1000km超の道を歩くためにわざわざ仕事を辞めてまで青森県に降…

naoto
1年前
16
ありあまるほどの富

ありあまるほどの富

ぽたり。ぽたり。

汗はとめどなく流れ続けては、土埃が舞う乾燥した大地に滴り落ちていった。
まるで身体中の水分を吸収されているかのようだ。

熱波の到来によって40℃近くまで気温が上がっている砂漠を歩き進めて4日が経過した日のこと。

柔らかい起伏を描きながら無数に折り重なる茶褐色の雄大な山脈に、その日も際限なく広がる一点の澱みもない群青の空が覆い被さっている。
立っているのも辛いような灼熱の中で

もっとみる
砂漠が綺麗なのは

砂漠が綺麗なのは

"砂漠が綺麗なのは、どこかに井戸を隠し持っているからだよ"
(星の王子さま/サン=テグジュペリ)

という一説がしばらくの間、僕の関心ごとの一つだった。

PCTを歩き始めて12日目のこと。

僕は砂漠の真ん中で井戸を見つけた。

今までの人生で経験したことのない、すべての生命を拒絶するかのような乾燥しきった荒漠な褐色の世界は、毎日僕を感動させると共に確実に僕をすり減らし続けていた。

水や食料は

もっとみる
歩幅を見失わないように

歩幅を見失わないように

pacific crest trailのスタートまで遂に1ヶ月を切った。
最初にこのトレイルを歩くと心に決めたのが2年前。
長かったような、短かったような。
色んなことが起こったし、かけがえのない出会いも数多く経験した。

自分で選んだ生き方なのに、目まぐるしく変わりゆく環境に心が置いてけぼりにされそうになったこともあったが、今の仕事も数日のうちに終わる今になって徐々に旅が始まる実感が湧いて来つつ

もっとみる
旅の終わりに

旅の終わりに

歩き終わったのは確か午前10時ごろだったと思う。
1200kmぐらい歩いて最終目的地の勿来(なこそ)海岸にたどり着いた。
この旅最後の宿として予約した民泊のチェックインまでにはまだまだ時間があったので、近くの文学資料館に行ったり無限に寄せては引いていく波を眺めて時間を潰していた。

こんな旅の方法をとっていると暇を潰すことを特別に苦を感じることもない。

時間が来るとチェックインと風呂を済ませて事

もっとみる
塩1トンを味わうということについて

塩1トンを味わうということについて

 僕の知っている限り、歩き旅という旅の仕方はあらゆる旅の中で一番ゆっくりと時間が進む。
車や電車に乗ってしまえば一瞬で過ぎ去っていく当たり障りのない景色たちや声を聞くこともない地元の人たちも、徒歩旅行者にしてみればじっくりと時間をかけて付き合っていく愛おしい景色で、いつまでも心に楔を打ち続ける時のかけらたちの一つだ。
そんな歩き旅の緩やかな時間のながれに魅了されて歩いているわけだが、歩き旅というも

もっとみる
旅の中に入った日

旅の中に入った日

2023年5月9日、僕はみちのく潮風トレイルと言う青森県八戸市から福島県相馬市までのみちのく地方沿岸をつなぐ1000km超の道を歩くためにわざわざ仕事を辞めてまで青森県に降り立った。

なんでそんな事をしようとしたのかというと、それは僕にもわからないとしか言いようがない。
ただ仕事をしている時は、好むと好まざるに関わらず狭い柵の中に入れられて
「あなたはこの中で人生を終えてください。」
と言われて

もっとみる