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旅の中に入った日

2023年5月9日、僕はみちのく潮風トレイルと言う青森県八戸市から福島県相馬市までのみちのく地方沿岸をつなぐ1000km超の道を歩くためにわざわざ仕事を辞めてまで青森県に降り立った。

蕪島にある北の起点。


なんでそんな事をしようとしたのかというと、それは僕にもわからないとしか言いようがない。
ただ仕事をしている時は、好むと好まざるに関わらず狭い柵の中に入れられて
「あなたはこの中で人生を終えてください。」
と言われているようで窮屈極まりなかったし、これは自分の人生ではないと言う確信があった。

そしてその確信の後に、果てしない距離を歩いて旅する"ロングディスタンスハイカー"なる生物がいる事を知ってしまったのが最後、いつの間にか歩いていた。

古今の文人墨客に想いを馳せてみたりする。



「歩かなきゃ。歩かなきゃ。」
「旅しなきゃ。旅しなきゃ。」

最初の200kmぐらい、僕の頭の中はこんな感じだったと思う。
もちろん表面的な感情では東北の沿岸を渡り歩く感覚を楽しんでいたけど、焦燥感のような物が底部で渦巻いている感覚が拭えなかった。
何にも縛られたくないと言う感情に縛られてて、
なんかこう、目を開いてなかった感じがする。

基本こんな感じ。迫力がすごい。
あの穴から朝日見たら綺麗らしい。

そんなもったいない旅をしてしまって多分5日目ぐらいだったろうか。
前日に道中で行き合ってしばらく一緒に歩いたおっちゃんと、翌日に温泉でばったり会った。
とても気の良いおっちゃんだったので会話は弾み、僕らの声は浴場にこだました。
ひとしきり話し終わった後、今度は落ち着いたトーンで、
「人生ってさぁ、旅だよねぇ〜。」

その時のおっちゃんの満ち足りた表情が今でも忘れられない。
汲めども汲めども枯れない泉を見ているようで、内から豊かさが溢れ出してるのが分かった。

そうか、まぁなんか、旅なんだろうな、人生って。知らんけど。

Nothing ever becomes real till it is experienced .
Even a proverb is no proverb to you till your life has illustrated it.
(キーツ)

たとえ使い古されたフレーズだろうが諺だろうが、経験しなきゃ自分のものじゃないし、言葉はただ発声されているだけ。

僕はこの日、紛れもなく"人生は旅"という言葉を経験して、そして旅の中に入った。

ついでにマダニにやられた☺︎

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