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Hello, egg cream

夫がずっと食べたがるものがある。

それは、彼の小学校で給食に出てきた「たまごくりーみー」というおかず。

たまごくりーみー。

なんとも愛らしい名前である。
しかし、彼と同年代のはずの私は、たまごくりーみーなるものを食したことがない。
見たこともない。

インターネットでいろいろと卵でクリーミーなおかずを検索してみたが、どれも夫に言わせれば「似て非なるもの」らしい。

ゆで卵を潰して、タマネギと和え、塩こしょうで味付けしたたまごコロッケなんて、すごく美味しそうだなあ、と思うのだが、揚げてあるところ以外は全然違うのだそうだ。

たまごくりーみーは、ぶつぶつしていなくて、滑らかで、この世のものとは思えないくらいに美味なものらしい。

そんなにすごいものなら私も食べてみたいものだが、いかんせん、夫自身が正確な形状を忘れてしまっており、聞き取りだけでは再現が難しそうである。


ていうか、そもそも、そんな食べ物ほんとに実現するの?
夫の妄想なんじゃないだろか。


そんなことを思いながら、はや、3年。
昨日、私はついに読んでしまった。

雪舟えま著、カシワイ挿画『ナニュークたちの星座』を。

刊行されたのは2018年だけど、つい最近買った。

雪舟さんの作品を初めて読むなら、どれがいいだろうと思い悩んで選んだ一冊。
結果、とてもハマった。

物語は、ナニュークと呼ばれるクローンの少年たちが、ある特殊な石を採掘している場面からはじまる。石は、子どもの目にしか見つけられないために、成長したナニュークたちはそれぞれ違う仕事に就くことになっている。主人公のナニュークは、採掘場を卒業したあと、突然姿を消した仲間のクローンを探す旅に出る。カシワイさんの絵の清々しくて切ない空気感と雪舟さんの文章がマッチして、本当にいい本でした。
表紙の青さもいい。ラピスラズリを少し薄めたようなきれいな色で。

話は飛んだが、町に出てきた主人公が最初に就くのが、パン職人の弟子としての仕事なのだ。
そして、驚くべきことにその店の名物は「たまごクリームのパン」…!!

そうか・・・夫は・・・ナニュークだったのか・・・。
前々から、なにか、ほかの人とは違うところがあると思っていたけれど、まさか、特殊な石を発見するために造られた元・クローンだったとは・・・。

合点がいきました。

物語の中では、主人公はなかなかたまごクリーム作りを任せてもらえないのだが、その味が一口で大好きになるのだ。
たぶん、夫のように。

麺麭につつむもののうち、店の名物のたまごクリームだけはまだ作らせてもらえない。それはとても繊細な味わいの甘く黄色いクリームで、私も、それを教わるのはまだ先にとっておきたいような、しばらくたいせつに想っていたいような味のものだった。
「ナニュークたちの星座 p.50」より

たいせつに想っていたい味のクリーム。
素敵すぎる。
私も、だんぜん食べたくなってきた。

夫はナニュークだったときのことが忘れられないのかもしれない。
それはとても淋しいことだろうな。

たまごクリームは小鍋で焦がさないようにつくるらしいんだけれど、レシピまでは公開されていなかった。

残念だ。

いつか、この宇宙のどこかにある植民星に行くことが叶うなら、私はまず、最初にたまごクリームが名物のパン職人を探さないといけない。



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