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Power Dressing(パワー・ドレッシング)

英国の首相(2023年9月現在)リシ・スナーク。2020年のコロナ禍でのロックダウン中に、メディアへの露出が増えた頃から、どことなく違和感が。私の触覚が、ピンと動く瞬間。
メディアの中の彼は、白いワイシャツの袖を肘まで巻き上げて、艱苦奮闘のオーラを醸し出していた。ほら、エプロンしてウロウロしているとそれだけで働き者っぽい感出しているのと似ている感じ?学生の頃、大勢で集まって鍋パーティーなどワイワイやっている際に、準備や洗い物とか手伝いもしないくせにエプロンをして男子に女子力をアピールする女子が必ずいたでしょ?あれあれ。あ、これはあくまでも私の過去の過去の経験から来た、偏見だからね。

メンズウエアの批評家デリック・ガイによると「スナーク首相の短過ぎるパンツスーツの丈については、巷で数々の都市伝説が出回っているけど、私の見解は、単にトレンドに敏感なだけではないのかな。ただ、ちょっとばかり時代がズレているのだけどね。」と、皮肉っている。スナーク首相のスーツはHenry Herbertのお誂えで、お値段は3,500ポンド(約642,500円 2023年9月現在)だとか。ロンドンのHolborn地区にあるHenry Herbertは数々の政治家も利用しているテーラーで、伝統的なSavile Row通りのテーラーより少し若い層の顧客が多いという。
英国ロックダウン中に財務相だった現英国首相スナークは、雇用維持の経済政策で、一時絶大な支持を受けた。紆余曲折はあったものの、今ここに英国首相として、この5月には日本でのG7サミットにも参加。はて?やっぱり。お決まりの控えめに光らせた濃紺のスーツだ。どぉーも気になるな、そのツンツルテンの鯖スーツ姿。ジャケットの袖が短すぎるとか、座るといつも足が出ているとか。一説によると彼は身長168cm と比較的低いので、ちょっとでも長身に見せようとする技だという人もいる。

リシ・スナーク首相


英国の階級社会が色濃く反映されていた頃は代々父、息子と代々同じテーラーを使い、シャツ、スーツやアクセサリーのこまごまとしたことまで用途に合わせて、助言そして身体に合わせて作っていたのは容易に想像できる。ガイの見解は、昨今のテーラーは影で政治家を支えるテーラーとしてではなく、政治家を一個人の顧客、すなわち商売優先だと嘆かわしく思っているようだ。政治家を真の意味で支えることができる古参のテーラーと信頼関係を結ぶのは今の世の中、容易くなさそうだ。21世紀とはいえ、目に見えない階級判断レーダーは色濃く残っているここ、英国。伊丹十三の言葉を借りるなら、英国風お洒落とは「絶対に華美であってはならない。斬新奇抜であってはならない。独創的であってはならない。個性的であってはならないのです。そんなものは独りよがりに過ぎぬ。」(ヨーロッパ退屈記/新潮社 1965年 より抜粋)
そう、細身スーツはしかるべき地位のある人にとっては、とても痛いスタイルなのである。

政治家にとって、事、インターナショナルな場面ではスーツは鎧だ、一世一代だ。皆さんはPower Dressing(パワー・ドレッシング)という言葉をご存知だろうか?ドレッシングと言っても、サラダにかけるやつじゃないよ。要するにヤンキーで言う所の特攻服みたいなもんかな。(ごめん、例えが古くて)Wikipediaでは『社会人がフォーマルなビジネスの場で仕事がすこぶる出来る人に見られるような服装』とある。Power Dressingとうい言葉が初めて使われたのは、書籍 'Dress for Success' (John T. Molly 1975)。続いて、'Women : Dress for Success' (John T. Molly 1977)当時、数々のビジネスや政治の場面で女性達の活躍が目立って増え始めた。伝統的な男性社会の中で、女性として権威と尊厳得て、円滑に業務遂行の手助けとしてスカート・スーツが書籍の中で奨励された。

レーガン元大統領 と サッチャー元首相

1920年代に、戦後の女性のライフスタイルの即してデザインされたシャネルスーツ、とても画期的だった。そして1970年代に入り、コンサバティブなスタイルのPower Dressingが広く巷に広がりを見せた。典型的なスカート・スーツで肩パッド入りのジャケット、膝丈スカート、ロールネックのセーターもしくはシルクなどのソフトな素材で首回りにリボンというものだ。決して、胸回りを強調してはいけないのだよ。女性政治家のPower Dressingのお手本は、何と言っても英国前首相Margaret Thatcher (マーガレット・サッチャー)。彼女の定番は、肩パッド入りのスーツ・スカート、ソフトなリボンの首回りのブラウスに真珠のネックレス。そしてエリザベス二世もご愛用だった、Launerのハンドバッグ。世界の女性政治家のお手本となったと言って過言では無いだろう。アメリカでは、Hillary Clinton (ヒラリー・クリントン)、日本では、おタカさんこと土井たか子、小池百合子もそんな感じだね。現在では、Power Dressingという言葉も廃れて、今やDress Downの時代。ただ欧州中央銀行総裁、Christine Madeleine Odette Lagarde(クリスティーヌ・ラガルド)はきらりとセンスが光るよねぇ。好きだなぁ、こういうの。

クリスティーヌ・ラガルド

衣食住と言う言葉が日本にあるけれど、が我々世界のパワーバランスに微妙に、いや、心理的にすこぶる影響することがこれで判るよねぇ。
広い国土と多くの人口、豊かな天然資源を持つBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が経済力をつけ、世界的にあらゆる面で影響力が大きくなっている昨今、果たして日本はどうだろう? 今更ながらだけど、弱体化した経済に伴い日本の世界的な役割もひょろひょろ。ちょうど数ヶ月前には第49回G7サミットが広島県で開催されたから、ちょっと公式ページ見てみたよ。
"世界の注目が集まる本年を通じて、日本各地が織りなす景色や伝統文化、食、そして最先端の技術まで、わが国の魅力を世界に向けて発信する機会が到来します。"
とある。ムムム。いまだに世界にアピールせなばならぬ程、日本はG7各国から認知されていないと思っているのか?はたまた自虐ネタか?
だったらぁ、その千載一遇の機会に「ワシらは、ワシらの考えがあるけんのぅ。原爆、二回も落とされとるじゃけー。」っていうところをアピールできるいい機会じゃないのか?
つい先日のG20で、ホスト国であるインドのNarendra Damodardas Modi 首相(ナレンドラ・ダモダルダス・モディ)だって、堂々とクルタを着ているではないか!そして、ロシアと東欧諸国との橋渡しを上手く成し遂げたと報道されているよ。

スナーク首相とモディ首相

歴史家のTim Newarkは有史以来、政治家の中には自身のマニフェストや演説よりもその服装や身のこなしでカリスマ性を築いた人たちがいたと明記している。わかりやすく言えば服装で値踏みさ・れていると言うこと。ウィンストンチャーチル(Winston Churchill)は伝統的なSavile Row通りのテーラーで丁寧に仕立てられたスーツ、ボーラーズハット姿に、葉巻という出で立ちは、ギャングスターそのもの。一説によると、かのヒットラーもギョッとしたとか。最近で言うなら、英国をEU離脱へと導いた元UKIP党首(イギリス独立党)Nigel Farage(ナイジェル・ファラージ)はカバードコートを利用して、自分は労働者階級の代弁者という匂いを漂わせ、庶民誘導を上手く成し遂げた。(カバードコートとは19世紀に貴族の乗馬用外套着として着用されたものが後に労働者階級のユニフォーム的に広く着られるようになった。ノッチ付きの背広襟の外套のこと)。

元UKIP党首ナイジェル・ファラージ カバードコート 

アメリカ合衆国建国の父Benjamin Franklin(ベンジャミン・フランクリン)を見よ!国の為、カツラをかぶることが礼儀であったフランスで、それをガン無視してフランス議会の度肝を抜くマレット・ヘアー(Skullet)でフランス議会への外交交渉に奔走し、フランス王国の独立戦争への協力・参戦と、他の諸国の中立を成功させた実績を!
「つかみは、オッケー!」ってやつよ。使えるものはなんでも使え、ってか!

ネットのニュース動画で、G7会場が映し出されている。
そこには紋付袴姿の岸田首相。公用車は御馬でサミット会場で登場。護衛の足軽たちの目も光る。えー、うっそ!


あれっ? 嗚呼、夢かぁ。



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