あなたは、あなたの道を行ける〜オルナ・ドーナト著 『母親になって後悔してる』
あなたは、女性なら避けては通れない「仕事とプライベートの両立」について、改めて考えてみたことはありますか。
「ライフワークバランス」という言葉や「女性活躍の社会」「ダイバーシティ」など、女性の社会進出を応援するような言葉がよく聴かれるようになった昨今ですが、本当のところはどうなんでしょうか。
仕事をする女性にとって、結婚とセットになって言われることは妊娠と出産、子育ての必要性だと思います。日本で生活しようとすると、結婚についての「面倒臭い問題」というのはほぼ女性に関わる問題であると言っても良いでしょう。
1 私の感じた 結婚の面倒くささ
実際に、私自身も最初にぶつかった問題は「夫婦別姓」問題でした。一人っ子の長女である私と3人兄弟の次男である夫の結婚に、どちらの姓を名乗るかという厄介な問題が生じてきました。最初入籍した時には、夫が私の姓を名乗ったのですが、その後、夫が国家資格を取得し、自営業を始める事になった時、一度私たち夫婦はペーパー離婚しています。半年後、再度入籍し、今度は私が夫の姓を名乗る事になりました。
夫婦別姓が認められるまで、こんなにも時間がかかるものだとは思いもよりませんでした。結果的には、まだ制度として認められていないのですが、日本の家族制度というのはこんなにも強固で変えられないものなのだなと実感したものです。
2 母親になることへの違和感
結婚後、しばらくすると「お子さんはまだ?」攻撃が始まります。
私自身も、結婚後しばらく子どもができませんでした。婦人科系の疾患が見つかり、それを治療しながらの勤務、そして妊活と、苦しかったことを覚えています。
そしてようやく妊娠が判明するまで、結婚から5年以上かかっていたのです。
大変な苦労をして授かった子どもではありましたが、私自身「母になること」に諸手を挙げて喜べたわけではありませんでした。
責任ある仕事の放棄、切迫流産による入院、手術と、思い通りにならないことばかりでした。
そうやって生まれてきた我が子に愛情が持てなかったというわけではありません。自分自身が「母親」としてどう振る舞えばよいかわからず、期待される「母親」になれないことのジレンマが私の心を苦しめてきたのです。
子どもが可愛くなかったとか、そういうことではなく、「母になることで、あまりにも多くのことを諦めたり、手放したりしなければいけなかった」事にあったのです。
2人の子どもを出産し、子育てを経験しましたが、その「モヤモヤ感」というのを拭うことはできませんでした。
そんな時、出会ったのが、この本です。
『母親になって、後悔してる』
非常にショッキングな題名ではありますが、イスラエルの女性研究家による丁寧な調査と多くの女性に対するインタビューで構成されている一冊でした。
3 『母親になって後悔してる』とは、どんな本か。
イスラエルの女性は、平均で3人の子を持っていると言われています。2008年から13年にかけて行われた調査をベースに、23人の女性にインタビューを行い、その時の内容がかなり詳細に記されています。
この本は6章構成になっています。
1章は、女性が母になることに対する社会的期待について。
2章は、母性を司る厳格な社会的ルールについて。
3章では、母にとって「道徳的に許されない」感情について
4章は、子どもを持つことで、女性が変容することの社会的な保障について
5章は、公の場で、母である後悔を話すことにまつわる緊張関係について
6章では、母になった後悔が示唆する2つの意味合いについて
これだけ見ると、ずいぶん難しそうに思えるかも知れませんが、一つ一つ読み進めていくと、「これはわかる!」と思ってもらえる内容になっています。
結婚=子どもを産む というのは、自然の流れの結果であるというのは、あくまで男性的な社会が求める女性像であることがわかります。
その重圧に苦しんでいるのは、日本の女性だけではなく、世界各国の女性に共通している悩みであることが明らかです。
「子どもを愛していないわけではない。」「子育てをしたことを否定しているわけではない。」でも、自分の中で、産んだ理由や産みたくなかった理由を挙げることができないでいます。
「子どもをもてば、何かが変わるかもしれない」と希望的な考えをもとうとはするのですが、産んでしまえば、「私」というのは「母親としての私」に強制的にシフトさせられてしまうのです。
「母親」というのは、こうあらねばならない、あるべきだという社会の目に私という存在が晒されるとも言えるでしょう。
特に仕事をしながら子育てをしなければならない女性は、なりたかった自分からどんどん離れていくという喪失感と焦りで苦しむ人もいます。
もし子供のいない「私」になれたのだとしたらどんな人生を送っていたのだろう。
今、ここで「母親でない私」になれたら、どんなにいいだろうか。
私自身も、何度もそう思っては、罪悪感に苛まれてきました。
そんなことを思ってしまう自分は、母親としてダメなんだろうな、母親として失格なんだろうなと、心の奥底で自分自身を傷つけてきたのだと思います。
この本を読んで、心底「救われた」思いがしました。
そう思うのは、私だけではないんだ。
子どもを持つことは、幸せなことで、そうなることが理想なんだと思い続けてきたけれど、それを否定する私がいることも、自然なことなのだ、ということを教えてもらいました。
4 これから家族を持つあなたへ
子育ての大変さというのは、経験しなければわからないことですし、子育ての価値や素晴らしさもまた、経験しなければわからないことです。
でも、その負荷が女性ばかりにかけられているとすれば、今の自由な生活を捨てて「母になる覚悟」が持てないというのも、ごく自然なことだと思うのです。
なぜなら、一度「母」になってしまったら、一生「母」であり続けなければいけないからです。それが他動的な理由であったとしても、です。
もし、あなたがパートナーと結婚を考えていたり、子どもを持つ事について考えているのだとしたら、一人で考えるだけではなく、パートナーと一緒に真剣に考えてみてください。父親としての役割を認識し、その務めを果たそうとしているパートナーなのかどうかを冷静に判断してみてください。
そして、もしあなたが「母親」になった時、「母でない私」に戻れる時間を与えてくれそうな相手なのかどうかを見極めて欲しいと思います。
結婚が幸せのゴールではないし、出産が幸せのゴールでもありません。
むしろ、その後の時間を、どう積み重ねていくのかが幸せになれるかどうかの試金石なのではないでしょうか。
結婚前にこんな本を読んでしまったら、子どもを持つことが怖くなってしまうかもしれませんが、「親になるということ」を真剣に考えることもとても大切なことだと思います。
あなた自身が、あなたの人生を決める権利があります。
女性であっても、男性であっても、同じように自分を大切にして、豊かに生きる権利があるはずです。
あなたと、あなたのパートナーが、協力しあって、納得のいく人生を送っていけるように、今一度、真剣に向き合って、話し合ってみませんか。
きっと、この一冊が、あなたに勇気を与えてくれるはずです。
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