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Garçon ギャルソン !! 〜その4・男と女〜

ギャルソンのルール
余計なことは言わない。
軽く、さりげない空気感が一流である。

白枠のガラス扉、大理石の床、
ブルー絨毯のスペシャルロードが
天上界へ誘う・・・

階段を上がるとそこには
異空間への案内人、ギャルソンが

「 いらっしゃいませ・・・」

それが合図。
特別な時間と空間を演出する仕事師
(今までの、その1〜その3はこちらです)



レストランは、人間ドラマが生まれる場所。
特に男女にとっては、、、

A氏が、B子さんと来店し、
次の日に、C子さんと
数日後に、奥様とお子様とお越しになる。

でもルールを知るギャルソンは

常に一期一会のリセットです。
お席の場所も、ご家族用と彼女の時用と、
それぞれに違う場所が決まっていました。

一度、レストラン入り口に
山盛りの塩が、
きっちり置かれておりました。

日本料理では玄関に盛り塩をして
お清めをする習慣がありますが・・・

誰の仕業?
こんなことするのは男ではない。こわっ!

オールバックに口ひげで、
ひょうひょうとした総支配人

どなたか見当がついたようで
総支配人が、自ら、お掃除♫

うちはフレンチですからね〜、
盛り塩、掃除しちゃいました〜!と
れれれのおじさんでした

ここのレストランには
ドレスコードがありました。

水着、ビーチサンダル、
男性の袖なしシャツと半ズボンの禁止

海が近い立地でも、品格を誇る店として、
同じ空間を共有する
お客様同士への配慮です。

フロントは、
ドレスコードに反する服装のお客様に、
やんわりとそれを伝えるのが難しい

フロント担当のマミさんは、
お客様をチラッと上から下まで見て
笑顔で、お着替えをお願いするのですが、

目が笑ってなーい!

これはマズイだろ、という態度を
私は見たことがあります、、
下手をするとお客様は、
高飛車な店だ!と
二度ときてくださいません。

さて、独り身にとって、
ヒマと、いい景色は、毒です。
ロクなことを考えません

ディナー開店前の数分、私は毎日、
窓の外にある
美しい夕暮れを見ていました。

10月半ば、午後5時半、
窓の外では、空と海が、
夕陽の柿色から、紫のグラデーションを創り、
海岸線は、車のライトが赤と緑に点滅する

クリスマスツリーのよう。

自分はなぜ、
ここで、
この綺麗な景色を楽しまず、

他人の世話ばかりしているの。。。

私だって、ちょっと前には、
あれが、これが…と
過去を引きずり出す

自分で決めたんでしょ!
ばか、おりーぶ!!

私は悟りました。
人は、自分が幸せではないとき、
幸せな人を見るのは賭けである。
吉と出るか凶と出るか


わたしは試されているの〜〜〜?

ホールのやや中央よりに
大理石の作業台

ここで人数分のバケットを切り、
バターを運ぶのが私の役目。

私は、ちょっと
ぽけーっとして

テーブル番号と人数を告げられているのに、
その用意が出来ていなかった!

なんだよ、もういい、と言われ、
ギャルソンは自分でバケットを用意する。

「すいません・・・」

作業台の向かい側に立ち、
私が叱られたのを見ていた
ギャルソンのトップである
メートルの柴さん
は、

視線をホールのお客様に向けたまま、

どう、この仕事、体、きついでしょう

と私に話しかけてきました。

いえ、ぜんっぜん、大丈夫です!
 私、体育会系なんで


と、次のオーダーに備えて、私は
バケットを切りながら元気に答え、
ギャルソンが、すぐにそれを取りに来る、

お願いします!と私は声をかけ、
また新たなバケットを切る。

「頑張るのが得意なんだろうけど、

 泣きたい時は、泣いた方がいいよ」

「へ・・・?」


この言葉が、もうダメでした。
バケットが、ゆらゆらゆれだす・・・。

不覚にも涙がじゅわ〜と

柴さんは、お客様の方を向いたまま、

「10分くらい休憩しておいでよ」
と、言ってくれました。

男性に対する好みが、単純で簡単な私は、

柴さんを好きになりました(..*▱*..)

賄いが、柴さんの大嫌いな豆腐メニューの時、

野沢菜の漬物と沢庵とザーサイを刻んだ
漬物の盛り合わせを、小皿に山盛りにして
特別です♫って、ご用意
したり、

賄いで出される、豆腐代わりの魚の粕漬け
“カスっちょ”の焼き色がイイのを選んだり

ペーペーの私にできることは
それくらいでした。

するとある日、幸運の兆しが・・・

このふた月、賄いに出た、
麻婆豆腐、湯豆腐、揚げ出し豆腐、
すべてをパスした柴さんが、

なぜ、豆腐をそれほどまでに、嫌うのか
ついに、その理由を教えてくれたのです!

それは柴さんの子供時代の
寂しい思い出と重なる話でした。

「不思議だろ、あんなに柔らかいのに、
 いい思い出はないんだからな」

自分の胸のうちを聞かせてくれるなんて。

神殿のようなレストランの任務を終え

柴さんは、下界へ降り、裏通りの
ブロック塀に沿った細い道を、
賄いへ行く

肩が触れ合う距離で
柴さんと並んで歩く私


すでに柴さんの心の古傷を
聞いてしまった仲、と、
ふたりの未来を見た思いがしました!

肩が触れる、というのは実際は

肩より下、私の二の腕に、
柴さんの肩が来ました。

私は高めのヒールを履けば
180に近い大女。

「いいなあ、おりーぶさんは。
大きくて、羨ましいよ」

そう言って笑う柴さんの表情にも声にも
イヤ味もにごりもない。

いいんです!
大女の悲哀は、学生時代のフォークダンスで
イヤ!というほど経験済みです、
この身のさだめと受け入れてます、

身長差なんて、そんなものは、
横になってしまえば、

どうとでもなることです!

な、なのに!
そのあと、私のアニキ分、垣田君から、

………柴さんには彼女がいるぜ………

と聞かされたのです。

それも、あのフロント、マミさん

エエエエ〜ーーーーー?!!!

半ズボンのお客様を
上から下までチラ見して、嘘の笑顔をみせる
フロントの鉄女。そしてバツイチ、子持ち、
年は私と同じ。

レストランに女性が3人、いや4人いました。

フロント1人、ホール2人(私も入れて)
洗い場1人(還暦越え)


優しい男は、なぜ?
7割5分?…の、いい女を捨てて
2割5分?…の、女に好かれない女
を選ぶんですか?!

優しいが故に、自ら重荷を背負う
犠牲心を愛と取り違えているのですか?!

それとも、
頭ではどうにもならない

前世からの因縁
男女の中にはあるのですか?!

きっと、全部なんだ、
と自分に言い聞かせ、

私は研修初期に芽生えかけた、
ほのかな恋の芽を
むしりとりました。

不思議なもので、それからは、
男女の幸せを目の前にしても、

所詮、すべてはハタから見えること・・・

きっとそこには、
越えるべきお題があるに違いない、フフ


と、独断の恋の免疫力を持つ女へと
向かい始める
のでした。

お客様の思い出や恋を盛り上げる・・・
お手伝いをするギャルソンたち。
今回もお読みいただき
ありがとうございました。



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