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観てきた!「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」at パナソニック汐留美術館

工芸好きなわたしは、「至福」「眼福」という言葉では全くもって足りないくらいに、心満たされた展覧会でした。
良い意味で、かしこまりすぎずに、本当に素晴らしい作品の数々を目の前でじっくり鑑賞できます。これはできれば会場で、実物を観てぜひ実感して驚いてほしいです。

場所:パナソニック汐留美術館(東京・汐留)
会期:2020年7月18日(土)〜9月22日(火・祝)
時間:10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館:水曜日
※事前予約不要/混雑時は入場制限あり

今後の巡回予定:
みやざきアートセンター(宮崎市)2021年3月20日(土・祝)~5月9日(日)
アサヒビール大山崎山荘美術館(京都府乙訓郡大山崎町)2021年9月18日(土)~12月5日(日)


◎観に行こうと思ったきっかけ

開催を知ったのは、どこかの美術館でフライヤーを手にして、だったかと。もともと工芸が好きなことと、作品のファンである新里明士さんが出展されること、新里さん以外の作家の方々の作品もぜひ観たい!と思い、開幕を楽しみにしていました。

ちなみに、わたしと新里さんの作品との出会いはこちらに(長いです)。

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◎どんな展覧会?

工芸というジャンルにとらわれることなく、素材を用い、技法を駆使して工芸美を探求する本展の出品作家の取り組みは、人と物との関係を問い直すとともに、手仕事の可能性の広がりを予感させます。
本展覧会では、日本の美意識に根ざした工芸的な作品によって、いま最も注目されている1970年以降に生まれた作家12人を紹介します。
特設サイトより)

展覧会のタイトル『和巧絶佳(わこうぜっか)』にちなんで、

日本の伝統文化に根ざした工芸美 「和」
手わざの限界のその先にある工芸美 「巧」
素材が生み出す工芸美の可能性 「絶佳」

の3つの章に分かれつつ、12名の作家の方々一人ひとり、作品とご本人に関する解説パネルが展示されています。

展示室内は写真撮影OKです!現代作家の展覧会ならでは、でしょうか。
ぜひお気に入りの作品、心動かされた作品は、カメラにおさめてください。
小さめサイズだったり、繊細なつくりの作品が多いので、超ズーム&やや暗めでもきれいに映る機材をお持ちなら、ぜひご持参を。

ちなみに、東京会場のパナソニック汐留美術館は、Panasonicのショールームなどが入る「パナソニック東京汐留ビル」のワンフロアにあり、そこまで広い美術館ではありません。

が、12名いらっしゃるので、展示品数は114とボリュームあります。
じっくり観始めたら時間があっという間に過ぎますので、お時間に余裕を持ってお出かけになることをおすすめします。
当日のチケットがあれば再入場できますので、近隣のカレッタ汐留とか汐留シティセンターとかで、ちょっと休憩はさんでも良いですね。

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◎驚愕。山本茜さんの截金ガラス作品

本当はもう、お一人おひとりについて、いくらでも書けるくらいにじっくり鑑賞してきましたが、きっと誰もついて来れない文字数になりそうなので、お一人だけ・・・。
フライヤーでお名前と作品を知り、ぜひ会場で実物を観たい!と、とても楽しみにしていたのが、山本茜さんの作品でした。

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《截金硝子香合「無我」(部分)》2016 個人蔵

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山本さんは、もともと日本画を大学で専攻されていた方で、仏画の模写を通して、截金(きりかね)と出会い、独学で学び始めます。

● 截金・・・とは?
もともとは、仏画や、木などで作られた仏像の衣類を装飾する方法の一つで、金箔や銀箔を細ーく細ーく線のように切って、それで模様を描く技法です。

ぱっと見、極細筆タイプのリキッドアイライナーくらい、ほっそいほっそい筆で描いた、としか思えないくらいほっそい線が、実はちょっとした風でどっか飛んでってしまうくらい繊細な箔を切って貼って作られていて、しかもキレイな模様になってるって・・・想像つきます?
そうなんです、どんだけ繊細で細かいことするんだ!と思ってしまう手法なんです。
飛鳥時代に仏教と一緒に日本に伝わって以降、独自に発達していった技法なのですが、日本人、ほんとに手先が器用ですよね・・・

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その後、山本さんはこの截金を、単なる装飾技法ではなく主役にしたい。なおかつ、繊細でもろい截金を、なんとかして1,000年後も残るような作品にできないか、と考え試行錯誤されます。
そしてなんと、ガラスの中に封じ込めてしまう!截金ガラスの技法を思いつき、富山ガラス造形研究所で、30代の3年間、みっちりと学ばれます。

截金ガラスの作業工程は膨大で、どんなに小さな作品でも数か月、大作では数年かかりますが、模写を学んだおかげで、完成までやり抜く精神力、忍耐力が鍛えられました。

今回の展覧会の図録に、こんな山本さんのコメントが掲載されていました。

日本画も、仏画の模写も、截金も、ガラス作品も。
どの技術が欠けても、きっと截金ガラスは生まれなかったでしょう。

一つひとつ、コツコツと積み重ねてきた山本さんだからこそ、たどり着けた、截金ガラス。かつて誰も実現したことがないし、この先も、世界で山本さんしかできないであろう表現なんじゃないか、と思いました。

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《渦(部分)》2020 作家蔵

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そんな超絶大変な作品の美しさといったらもう!!!素晴らしいです!!!永遠に見つめていられる美しさでした。展示室でたぶん、30分くらいうろうろしていたと思います、わたし。

個人的にもガラス素材が大好きなので、作品を見つめていると、その中に入り込んだような気分になったし、そこには本当に見たことのない世界が広がっていました・・・


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《截金硝子長方皿 「流衍」(部分)》2014 青蓮寺

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《截金硝子皿 「花車」(部分)》2014 ギャラリーNOW


ここに載せたわたしの撮った写真では、作品の魅力の5%も伝わらないと思います。ぜひ実物を、上から横から、四方八方から、会場で見つめてほしいです。特にガラスがお好きな方はぜひ!!!観ないと後悔すると思います。

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◎そもそも、工芸ってなに?

ものすごいざっくりわかりやすく言うと、生活で使う道具・実用品を素敵にしたもの、機能性と美しさを両立させたもの、です。
絵画や彫刻といった鑑賞して楽しむ作品とはちょっと違ったものなので、応用美術って言われるんですよね。

工芸:こうげい arts and crafts
高度の熟練技術を駆使して作られた美的器物またはそれを制作する分野。応用美術,装飾美術などともいう。
用途としては衣,食,住のすべてにわたり,また材料,技術としては木竹工,金工,陶磁,ガラス,玉,象牙,プラスチック,漆工,繊維,紙,印刷などあらゆる素材を含む。(ブリタニカより)


また、『用の美(よう の び)』って言葉、どこかでお聞きになったことはありませんか?
“全国各地の名もない職人たちが作った、なんてことない食器や日用雑貨の中にも、実はみんな気づいてないけど素敵なものがたくさんあるよ!もっとこの魅力を伝えたい!!!”  と、1926年から活動し始めた、柳宗悦(やなぎ むねよし)さんらの『民藝運動』から生まれた言葉です。

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ここ数年で、ライフスタイルショップなどを中心に、”伝統工芸品”を気軽に手に取れる場所が増えてきたように思います。
また、雑誌『Discover Japan』や『&Premium』などでも、陶芸作家とうつわや、暮らしのしつらえなどなど、定期的な特集がいろいろなテーマで組まれていますよね。

そんな中で、中川政七商店さんの存在は、大きな役割を果たしてきたのではないでしょうか。運営されているWebメディア『さんち』は、多くの工芸と作り手、産地を、いつも丁寧に紹介していて、とても読みごたえがあります。わたしも読んでいて勉強になっています。

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サイト内に、工芸の種類や歴史などについてまとめられた記事が掲載されていました。お時間あれば、こちらもぜひ。


この記事の中で、工芸を取り巻くいまの環境についての一説が。

工芸品は、量産品と比べると価格が高く、一見だけでは良さがわかりづらいものが多い。特に近代以降、職能の分化が極端に進み、作る人と使う人の距離が次第に遠くなっていった日本では、使い手が共感できる、作り手の背景や想いの発信が工芸存続の鍵となる。

そうなんです。工芸品って、お値段が張るものも少なくありません。
そりゃそうです、人の手と、積み重ねた技術と時間が、手間暇がかかっていますからね。わかっちゃいるけど、なかなか手が出ない方も多いかと。

でも、ものに対する世の中の価値感がすこーしずつ変わっていってるように思うんです。数をたくさん、ではなく、作り手が見えるお気に入りの良いものを少しずつ、お手入れしながら永く大切に使いたい、という。

だからこの先の工芸のためには、しっかり、丁寧に、良さを伝え続けていくことが大切です。

わたしもまだまだ、浅い知識しかありませんが、工芸好きとして、自分が今から職人になることはちょっと難しそうなので、せめてこうやって文章で伝えたり、手に取れる範囲で購入して使って応援したりしたい、と思っています。

※近々、サイト内のコンテンツをお引越しされるそうですよ、ご参加までに。

この展覧会に出展されている作家の方々の作品は、生活の中で使って嬉しいもの、という域から、鑑賞して心豊かになれるもの、という意味でも、新しい手法や表現を模索し続けている、という意味でも、超工芸の域に達してしまってますけども・・・機械化できない、手作りの尊さにしびれるばかりですよ本当に。

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◎図録&グッズは?

展示室を出たところで、展覧会グッズや図録(¥2,500)、関連書籍や、一部の作家さんの作品も販売(!)していました。特設サイトにはラインナップが掲載されています。

個人的には、図録がとてもおすすめです。もちろん買いました。
(サンプルは、スタッフの方にお願いすると見せていただけますよ。)

展示室内で写真撮影できる、とはいえ、図録に掲載されている写真はやっぱりとてもきれいだし、作家の方々お一人おひとりのインタビュー、経歴、作品や技法の解説など、知りたい情報がコンパクトにまとめられています。
ちなみに、会場に行けない方はECで買えますよ

また、手ぬぐい愛好家として超絶嬉しかったのが、新里明士さんの手ぬぐい!!!もったいないから使えないかもしれません。とりあえず額装して飾ろうかな。いや、でも使ってこその手ぬぐいですが・・・
もう一枚買ってくればよかったかもしれません・・・

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◎まとめ

展覧会というと、作品が注目されるのは当たり前なのですが、個人的には、”作り手”がどんな人なのか、これまでどんな人生をたどってきて今に至るのか、それぞれの作品がいつどんなふうに作られてきたのか、などが、同じくらいかそれ以上に気になってしまうタイプです。

なのでこの展覧会は、作品だけでなく、作り手一人ひとりの魅力もしっかりと味わえる展示構成になっていて、とてもとても良かったです。

ものづくりをする作家の方々は、道を究めんとする求道者のようだ、と思います。やきもののように一筋縄ではいかないもの、自然の素材を相手にするような作家の方々には、特にそんな感覚を持ちます。

途方もない時間をかけて修練を積み重ね、毎日毎日ひたむきに仕事や自分自身に向き合い、やっとかたちになる作品。
展示室で目の前で対峙しながら、思いをめぐらせ想像していたら、尊敬の念しか出てきませんでした。

あぁ、それにしても工芸って、なぜこんなにも心躍るのでしょうか。
素晴らしい作家の方々と、いま同じ時代に生きていられる幸せを感じずにはいられませんでした。

作家の方々が、この先どんな作品を生み出していくのか。
ずっと応援し続けていきたいです。

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