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『たった一言でだいの大人が号泣。泣きたいのはこちらですぅーっ』



昔から思ったことを
つい言葉にしてしまう癖が抜けません。

本当のことを口にする。
見えている事実を言葉にする。
真実をあからさまにする。

それは
テレビ局のアナウンサーと言う仕事には
実は向いている性格だったのかもしれません。

しかし、
皆の前で
真実を明らかにされることで、
その人を追い込むこともあるのです。

まさに
言葉は凶器です。




読売テレビで局アナをしていた時、
深夜番組で『目指せキャスター!』と言う企画を担当しました。

MCは
南海キャンディーズの山里亮太さん。

その番組でアシスタントを
一般の方から募集する企画です。

審査員として
私や先輩アナ、後輩アナが選ばれ
アシスタントを目指す沢山の方と面接をしました。

その面接もカメラで収録します。
面接では8人くらいを選び、
その後、
みんなで合宿をして色々な試験に挑戦。
最終的には1人が選ばれます。

ある意味、
キャスター誕生のドキュメンタリーです。

面接するにあたってスタッフからは
『普通の就職面接より少し厳しめ』で
選考するように言われました。

厳しい審査にも負けない
タフな根性の持ち主を探していたのです。

後輩のアナウンサーの収録が先にあったので、
現場を覗いてみると…
彼女は敢えて厳しい言葉を投げかけたりして、
少し意地悪な感じを演出していました。

「おーっ!
 頑張っているな。
 でも、同じキャラは2人いても仕方ないから
 私は優しい感じにしようかな。」

私の面接シーンの収録の日。

色々な魅力的な方が応募してくれて、
楽しい面接になりました。

そんな中に、
とても綺麗だけれど、
少し憂いのある女性が居ました。

その女性はキャスターになりたい動機や
今までの経歴を淡々と語ります。

でも、
私には、
彼女が部屋に入って来てから
面接で話している最中も、
どうしてもひっかかる部分があったのです。

彼女は、とても綺麗で容姿端麗。
話し方も訓練すれば
良い方に変わると思われました。

ところが…

彼女は一度も
私と目を合わさないのです。

目が合いそうになると
上手くかわします。

私は何度も目を合わせようとしますが、
上手にかわすのです。

どうしても、それが気になって
面接の最後に聞きました。

「今日は来て下さって有難うございます。
 とても素敵な方で、
 やりたい気持ちも伝わりました。
 ただ気になることがあるんです。
 あなたは、この部屋に入って来てから
 一度も私と目を合わせません。
 やはり、伝える仕事と言うのは
 相手とのコミュニケーションが重要です。
 目を合わせないのには理由があるんですか?」

その後、
数秒の沈黙がありました。

そして…
な、な、なんと!

彼女は号泣し始めたのです!!!
息も荒く、泣きじゃくり始めました。

えーえーえーえーえーっ!!

なんでーーーーーー?????

周りのスタッフもビックリ。

慌てる私。

「あ、いや、ごめんなさい🙏
 いや、意地悪で言ってるんじゃないんですよ。
 素朴な疑問。
 なんで目を合わさないのかな、って。
 いや、だって人に何かを伝える時って
 目を見ると説得力が増すでしょう?
 目を合わせた方が伝わるのに
 なんで合わせないのかな、って
 不思議に思っただけなんだけどー
 いや、本当にごめんなさい🙏」

彼女のそばに行って、
私は平謝り。

何故、そんなに彼女を
私の言葉が追い込んだのかも、
その時は分からず、
ただただ彼女を励ますシーンで、
その日の収録は終わりました。

その後、
スタッフから、
『流石ですね、植村さん。』
何故か褒められる私。

その理由を聞くとスタッフは…
『彼女はキャスターになりたいんです。
 でも、きっと過去に何かあったのか
 トラウマになっていて、
 怖くて、いざとなった時に
 相手の目を見られないんですよ。
 それは彼女自身もコンプレックスとして
 ずっと抱えて来たんです。
 そこに触れられたくなかったんだと思います。』

「えーえーえーえーっ!
 そうなのー?
 なんか私、めちゃくちゃ悪い人みたい。
 私だって、普通に
 どこか別の場所で彼女に会って話をして、
 それで目を合わせられない人だったら、
 そんな踏み込んだこと聞かないよ。
 でも、喋る仕事の面接なんだよー!!」

そう主張する私にスタッフは…
『いやいやいやいや、良いんです。 
 とても良いシーンが撮れました。
 彼女も、きっと今まで、周りの人から
 その部分を突っ込まれたことがないんでしょう。
 綺麗だし、壊れそうな雰囲気だから
 誰も言わなかった。
 だから、植村さんの一言で
 自分の直面している真実に気付いたと思います。
 だから号泣したんです。
 彼女もこれから変わると思います。
 そんな彼女の人生を変える大切なシーンを
 有難うございました。
 あ、でも、ほかのアナウンサーなら
 きっと聞きませんよ。
 植村さん、天然だから、素朴に聞くけど、
 ほかの人はね…』

うーーーん、
褒められているのか、
けなされているのか。

でも、
その後、
この企画の発注は私専属になりました。

選ばれた8人の皆さんと合宿ロケにも行き…
最後の1人が選ばれ
山里さんの隣にキャスターとして立つことになりました。

今でも、
選ばれて合宿まで進んだ8人の中の何人かとは
連絡をとっています。

その後の合宿でも、
私は私で身体をはって
全身全霊で彼女たちに色々教えたり
試験をしたり…
思い出に残る熱い日々を過ごさせて頂きました。

残念ながら、
キャスターに選ばれなかった皆さんも
その後、就職試験を受けたり、
ほかの番組のオーディションを受けたり
その度に相談して来てくれます。

見事、夢を叶え
テレビ局のアナウンサーになった人も居ました。




とは言え…
素朴な疑問をつい口にしてしまう私も、
自分の言葉の切れ味の鋭さを改めて自覚。

人生を歩む上で
とても良い経験になりました。


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