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自分がものすごく小さいと感じる

「とにかく、自信がないの。自分がすごく小さく感じてしまって。」あるミーティングで、私の同僚が言いました。彼女は、何十年もアーティストが集まるグループのリーダーをしてきた人でしたが、その活動をサポートしていた団体から支援が途絶え、独立してやっていくしか道がないという状況に追い込まれました。自分はどうしてもその活動を続けていきたいが、リーダーとして一人でやっていき、人を集める自信がないという。しかも彼女の声には、「リーダー」を良しとし、「お世話係」を卑下するトーンが感じられます。「リーダー」や「お世話係」についてある固定したイメージを持っているんですね。

 彼女は、お給料の良い恵まれたフルタイムの仕事を持ち、全てがサポートされた環境でずっと働いてきていて、独立して一人でやるのは不安というのはわかります。 団体が後ろにつかないことや、自分の価値に見合うお金を払ってもらえなかったらどうしようとか、人が集まらなかったらどうしようなど、不安はつきないことでしょう。「最近、家で二人の小さい子の世話ばかりしてきて、自分がとても小さく感じるの。」を繰り返す彼女。狭い家の中で多くの時間を過ごすことが多くなって、彼女のセルフイメージは、「リーダーからお世話係」へと変化してきたようです。

これは、2020年パンデミックでロックダウン中のアメリカで、外に出られず、行動や空間に制限がかけられていた時のことです。物理的に「閉じ込められている」ことで、心理的な抑圧がかかり、彼女のセルフイメージは変わっていきました。 「お世話係」が自分のセルフイメージに定着した彼女は、自分あ「リーダー」だというイメージがどうしても湧かない。しかも、「お世話係」を卑下しているので、自分が小さく感じられるというわけです。

このように、体と心が物理的な空間から受ける影響は、計り知れず、不自然な空間のマニピュレーションが続くと、身体が心理を、心理が身体を縛り、果てはセルフイメージを形成して、私達の意識までも変えていきます。

心理的空間。物理的空間。環境、体、セルフイメージ。意識。

以前ポーランドを訪問した時、友人に連れられて、1989年以前のコミュニストの建築が残っているところを、見に行ったことがありました。そのアパートはこういう感じです。

友人曰く、コミュニズムの思想に基づいて設計された建物。

箱、箱、箱、の連続に驚く私に、友達は「こうした建築は、人間を管理しやすいように、人間を小さく感じさせるようにできているのだ。」と説明してくれました。そして、こうした環境の中でも、勇気を持ち、制限された物理的な空間の中で、想像力や創造力を使って、心理的な空間を広げていった人たちもいると教えてくれました。

物理的でなくても、自分が無意識に作り出している環境がセルフイメージを変え、日常の自分の選択に大きな影響を及ぼすこともあります。以前「セルフイメージが引き寄せる」の投稿で書きましたが、私の演劇の生徒で、いつも召使いの役しか回ってこない人がいました。主役は決して回ってこない、自分には才能がないのだと嘆いていました。彼女のジャーナルを見てみると、常に人の目を気にしてニコニコと笑顔を絶やさず、友達が望むことを自分のニーズよりも優先させている行動が綴られていました。まさに、ある「召使い役」を日常で実行しているわけです。後から知ったことですが、彼女の外見はフレンドリーでも、中は全く違って、それは彼女がある自罰行為を長年行っていたことにも伺えました。この彼女も、自分が卑下している「召使い役」を日常で演じ続けていました。しかし、彼女のクラスでのパフォーマンスを見ると、女王の気質が、見え隠れします。日常では、その気質を隠している。「女王の気質があるのに、日常でいつも召使いの役をしているから、舞台でも召使いの役が回ってくるんだよ。意識して、日常を見直してごらん。」と言うと、彼女はハッとしたようでした。それからの彼女は、日常で自分が醸し出している雰囲気や行動を、気をつけて観察するようになりました。結果、クラスでの最終プロジェクトは、いつもニコニコの「人のことを思いやるいい子」のイメージからはかけ離れたもので、カリスマと自信に満ち溢れていました。

人間は、空間や環境から孤立して存在することはできません。空間や環境の歪みやマニピュレーションが起こると、私達のセルフイメージ、果ては意識にまでも影響が及びます。自分の本質を生きるには、まず自分が何をしているのかを観察することです。どんな雰囲気を醸し出しているのか、どういう選択をして、どんな行動に出ているのか。そして、勇気を持って、本来自分に備わっている想像力と創造力を駆使し、新しいオプションを作り出す。それは、これからの世界を生き抜くために必須なスキルとなることでしょう。


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