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ブルーベリーの枝を折ってはいけない

 「ブルーベリーの枝を折ってはいけないよ、お前の運が悪くなるから…」

 【イニュニック アラスカの原野を旅する】(星野道夫さん著者)の本の中で書かれている、アラスカに住むアサバスカン・インディアンの言葉だ。

 …やってはならないタブーがあり、その約束をまもることは自分の運を持ち続けることなのだ。

人のもつ運は日々の暮らしの中で変わってゆくものだという。それを左右するものは、その人間の、自分を取りかこむものに対する関わり方らしい。

彼らにとってそれは「自然」である。それは生きものだけでなく、無機物のなかにさえたましいを見出そうとするアニミズムの世界である…


 【邂逅の森】(熊谷達也さん著書)の中で、山で猟をするマタギが引退した訳を語る場面がある。

 …軍隊が必要とする毛皮を生産する、あるいは、外貨をかせぐためにアメリカやヨーロッパさ毛皮ば輸出する。それは、お国のためだばしかたのねえことかもわがんね。

 だどもな、本来、ウサギの幸せは野山を駆け回ることだべ。そうすた幸せを最初から奪っておいで殺すのは、決していいことではねえのしゃ。

そうまですて獣ば殺さねばなんねえ今の世の中は、徐々に狂ってきてるように、俺には思えてなんねえんだ。

 俺達マタギも、自分らでもわがらねえうちに、欲ば大っきぐすてすまったような気がする。したがら、俺は組ば畳むことに決めだのしゃ。

あっだげ獣の命ばもらって暮らしてきたさげ、これ以上の殺生はもう十分だどおもったんだなす…


 【虹の戦士】(アメリカン・インディアンに古くから残る言い伝え ー 北山耕平さん翻案 ー )の第六章、死を敬う、での話。

 …少年がインディアンのスピリットを手にする修行の為、自分で作った弓と矢で狩をする。

 少年は歌のなかで命を奪うことの許しを乞う。兄弟である鹿たちに、その力と勇気とを与えてくれるよう、少年は歌にたくして祈った。

 弓を離れた矢は逃げかけたその鹿に突き刺さった。大きな黒い瞳には、痛みと恐怖があふれていた。

彼はもう一度その目をのぞきこんだ。そうしてこの目のなかに、過去に人間によって傷つけられ、罠にかけられてきた無数の動物たちの痛みをみた。

 彼は自分がこれまでそうした痛みを一度たりとも理解しようとしなかったことに、突然気がついた

昔の賢いインディアンたちが、その肉を食べたり、その皮で着る物をこさえたり、やむをえず正当防衛の場合をのぞいては、なぜ滅多に生き物を殺さなかったのかを、少年はたちどころに理解した…


▽ ▽ ▽


 色んな本を読んでいると、地下水脈が繋がっているように、同じ思想の物語に出会える。それは、時代や国を軽々と超えて、地球から真っ直ぐ伸びてきた教えのように感じるんだ。

 命を敬う。動植物を地球に住む自分たちの兄弟のように思い、命を敬う。

 それを忘れてしまうから、人間同士でも摂取する側される側、富は分配する物ではなく奪う物、そうなっちゃうんだろう。

 これから読む本は【椿の海の記】。水俣病を書いた【苦海浄土】を世に送った石牟礼道子さんの本だ。

 自然とそれを汚した人間と、その中で一生懸命生きる人々の物語。一行ずつを賞味するように丁寧に読んでいきたい。


 速く読むことばかりを追い求めていたら、大切なものを取りこぼしてしまう、そんな気がするから。


 

 


 

 


 

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