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出席簿#05「春の、小さなかけ引き」

【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」

4月22日、月曜日。
早いもので4月も残すところ1週間となりました。
連休のご予定はお決まりですか?

先日、かつての同僚先生とばったり再会しました。
「どうしたんですか?」と聞けば、
「ん?大会帰り」と返されて、
もうそんな時期か……と。
その先生とは部活動の主顧問・副顧問だった仲でした。

4月下旬から多くの運動部では
中国大会県予選が始まります。
かつての同僚先生は、
引率を終えて帰路につくところでした。

さて、学校生活の思い出と言えば、よく話題になるのが部活動。
私は縁あって、ずっと弓道部の顧問をしていました。
今回は、そんな弓道場での、本当に小さなかけ引き。
でもそれは、部活動のことも新入生のことも、
大切に思っているからこその心の動きのように思います。

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「春の、小さなかけ引き」

音声で楽しみたい、という方はこちらからどうぞ。

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 数日前から暖かくなり、屋外の部活動も活発になった。弓道部の生徒たちは公式戦を意識し、練習に励む日々。でも、なんだか最近そわそわしている。

 「あっ、帰っちゃった」、つぶやく生徒の声と視線をおって弓道場から外を見やると、真新しい制服の後ろ姿。さっきまでそこにいたのに。
 放課後になっても制服を着ているのは少数派だ。ぱりっとした制服に包まれた新入生が、あれこれと部活を見学して回っている。

 中には積極的な子もいるが、多くはひっそりと見て、ひっそりと帰っていく。彼らも新しい環境に飛び込むには勇気がいるのだろうけれど、それに負けず劣らず心の力を消費しているのが、上級生だったりする。見られているなか部活動をするのは緊張するし、やっぱりどうせならいいところを見てもらいたい。

 どうしよう、隣で活動している部活動に目移りされちゃいそう。引き留めたいけど、それってアンフェアかもしれない。もしかしたら引き留めない方が新入生はいい印象を抱いてくれるかもしれないし……。

 どうすれば自分が全力で取り組んでいることの魅力を最大限に伝えられるのか。それを必死で考えながら、他の部員とアイコンタクト。やきもきしながら、一年生に声をかけたり、逆に言葉をのみ込んだり。

 部員たちの姿を見ていると、片思いをしているようで、小さなかけ引きをしているようで、つい応援してしまう。
 頑張れ、頑張れ、きっと大丈夫。いま心をくだいた分、新入部員を大切にする先輩に成長できるよ。自分が取り組んでいる競技をより好きになって、総体に向かえるよ。頑張る自分と、頑張る周囲を応援できる人になろうね。
 入学式にようやく花開いた桜は、もう緑色。新学期が動き出した。

(2012/4/25 朝日新聞島根版掲載)

作品に寄せて

入学式直後から始まる、各部による新入生争奪戦。
2年生になったばかりの生徒たちが、
急に先輩の顔を見せるようになったりして、
それも微笑ましいんですよね。

このときの勤務校にはとにかく部活動がたくさん。
弓道部もレアな部活かもしれませんが、
なんとお隣ではアーチェリー部も活動していました。

和弓と洋弓での新入生争奪戦。

例年はなかなかいい勝負なのですが、
(どちらも人気の部活動だったんですよ)
この作品を書いた年は、2012年。
4年に1度の…オリンピックの年だったんです。

これって、断然オリンピック種目になってる
アーチェリー部が有利なんですよね。
なにかとテレビで取り上げられて、
目にする機会が圧倒的に増える。

弓道場に一瞥をくれてから
アーチェリー部に流れていく新入生たちを、
何度も弓道部員と一緒に見送った年となりました。

オリンピックの年には、ふと、あのかけ引きを思い出します。

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