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出席簿#01「笑顔のひととき学食で」

5分だけ学校の今を感じませんか?

学校の「今」を綴ったエッセイ集、『おしゃべりな出席簿』。
島根県で現役の高校国語教員をしながら11年にわたって
朝日新聞島根版に連載をし、その後、自費出版をしました。

今後、いくつかのエピソードを、テキストと音声で紹介したいと思います。
とりあえず4月から1年間、定期的に更新をしていくつもりでいますが、
3月最終日の今日、試しに1つだけアップしてみます。

朗読音声は私自身が読んでいます(このあとYouTubeリンク有)
アマチュアですのでお聞き苦しい点もあろうかと思いますが、
大目に見ていただけると嬉しいです。
運転中や就寝前のおともにいかがでしょう?

読んでも聞いても5分程度の掌編ばかり。
そのほんの5分だけ、島根の高校生活をのぞいてみませんか?

『おしゃべりな出席簿』はこちらからお求めいただきます。
https://amzn.asia/d/9nTmHv1
(品薄・品切れになりがちですが、数日で補充されます。ご了承ください。)

定期的に沸き起こる席替えコール、学食バイキングでの温かい交流、総体出場メンバー選抜前のギスギス感。センター試験前にフェリー欠航の危機!?緊急事態宣言、そのとき島根では……?誰もが懐かしめる学生時代の思い出も、島根ならではエピソードも詰まった一冊です。

「笑顔のひととき学食で」

音声で楽しみたい、という方はこちらからどうぞ。

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 「先生見てください、スペシャルだって」

 購買の前でにぎやかにおしゃべりをしていた女子生徒が突然声をかけてきた。見ていたのは学食のメニュー。今年度最後の営業日には“スペシャルランチ”を提供します、という内容が、太いマジックで記されている。「先生は学食って行かれますか」ときどきね。「スペシャルランチ、食べますか」どうしようかなあ。「食べましょうよ。豪華ですよ、楽しみ」その言葉に誘われて、“スペシャル”の日には学食をのぞいた。

 生徒と食べるご飯はなかなかに面白い。古文単語のゴロ合わせに異動する先生の予想、誕生日に名前の由来まで、たわいもない話が連なって、あっという間にお昼休みが終わってしまった。まるで、おうちの中のワンシーンのような時間。もくもくと食べて友達の分までデザートスプーンを取りに行く子。オレンジの種が上手にとれなくて四苦八苦する子。家庭での顔が学食のあちこちで行き交っている。ふとこの前卒業したばかりの三年生のことを思い出した。

 卒業式の前日は、年に一度のバイキング。この日も学食は満員で、ところ狭しと座る三年生が、残りわずかなカレーを譲り合ったり、お互いの食べるものを交換したり。そして最後には食器を下げながら「ごちそうさまでした」。そうそう、忘れちゃいけない。「おばちゃん、メッセージ、見たよ。ありがとう」学食のおばちゃんは、三年生を送る会にビデオメッセージを寄せてくれたのだ。元気を分けてくれる生徒に感謝していると、いつでも帰っておいでと、言ってくれたのだ。「こっちこそ、ありがとう」「三年間、ありがとう」三年生たちは口々にお礼の言葉を言って、学食を後にした。


 学食で流れる不思議な時間。家庭のような時間が溶けあうお昼休み。それを支えてくれるおばちゃんたちは、生徒にとって母親に近い存在なのだろう。まるで家族のことのようにランチの宣伝をしていた女の子の姿がまぶたに浮かぶ。

 四月になったらクラス替え。また新しい関係が築かれていく。きっと学食は、その関係づくりの時間を提供してくれることでしょう。学食近くの桜が花開くときには、どんな顔がランチを囲んでいるのだろうか。

(2014/03/26 朝日新聞島根版掲載)

作品に寄せて

「学食」の風景を書いたのは後にも先にもこの一度きりでした。

ほかの学校ではどうか知りませんが、このときの勤務校では、教員は4時間目や5時間目でも授業が空いていれば学食を利用することができました(生徒でにぎわうお昼休みをあえて外すため)

でも、というか、だからこそ、というか、生徒と一緒に学食を利用しているときって、自分にいい「余白」があって、生徒と食事を楽しめるときなんですよね。あのときに感じた学食での「家族時間」は、今でも大切な思い出です。

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