アメリカTVメディアの最も大事な1日 (パート1)
今週アメリカのテレビメディアにとって1年で最も大事なイベント“アップフロント“が行われました。今年も盛り沢山でしたが、2回に分けて各企業のプレゼンテーションをご紹介すると共に、今年の動きを展望します。
アップフロントって?
簡単に言うと広告代理店や大手クライアントに向けて今年のラインナップを紹介し、CMを売りつける日です。アドセールスの人間はもうこの日に全てを賭けてると言っても過言ではないでしょう。
もっとも、取り巻く環境としてはなかなか酷い状況です。CNNのニュースレターから引用します。
Netflixの会員数純減にウォール街は動揺し、まさかのCNN+の1ヶ月での終了に業界(とそこで働く人々)は言葉を失いました。そんな中で開かれたアップフロントは各社によって「なりふり構わない必死さ」と「諦めの境地」に分かれた感がありました。
ディズニー
盛り沢山すぎて中身を忘れそうなイベント
まずはディズニーから。2時間に及ぶイベントにあまりに中身を詰め込み過ぎで、終わった時には何も覚えてなさそうな感じでした。ここではほんの少しだけご紹介しますが、詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。
ストリーミングサービスDisney+の広告付きプランの内容が判明。CMブレイクの時間は1時間あたり4分になるとのこと。テレビだと15分CMを流すことを考えると世界はすっかり変わりましたね。
スポーツ関連。Foxから引き抜かれた実況のジョー・パックがマンデーナイトフットボールを宣伝。またロック様ことドウェイン・ジョンソンが3度目の復活を目指すXFLについて語り、ABC、ESPN、FXで試合を中継することを発表しました。
もはや主役でなくなった地上波
かつてアップフロントの主役だった放送局は、すっかり脇に追いやられてしまいました。ABCの秋のプライムタイムのラインナップは、ロングランのクイズ番組のスピンオフ"Celebrity Jeopardy!"や警察ドラマ "The Rookie"のこちらもスピンオフを含む、たった3つの新シリーズを追加するだけという寂しい展開。
一方でニュースについてはディズニーでは地上波がメインと言っていいでしょう。ABC World News Tonightアンカーのデイビッド・ミュアは銃乱射事件が起きたバッファローから戻ってきたばかり。「事実を伝えることの力、雑音を打ち破る場所であること」を再認識したといいます。ミュアはまた、全米のABC系列のニュースルームにエールを送りました。
アップフロントお決まりのイジリ
そしてレイトショーのホストであるジミー・キンメルはアップフロントで誰構わずイジります。ただし今年はコロナ陽性だったためリモートでの出演。3つネタをご紹介します。まずはNBCのリブートから。
NBCの名作クオンタムリープとナイトコートが数十年ぶりに復活することを皮肉りました。確かに懐かし過ぎてビックリしましたが。続いてFoxのアップフロントが久しぶりの対面イベントにも関わらず、まさかの事前収録だったことについて。
Foxについては次回ご紹介しますが、なぜ事前収録になったのかはまだ理由はわかりません。一説には直前に起きたバッファローでの銃乱射事件が原因(容疑者がFox Newsのタッカー・カールソンの主張に影響された可能性?)とも言われていますが、不明です。そしてNetflixについて。
ネットワークの怨念が実ったか、ついに現実になりました。
ワーナー・ブラザース・ディスカバリー
第5のネットワーク宣言
WBDとして初のアップフロントとなる今回、トップのザスラフが登場。ケーブルテレビのパイオニアで投資家のジョン・マローン、CNNの創設者でもあるテッド・ターナー、そして1970年代初頭に不振だったスタジオを再建し、後にタイムワーナーとなるコングロマリットに育て上げたワーナーブラザースのリーダー、故スティーブ・ロスの3人を「パーソナルヒーロー」と呼び、時間をかけて讃えていました。
そしてルパート・マードックが1980年代に20世紀フォックスを買収し、フォックス・ネットワークを立ち上げ、ビッグ3のテレビネットワークをビッグ4にしたことを引き合いに出しながら、ザスラフは、「今日、Warner Bros. Discoveryはナンバー5となる」と宣言しました。
しかし今、ナンバー5ネットワークになることを目指すと明言することが正しいのか、私は疑問です。そして地上波に限って言えば、彼らはCBSと共同所有する第5のネットワークCWを間も無く手放すのです。
CNNへの手のひら返し
以前このnoteでは、ストリーミングニュースCNN+のたった1ヶ月の終了について悲惨な状況を以前書きました。
しかし今回のアップフロントではザスラフが色々CNNのことを持ち上げていました。こんな仕打ちをやった後では正直逆効果のように見えましたが。そしてCNNトップのクリス・リヒトが初お目見え。プレゼンの中から2つ話題をご紹介します。
CNN+の目玉番組だったクリス・ウォレスの番組は秋からCNN及びHBO Maxで再開。CNNでは新しく「CNNサンデー」という日曜夜のブロックが始まり、その一部になる。Varietyによると、CBSニュースの「60ミニッツ」のコンセプトに似ているように思われるとのこと。
クリス・ウォレスは長年Foxで日曜朝の討論番組Fox News Sundayのモデレーターをしていましたからまた日曜に復活です。そして日曜夜って金曜夜の次に視聴率取れるイメージはありません(NFL SNF除く)。ドラマだったら日曜夜に編成が変わったら危険水域、金曜夜に移ったらキャンセル目前ってイメージです。MSNBCのレイチェル・マドウみたいに週一で平日夜に入れたらいいのにと思いました。
CNNが秋に新しいモーニングショーを開始することを示唆。「率直に言って、モーニングショーのディスラプターになりたいと考えています」とリヒト。
MSNBCで"Morning Joe"を立ち上げ、CBSで "CBS This Morning"に携わったリヒトですからこれはある程度予想されていました。
CNNは朝の番組は全然うまくいっていません。競合のFNCのFox & Friends、MSNBCのMorning Joeに大きく離されています(個人的にはMSNBCのウィリー・ガイストがお気に入り)。果たしてうまくいくのでしょうか?
結局はリストラありきのプラン?(暴露されたスタッフへのメモより)
アップフロントとは直接関係ありませんが、Varietyがザスラフがスタッフに最近送ったメールを今週スクープし、「短期的な優先事項」のリストで同社が「財務的な機会に焦点を当てる」ことに言及しています。つまりリストラです。下記が優先事項のリストです。
クリエイティブ・エンジンに投資すること。
あらゆるプラットフォームにおいて、最も広範で魅力的なコンテンツを提供し、世界中のより多くの視聴者にリーチすること。
新しいWBDカルチャーを確立する。私たちは全員で協力して、ひとつのまとまった、協力的な文化を築き、ひとつのチームとして運営を開始しなければならない。
米国の広告販売アップフロントで成果を上げる。
1つのストリーミング・プラットフォームに向けて努力する(discovery+とHBO Maxの統合)。
世界におけるCNNの重要な役割を強化する。
財務的なチャンスに焦点を当てる。
だいたいがお決まりのフレーズでした。前にも書きましたが社内融合はいつか成し遂げられるのでしょうか。そしてこのメモでもCNNを持ち上げています…。メモについて詳しくは下記をご覧下さい。
というわけで2社でこれだけのボリュームになってしまったので前半はこれまで。後半ではNBCUniversalやParamount Global、Foxについてご紹介します。
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