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CNN+がわずか1ヶ月で終了した背景

Netflixの会員数純減の余波が収まらない中、またもやとんでもないニュースが入ってきました。3月に始まったCNNのストリーミングニュースサービスCNN+が、なんとたった1ヶ月で終了すると発表があったのです。

一体何が起きた?

最初に伝えたのがVarietyのブライアン・スタインバーグ。

CNNはこの新しいストリーミングニュースに数億ドルを注ぎ込み、NBCからケイシー・ハント、Fox Newsからクリス・ウォレスなど、他のネットワークから一流の人材を引き抜いていました。それにも関わらず、親会社のワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)は終了することにしたのです。

このツイートを見た時私は思わず「は?」って言ってしまいましたが、ローンチから1ヶ月というあまりに早すぎる決断です。

ちなみに3週間前に私が開局直後に書いたCNN+に関する記事はこちら。今では何の意味もありませんが。

CNN+のスタッフに向けたクローズに関するミーティングの様子をCNNが伝えています。

最初はみんな本当にパニックになっていた。そしてミーティングが終わるころには、悲しみに変わっていました。どのチームも互いに身を寄せ合っていました。


CNN+終了の背景

ワーナーとディスカバリーの方針の相違

一体何故起きたのか?まず声明より、WBDのストリーミング担当トップのJ・B・ペレットはこう話しています。

複雑なストリーミング市場において、消費者はシンプルさと、単独で提供するよりも優れた体験と価値を提供する総合的なサービスを求めており、会社にとっては、優れたジャーナリズムとストーリーテリングへの今後の投資を促進する、より持続可能なビジネスモデルだ。われわれはストリーミング分野で非常にエキサイティングな機会を得ており、世界有数の知名度を持つCNNはそこで重要な役割を果たすだろう。

WBD経営陣はHBO Maxとディスカバリー+の統合などひとつのアプリで全てをカバーするサービスを望んでいた中、CNN+がスタンドアローンのサービスで始めてしまいました。方針に合っていなかったというわけです。これにはディスカバリーの痛い過去があるようです。

NYタイムズによるとペレットはミーティングで、以前ディスカバリーは車や食べ物、ゴルフに焦点を当てたニッチなストリーミングサービスを始めたものの、マーケティングコストが高く加入者が少ないまま終わってしまったと述べたとのこと。だからと言って1ヶ月で判断する理由にはなりません。その時も1ヶ月で判断していないはずです。

そしてHBO MaxとDiscovery+の統合については先月ディスカバリーのCFOがこう語っていました。

Discovery+と同じようにCNN+もバンドルで始められない理由は何なのでしょうか。Disney+だってESPN+及びHuluとバンドルを続けています。バンドルはそれぞれの認知が高いと相乗効果を出すので、CNNの知名度ならバンドルの効果も出るような気がしますが、もし統合したいのならCNN+を十分に成長させてからでも良かったはずです。


勝手に始めたワーナーに怒ったディスカバリー

一方Varietyによると、ワーナー・メディアがAT&Tの傘下だった頃の元CEOジェイソン・キラーが、ディスカバリーが事業を引き継ぐことになる数週間前にCNN+を立ち上げることを決めたことにディスカバリーCEOのデビッド・ザスラフが腹を立てていたとのこと。しかし、ディスカバリー社の幹部は反トラスト法上の規制を警戒したため、ワーナーメディア社の経営陣と意思の疎通を図ることができなかったようです。

その後WBDとして初日となる4月11日の朝にペレットとCNN幹部が会談。その後CNN+の将来に疑問を投げかけるニュースが出始めます。以下はVanity Fairの記事より。

CNN+の首脳陣をひどく怒らせたのは、CNN+の最初の2週間の日次利用者数が1万人未満だったと報じたCNBCの記事だった。CNN+の内部では、誰かが、あるいはディスカバリー側の誰かが、このプラットフォームの終焉を早めるために数字をリークしたのではないかという疑念がわいた。「この明らかなリークは、初期の加入者数を成功のしるしとみなしていたCNN+のスタッフの間に不安と怒りを引き起こした」と、ある情報筋は語った。

さらにWBDは数十億の負債を抱えており、幹部は30億ドルの節約を実現する必要に迫られています。つまりCNN+はコスト削減策を実施する上で、明らかに魅力的な機会だったということのようです。ただこれも1ヶ月でクローズする理由にはなりません。


結局WBDを仕切るディスカバリー経営陣はワーナーが合併前に勝手にCNN+を立ち上げたのが気に食わなかったのかなと思っています。1ヶ月で判断するなんて、馬鹿げています。どんな酷いビジネスプランだったのでしょうか??そんなに酷ければ前の親会社AT&Tが認めないはずです。

以前WBD立ち上げ直後のスタッフ向けタウンホールで「CNNの次期会長兼CEOのクリス・リヒトに何を託すか」と尋ねられるとザスラフは「目的は収益性を最大化することではなくインパクトを最大化することだ」と話していました。下記の記事で私は"そのスタンスはいつまでキープできるのか気になる"と書いていましたが、まさか1ヶ月も持たなかったとは。


多くの困難が待ち受けるWBD

CNN+スタッフは多数解雇の恐れ

CNNによると、リヒトは社内メモで次のように説明していますが、多くのスタッフは解雇される恐れがあります。

すべてのCNN+スタッフは、今後90日間、CNNやCNNデジタル、ワーナー・ブラザースのディスカバリー・ファミリーの他の場所で機会を探るために、給与と福利厚生を受け続ける。

クローズに関するミーティングが終わった後、ニューヨーク本社のCNN+スタッフはウィスキーとワインで慰めあったとのこと。そしてケイシー・ハントは番組内でチームを讃えていました。

彼らは、心血を注いでこの仕事に取り組んだ。安定した職を捨て、ある者は国を越えて移動した。彼らは皆、大きなリスクを背負った。

同業の人がこうやってクビになる姿をまた見なくてはならないのが、ただ辛いです。


一方で人気プレゼンターは?

声明によると一部の番組はHBO Maxで配信されるようですが、クリス・ウォレスやケイシー・ハントなどの他局から引き抜いた人気プレゼンターのどの番組が引き継がれるのか去就はまだ決まってないとのこと。また元々Facebook Watchで配信されていた番組が戻るのかも不明です。

一方でCNN+での番組"No Mercy No Malice with Scott Galloway"のホストだったスコット・ギャロウェイは既に袂を分ち合ったようです。

ところで、デビッド・ザスラフ、我々は会ったことがないんだ。でも、私はあなたのことが嫌いなような気がする。いい友達にはなれないと思う。ごめんね、デビッド。


果てしなく遠い社内融合

以前の記事で私は下記のように書きました。

ハリウッド(ワーナー)からしたらワシントンの奴ら(ディスカバリー)なんかに指図されたくねえよと思うでしょうね(元々ディスカバリーはワシントンDC近くに本社があった)。やっぱりアメリカはハリウッドがコンテンツの中心です。ザスラフはこの1年足繁くハリウッドに通っていたと報じられていますが、果たしてうまく統率できるかも興味が惹かれます。

最初にこのニュースを聞いた時、たった1ヶ月での閉鎖ということで絶対何かあると思っていましたが、ワーナーが勝手にCNN+を立ち上げたということでディスカバリーに宣戦を布告し、そしてCEOのザスラフは「俺がボスだ」と真っ向から立ち向かったということでしょうか。どっちが正しいかはどうでもいいですが、スタッフにとってはたまったもんではありません。そしてこれは米国だけでなくグローバルにこの対立が波及するのです。

ここまで波乱のスタートになるとは思わなかったWBD、全世界4万人のスタッフを巻き込んでこれから一体どうするのでしょうか。

それにしても、「Netflixの会員数が10年ぶりの純減」と「CNNの新サービスが1ヶ月で終わる」なんていうとんでもないニュースを同じ週にお伝えするなんて、まあ言葉がないです。1週間お疲れ様でした。

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