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CNN+開局に見る、CNNの未来。

アメリカ現地時間3月29日東部時間午前7時、CNNの新しいサービス”CNN+”が開局しました。ライブ初日の様子を詳しく紹介すると共に、CNNの未来を少し考えていきます。

CNN+とは?

CNN+は新しいサブスク型ストリーミングニュースサービス。月額5.99ドルまたは年額64.99ドルで、期間限定で”一生”半額になるプロモーションも実施しています。

iPhoneやApple TVなどのアップル端末やAndroid携帯、Amazon Fire TVで視聴できますが、アメリカで最も使われているドングルのRokuにはまだ対応していないようです。

CNN+が公開したプロモはこちら。

3月27日にオンエアされたCNNのReliable Sourcesに出演したCNN Plusのトップ、アンドリュー・モースは、番組ホストのブライアン・ステルターの「なぜCNN+はCNNの視聴者に提供されないのか?その方がよりスムーズにトランジションができるのでは?」という質問に対し、次のように述べました。

CNNと視聴者の関係が重要であるように、CNNと有料放送事業者の関係も重要です。そのためにCNN+を特徴的かつ補完的なものにしようとしているので、CNNとCNN+には相互作用があると考えています。

またモース氏は、NBCやCBSなどが無料ストリーミングニュースをやっている一方CNN+がサブスクサービスである理由を聞かれたことについて、BBCなどを除けばCNNが他にはないグローバルな報道機関として、異なった資産を持っているからだと発言。またCNN+については、デジタルトランスフォーメーションが進むニューヨーク・タイムズと比較されるべきとも話していました。


初日のライブ番組を振り返る

では、開局日のライブ番組を振り返っていきます。

午前7時: 5 Things with Kate Bolduan

米国東部時間午前7時(日本時間午後8時)ついにライブ配信が開始。5 thingsは毎朝のニュースレターとポッドキャストを既に展開しており、今回は映像版という形で開始しました。

ケイト・ボールダンが伝えたトップニュースは下記でした。

1: ロシアのウクライナ侵攻
2: ウィル・スミスが謝罪
3: 50歳以上の人への追加接種をFDAが承認
4: ペンシルバニア州での多重追突事故
5: ウォルマートの一部店舗でのタバコ販売の終了
One last thing: ロサンゼルスの川で流されていた犬と飼い主を消防士が救出

この番組はYouTubeでも公開されています。

この番組は10分程度だったので、一体ライブの視聴者数がどのくらいいるのか気になります。またライブ中は画面左上に”Streaming Live”と表示がありましたが、CNN+のロゴがどこにも表示されていないのが不思議でした。


午前8時: Go There

東部時間午前8時(日本時間午後9時)は特派員によるレポート。この番組は以前Facebook Watchで展開されていました。特徴的なのは番組ホストを置いておらず、ディレクターがスタッフに指示を出す声からスタートすること。その後現地の特派員からのレポートが始まります。最初は主任国際アンカーのクリスチャン・アマンプールによるキエフからの報告でした。レポート内容は別番組Amanpour.で放送されたインタビューを紹介しながら、キーウでのウクライナ軍の強烈な抵抗を中心にウクライナ侵攻の情報をまとめて伝えていました。

その後コントロールルームとつなげて、プロデューサーがいくつか質問していました。そのうちのひとつが「PRESSと書かれているジャケットを着ることで安全と感じるか、危険と感じるか?」。これに対しアマンプールは防弾チョッキとなっていることで安全だと思う一方、真実を伝えたがらない人によってジャーナリストを排除する傾向が強くなっているため、格好のターゲットになっているのも事実と話していました。

ウクライナ侵攻に関するCNNの報道はこちらもご覧下さい。

その後上海からデビッド・カルバーがレポート。大規模なロックダウンについて伝えていました。


午前9時: The Big Picture with Sara Sidner

東部時間午前9時(日本時間午後10時)はサラ・サイドナーによるトピックを掘り下げた番組。今回はアカデミー賞でクリス・ロックを平手打ちしたウィル・スミスの事件について、EBONYマガジンの前編集長を招いて30分にわたってインタビューをしていました。1対1のかなり落ち着いた雰囲気の番組だったので、東部時間朝9時の編成というのはちょっと微妙に感じました。MSNBCのMorning Joeは朝のテレビにディベート番組を持ってきた成功例とされていますが、Morning Joeは出演者が多くそのやりとりが活発ですので、朝で成功するにはそのような勢いが必要ではないかと思いました。


午前11時: Reliable Sources Daily

東部時間午前11時、日本時間では深夜0時。毎週日曜に放送されているメディア分析番組Reliable SourcesをCNN+向けに拡大した番組が開始。ちょうどNBCの日曜の討論番組Meet the PressをMSNBCでMTP Dailyとして平日に放送しているようなものでしょうか。

冒頭はアカデミー賞の平手打ち事件に関する各社の報道などをCNNのメディア担当やエンターテイメント担当記者で討論していた他、視聴者のリアクションを紹介。何かCNNの編集会議での討論を見ているようで面白い。その後視聴率など今年のオスカーにまつわる数字の話に。アカデミー賞は2014年は4400万人が視聴していましたが今年は結局1600万人程度と過去2番目の少なさ。

そしてレイトショーがウィル・スミスの平手打ちを取り上げている映像も紹介していました。

番組後半に入るとトランプ前大統領の議事堂襲撃についてやディズニーのDon't Say Gay法の対応に関する問題、さらにSpotifyのコロナ関連番組への対応などについて、Axiosのメディア記者サラ・フィッシャーを交えて議論していました。

そして番組の最後は42年前のCNNの開局時の様子を振り返っていました。テッド・ターナーの当時の記者会見や開局の瞬間を紹介した後、その開局時のアンカーを務めていたロイス・ハートとデイブ・ウォーカーが生出演しました。そして私は知らなかったのですが、このお二人は結婚されているとのこと。下記が開局時の様子です。

その後ケイト・ボールダンやサラ・サイドナーも出演し、CNNの開局時のアンカーとCNN+の開局時のアンカーが一堂に会しました。42年前はChicken Noodle Networkなんて揶揄され誰も続くとは思っていませんでしたが、今や誰もが知るニュースチャンネルになりました。果たしてCNN+はどこまで続けることができるでしょうか。


午後4時: The Source with Kasie Hunt

東部時間午後4時、前のライブ配信からずいぶん時間が空きました。前MSNBCのアンカー、ケイシー・ハントがホストを務める新番組でまず驚いたのはその衣装。白いTシャツのような装いでハントが出演していました。政治に関する番組なので堅苦しさを取ろうとしたのかと思ったのですが、その後登場した男性ゲストはスーツで出ていたので関係なさそう…。ゲストを交えたラウンドテーブルでの討論がが中心で、番組後半にはミット・ロムニーへの独占インタビューもありました。ロムニーが共和党議員を”Wingnut”(変人)と呼んでいたのには少し驚きましたが。

今後番組の数は増えていくと思いますが、デイタイムの編成はどうしていくのか気になります。


午後5時: The Global Brief

東部時間5時(日本時間午前6時)はCNN Internationalの番組のサイマル配信。通常のCNNの放送では右下にCNNロゴがありますが、ここにCNN+ロゴがあるわけでもなく空白になっているためにバランスがイマイチなカンジでした。


午後6時: Who's Talking to Chris Wallace?

東部時間午後6時、日本時間では朝7時になりました。CNN+イチオシ、元Fox Newsのクリス・ウォレスによるインタビュー番組です。

CNN+のプロモはこちら。

最初のゲストは元海軍大将のウィルアム・マクレイブンでした。インタビューの一部は下記からご覧頂けます。

今週日曜にNYタイムズで報じられたCNN+移籍後では初めてのロングインタビューで、ウォレスは次のように話していました。

私は保守的な意見でもリベラルな意見でも構わない。しかし、人々が真実を疑い始めたとき、例えば2020年の選挙に勝ったのは誰なのか?1月6日は反乱だったのか?という疑問が湧いたとき、それは擁護できない(unsustainable)と感じたのです。

また「政治から離れ」、他のタイプのニュースメーカーと一緒に座りたかったとも語っていました。

討論番組Fox News Sundayで長年モデレーターを担当していたクリス・ウォレスですから番組はとても落ち着いたものでした。一方で興味深かったのはその配信された時間でした。CNNのトークショーと言えば往年のLarry King Liveですが、これは東部時間午後9時より放送されていました。それよりも3時間も早いオンエア、それも午後6時と言えば東海岸はローカルニュースの真っ最中です。もしかしたらですが、6時30分からのイブニングニュース枠の前のオンエアを狙ったのでしょうか。またはオンデマンド視聴を前提とした早めの配信だったのでしょうか(とは言え西海岸ではまだ昼の3時ですが)。スケジューリングの背景をもう少し探ってみたいと思いました。


午後7時30分: The Newscast with Wolf Blitzer

そして東部時間7時30分(日本時間午前8時30分)。デイリープログラムとしては最後の番組です。地上波で夕方放送される全国ニュースのようなスタジオとイントロで、始まった瞬間に昔のCBS Evening News with Dan Ratherを思い出しました。内容もイブニングニュースのような構成で、ウクライナ情勢、トランプの電話記録など、1日の話題を紹介していました。


CNN+アンカーが語った初日の感想

Reliable Sources Dailyのホストを務めるブライアン・ステルターは下記のページで初日を振り返っていました。

5つのファインディングのうち2つをご紹介します。

・ケーブルニュースの司会者なら誰でも、コマーシャルやその他の時間の都合でコーナーを早々と打ち切るさせることがどんなことか知っているはずです。しかし、その逆もまたストレスです。割り当てられた時間を埋めるために、弱いゲストで退屈なセグメントを引き伸ばさなければならないのです。ストリーミングは、"何となく "で番組の長さを決める必要がないので、自由度が高いのです。

・Less "breaking," more fixing - 速報性を抑え、修正性を高める。ニュース速報は、CNNがケーブルテレビで不可欠な理由のひとつです。CNN+には特別報道と速報のための専門チームがあります。しかし、ストリーミング・アプリの世界では、ニュース速報によって(別のテレビ用語を使えば)「吹き飛ばされる」のではなく、あらかじめ計画された番組をオンデマンドで継続することができるのです。


CNNの未来は?

いよいよ始まったCNN+。CNNの未来についていくつか注目している点をご紹介します。

CNNやHLNとの差別化にどう対応?

まずはCNN+と既に展開しているケーブルニュースのCNNやHLN (Headline News)をどう差別化するかです。最近CNNは政治にフォーカスし、HLNはポップな話題や裁判に注力しているように感じていますが、その中でCNN+はどのような方針を目指していくのか注目していました。

初日のニュースを見る限りはより落ち着いたテンポで、ながら見をするリニア的視聴というよりは能動的なオンデマンド視聴に特化しているように感じました。ブライアン・ステルターがオンデマンドの視聴者がいるために番組の冒頭では「おはよう」とは言わないと言っていましたが、まさにライブやオンデマンドに関係なく視聴を促進させるというのがCNN+の特徴と言えるかもしれません。

しかしCNN+は何年後かにはCNNに代わるメインチャンネルとなっているでしょうから、その時に今のスタイルを維持するのか、またはCNNの速報性を持ってくるのか、はたまた第2チャンネルを作るのか、気になるところです。


コンテンツ制作の効率化

差別化とは相反するような話ですが、一方で今後のコンテンツの効率的な運用についても気になっています。CNNで放送されたドキュメンタリー番組”Parts Unknown”などがCNN+で配信されていますが、ライブ番組では国際版CNNのCNN International (CNNI)が制作する”The Global Brief”のみCNN+で配信されています。これは経済ニュース専門チャンネルCNNfnが2004年に閉局した後CNNIを米国内で放送していることから、CNNIのコンテンツも大々的には流用できない状況なのでしょう。

他のストリーミングニュースについては、例えばCBS News(元CBSN)はCBS地上波の番組CBS MorningsやCBS Evening Newsを地上波放送後にオンエアしています。また動画配信サービスのPeacockではMSNBCの番組をオンエア翌日に配信。さらにFox Nationでは新しくイギリスで始まるTalkTVの新番組Piers Morgan Uncensoredを配信する予定で、それぞれが可能な限りコンテンツを流用しています。

そのような中CNNはCNN+が始まったことで実質4チャンネル分の制作を行うことになりました(CNNとCNNIはサイマルが結構多くなっている&HLNはリピートが多いですが)。これは相当な負担ではないでしょうか。

個人的にはHLNをどうするのかが気になっています。もともとCNN2、その後Headline Newsと呼ばれたHLNはその名の通りヘッドラインニュースを30分ごとに放送するというフォーマットから開始しています。今ではその跡形すらなくHeadline NewsからHLNという名称に変えましたが、名前が浸透していないからかMorning Expressなどの生放送中にはHLNとHeadline Newsを交互に表示させていたりもします。視聴率が低迷しているために数年前に大幅に生放送を削減しましたが、このまま存続させるのでしょうか?

ケーブルニュースからストリーミングニュースに移行していく中で、HLNはまず最初に大きな影響を受けるのではないかと考えています。Morning Express with Robin MeadeはHLNで人気の番組ですが、CNN+に来たら面白いのでは?と思った初日の配信でした。


ディスカバリーとの合併の影響は?

そしてワーナーメディアとディスカバリーの合併の影響です。現在ワーナーはHBO Max、ディスカバリーはDiscovery+というサブスク型ストリーミングサービスがありますが、最終的に統合されると伝えられています。ワーナーメディア傘下のCNNもおそらくこれに合流すると考えていますが、果たしてどのようなタイムラインで動くのか気になります。いきなり統合ということもあり得るでしょうし(せっかく準備してきたスタッフにとっては忸怩たる思いですが)、最初はバンドルという可能性もあると思います。

また、ドキュメンタリー番組制作においてCNNとディスカバリーのコラボレーションがあり得るのでしょうか。個人的には時事問題のドキュメンタリーでは連携があるのではないかと考えています。アンソニー・ボーデインはディスカバリーでもCNNでも出演していましたから、何か面白いことができたかもしれませんね。今では叶わぬ夢ですが…。


増える競合にどう対応する?

そして社内の問題だけではなく、当然競合にも目を向けないといけません。増える一方の競合に対し、しばらくは消耗戦を強いられることになるでしょう。ざっくり競合を挙げてみます。

・ケーブルニュース: FNC、MSNBCなど
・地上波ニュース: ABC、CBSなど
・無料ストリーミングニュース: CBS News、NBC News Nowなど
・有料ストリーミングニュース: Fox Nation、The Choice by MSNBCなど

これに対し、上記で述べたように4チャンネル体制で挑むことになります。ケーブルニュースでは視聴率をFNCに大きく離されていることから、CNNの視聴率向上はとても重要です。とは言えストリーミングが今後主流になっていく中でCNN+もしっかりやらないといけません。 

ペイTVで最もCPSが高いESPNですら、既にストリーミングへの移行の時期を見極めていることを以前お伝えしました。

当然ケーブルニュースからストリーミングニュースへの移行もいつか起きます。個人的にはペイTVのベネトレーションの減少幅を考えると恐らく5年以内ではと思っていますが、いずれにしてもどこかのタイミングで一気に進むでしょう。それに向けてCNNは一気に投資し“賭け”に出たと言えます。この戦略は妥当だと思いますが、こうなったからには突っ走るしかありません。


ついにニュースでも始まったストリーミング戦争。CNNはそのブランド力を維持するためにも、今は正念場だと思います。その中心にあるCNN+がどこまで認知度とエンゲージメントを高めることができるか?非常に注目しています。

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