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前途多難なディスカバリーのワーナー買収

ドキュメンタリーを展開するディスカバリーが映画制作や様々なテレビチャンネルを運営するワーナーを買収し、今週ついに新会社としてスタートしました。今回は現地の様々な報道をご紹介しつつ、その未来を少し考えていければと思います。

従業員に向けて語られたこと

全世界の従業員数が4万人となったワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)。現地の今週木曜日にタウンホールが開催されました。司会にはオプラ・ウィンフリーが抜擢。

新会社のCEOデビッド・ザスラフは、AT&Tの支配下にあった短期間の激動の時期を含む、同社の最近の歴史を従業員に紹介しました。この中でAT&T社との最初の交渉についてワーナー・メディア社をスピンオフさせ、ディスカバリー社と合併させるよう、通信業界の巨人に働きかけたことが明らかに。

またザスラフは、今後どのような番組を作るかについて、「スポーツはわれわれの将来にとって大きな部分を占める」と述べました。ちなみに現在米国ではTNTやTBSでバスケや野球、アイスホッケーを中継する他、欧州ではオリンピックやテニスを中継するEurosport、さらにゴルフ専門動画配信のGolf TVを展開しています。

一方でレイオフや大幅な人員削減が予定されているという懸念は解消されず、約30億ドルのシナジー効果を出すと公約しているものの550億ドルもの多額の負債をどう返済していくかについてはあまり触れられませんでした。

Varietyにはこう書かれていました。

その場にいたスタッフは、ザスラフの発言から、ピンクスリップ(解雇通知)の多くは、ディスカバリーが現在やっていることと(ワーナー傘下の)ターナーなどがこれまでフォーカスしてきたことが最も重なり合うもの、つまりケーブルネットワークで起こるだろうと解釈した。


会社の今後は?

映画部門の立て直し

まずは映画部門の立て直しが必要だと考えます。これまで映画会社は様々な逆風に直面してしてきました。NYタイムズにはこう記されています。

メトロ・ゴールドウィン・メイヤーは数十年にわたり、破壊的なオーナーの間で翻弄され、完全に立ち直ることはなかった。コロンビア・ピクチャーズは1982年にコカ・コーラに売却され、1989年にソニーに売却された。そしてユニバーサルは、21年の間に5回の外部からの買収を経験している。さらにパラマウント・ピクチャーズは、サムナー・レッドストーンによって現金化され、その結果、経営難に陥っていた。
ワーナー・ブラザーズだけが、ハリウッドを知り尽くした経営陣が運営する映画製作者たちのベージュ色の保護領として、ハリウッドの城塞都市として存在していたのである。
そこにAT&Tが乗り込んできた。

そもそもAT&Tは電話会社です。映画会社のマインドはありません。買収後は何度もリストラが行われ、経営陣が代わり、大して活用できずに買収額を下回る額で結局売却されました。

そんな状況で、映画の人間ではないザスラフがどうコントロールするのでしょうか?CNBCにはこう書かれていました。

経験不足を懸念する投資家もいるかもしれないが、メディアのベテランCEOとハリウッドの新米経営者という彼のユニークな組み合わせは、時代に合った完璧なレシピかもしれないと、ザスラフを10年以上知っているゴールドマン・サックスの元CEO、ロイド・ブランクファイン氏は言う。


ジェフ・ズッカーなきCNNの今後

もう一つ注目しているのがCNN。この合併のために元トップのジェフ・ズッカーは切られたと言われています(当然ザスラフは否定してますが)。司会のウィンフリーはザスラフに、「CNNの次期会長兼CEOのクリス・リヒトに何を託すか」と尋ね、ザスラフは「偉大なジャーナリズム」という共通のゴールを挙げました。「目的は収益性を最大化することではなくインパクトを最大化することだ」とのこと。しかしそのスタンスはいつまでキープできるのか気になります。

そんな中つい最近始まったストリーミングニュースサービスCNN+については様々な数字が出ています。CNBCはDAUは1万人以下にとどまると報道。

一方でPuckによると加入者は10万〜15万人に達しているとのこと。いずれにしてもCNNとしてはこのストリーミングサービスをなんとかして軌道に乗せる必要があるでしょう。


ジェフ・ズッカーが去った後のCNNに関する記事は併せてこちらもご覧ください。


迫るメインイベント

そうこうしてるうちに、来月18日にはアップフロントが予定されています。アップフロントとは米国のテレビネットワークが次の番組サイクルの広告在庫の大部分を販売するイベントのこと。どのくらい売れるか注目です。今回はワーナーとディスカバリーが初めて合同で実施します。


ザスラフの給料は250億円に爆上がり

ちなみにザスラフの給料はストックオプションのお陰もあって、2020年の3770万ドルから6倍以上の2億4600万ドル(約250億円!)に増加したとのこと。元々ザスラフは高給取りだったけども、凄い額が入ることになります。

結果を出してるならば給料が上がっても文句は言われないでしょう。しかしそれが社員の犠牲の上に成り立っていたら、それは正しいと言えるのでしょうか?


リストラ以外に何ができる?

率直に言ってこの一言に尽きます。メディアは合併したら必ずリストラが起きてなんとか帳尻を合わせようとしています。私の知り合いで犠牲になった人も多数います。そんな中でどうやって社員をまとめ上げるか今回も興味深いです。リストラの嵐でシナジー感が出ないまま現場疲弊というよくある未来にならないことを祈るばかりです。ただ現時点では何も具体策は見えてきていません。

そしてハリウッド(ワーナー)からしたらワシントンの奴ら(ディスカバリー)なんかに指図されたくねえよと思うでしょうね(元々ディスカバリーはワシントンDC近くに本社があった)。やっぱりアメリカはハリウッドがコンテンツの中心です。ザスラフはこの1年足繁くハリウッドに通っていたと報じられていますが、果たしてうまく統率できるかも興味が惹かれます。

現地の報道を見る限りポジティブとは言えない状況ですが、この合併はコムキャストやバイアコムなどM&Aに取り残されたメディアコングロマリットの行方にも大きな影響を与えます。1年後どのように変わったか注視していきたいと思います。

最後に余談。個人的な疑問ですがジャパンオフィスはどうするんでしょうか。銀座にあるターナー系と日比谷にあるワーナー系が結局オフィス統合してない間に丸の内にあるディスカバリー系も一緒になるという状況。一緒にならないと合併感は全く出ませんが、WFHの人も多いでしょうし、まあ変わらないでしょうね…。

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