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Netflixが10年ぶりに純減した3つの理由

日本時間で水曜日の早朝、Netflixの決算発表を受けてアメリカメディア業界は大騒ぎになりました。

「Netflixが天井にぶつかった」WSJ

from Drudge Report


まさかの加入者純減

Netflixは火曜日の決算報告で、当初250万人の増加を見込んでいたにも関わらず20万人の純減を発表しました。最後に加入者数を減らしたのは2011年10月ですので純減は10年ぶり。さらに第2四半期に全世界で200万人の有料会員数の減少を予想しています。

CNBCによると、アナリストの予想と結果はそれぞれ下記のようになりました。

Refinitivのアナリスト調査によると、EPS(一株当たり当期純利益)が3.53ドルの予測に対し2.89ドル。また売上高は79.3億ドルに対し78.7億ドル。全世界の有料会員数の純増数についてStreetAccountの予測によれば、273万件の追加を見込んでいたのに対し、20万件の損失でした。

なお、ウクライナ侵攻に関連してロシアから撤退したことにより70万人減少しましたが、それを差し引いても想定の増加数に大きく届かない状況です。もっともロシアのせいで生まれた「純減」という言葉は相当なインパクトがありましたが。


株価は暴落

52週前の最高値である1株約700ドルからすでに大きく下落していた同社の株価は、時間外取引で急落します。株価は348.61ドルで取引を終えていましたが、東部時間午後8時には1株約259ドルにまで下落。さらに翌日のナスダック市場の開始直後に233ドル近辺まで下落し株価は前日から3分の2になってしまいました。下記は取引開始直後の現地報道です。

CNBC
Bloomberg

朝からNetflixの話題で持ちきりでした。ちなみにNetflixのとばっちりを受けてディズニーなど他のメディア企業も5%ほど株価を下げていました。


純減の原因は?

Netflixは様々な理由がある中で、「パンデミックによって、2020年の成長を大幅に増加させることで状況を曇らせ、2021年の成長鈍化のほとんどはCovidの前倒しによるもの」とコロナが主因であると述べました。

私は原因は3つあると考えています。

1: 米国・海外での競争の激化

米国国内ではDisney+、Peacock、Paramount+さらにHBO Max等WBDのストリーミングサービスと激しい競争になっています。

オンライン金融情報サイトMotley Foolが1,500人のアメリカ人を対象に行った最近の世論調査によると、ビデオサービスを契約している人の半数以上(55%)がストリーミングの選択肢が多すぎると考えており、53%が見たいコンテンツすべてに支払うには高額になりすぎていると回答しています。各サービスともスポーツに注力している一方でスポーツ中継をしないNetflixは、価格もやや高いため解約されやすいサービスになっている可能性もあります。

また以前このnoteでも紹介しましたが、解約が簡単にできるために、新規加入や再加入の数が解約数に追いつかなくなっていることも考えられます。


一方で海外でもNetflixは苦戦しています。例えばインドの事情。こちらもスポーツが影響しています。

またこれはあまり大きく伝えられていないのですが、ハリウッドメジャーがNetflixから番組を引き上げたことも一因にあるのではと考えています。下記はイギリスの現状。

昔はフレンズなどがNetflixで視聴できましたが、今はPeacockでしか見ることができません。


2: 止まらないインフレ

もう一つ、最近イギリスである調査結果が発表されました。インフレが動画配信サービスの解約に繋がっているというのです。

Netflixは、100万人以上の加入者を純増させたアジア太平洋市場を除くほぼすべての地域で加入者を減らしています。Netflixは第1四半期に米国/カナダ地域で約64万人の加入者を失いましたが、これは前期の減少よりもさらに大きな減少になりました。欧州、中東、アフリカでは30万人の加入者減、中南米でも35万人の加入者減が見られました。海外での成長が必要なNetflixにとって、インフレは大きなダメージと言えます。


3: パスワード共有の深刻化

Netflixは今回の決算発表で全世界で1億世帯以上、うち3000万世帯以上が米国/カナダ地域でパスワードが共有されていると推定されると発表しました。

これはNetflixがより使いやすいように推進してきた結果でもあります。下記は決算発表より。

共有は、より多くの人々がNetflixを利用し楽しむことで、私たちの成長を後押ししてきたと思われます。そして私たちは常に、プロファイルやマルチストリームなどの機能によって、会員の家庭内での共有を容易にするよう努めてきました。これらは非常に好評ですが、いつ、どのようにNetflixを他の世帯と共有することができるのかについて、混乱を招いています。

LA Timesによると、Netflix加入者の36%が家庭外の少なくとも1人の親族とパスワードを共有し、13%が家庭外の友人とパスワードを共有しているとのこと。

Courtesy: Los Angeles Times

またCitiのアナリストによると、ストリーミングサービスは、パスワードの共有により、年間およそ250億ドルの損失を出しているとのことです。


今後の戦略: 安価プラン導入と取締強化

1: ついに広告付きプラン導入へ

Netflixはこれまで、広告つきプランを頑なに導入しようとしませんでした。ところが先月、こんな発言をしたのが話題にになりました。

そして今回、ヘイスティングス共同CEOは安価な広告付きプランを来年か再来年に立ち上げることを検討していると発言。"より低価格を望み、広告に寛容な消費者が、望むものを手に入れられるようにすることは、非常に理にかなっている "とついに方針を転換したのです。

アメリカでは広告つきプランをHuluやHBO Max等が既に導入している他、ディズニーも今年後半に開始することを先月発表しました。

競争激化や急速なインフレで、価格競争をせざるを得ない状況になってしまいました。それにしてもついにNetflixが折れたことにはビックリ。現地記者も驚きを隠せませんでした。


2: パスワード共有の取締を強化

Netflixは今年3月にはコスタリカ、ペルー、チリで試験的なプログラムを展開し、パスワードが共有されていることを会社が確認した場合、ユーザーに世帯外のメンバーを追加させることにしました。

今回の決算発表ではその検証結果の報告はありませんでしたが、これだけパスワード共有が進んでることを考えると、同様の対応を全世界に広げることは確実でしょう。

ちなみに5年前にはNetflix自らがこんなツイートをしていました。なんの因果でしょうか。


今後の問題

広告導入の遅れを取り戻せるか

Varietyによると、各ストリーミングサービスは既に広告について様々なアプローチをしているとのこと。

HBOは映画の前にコマーシャルを流す意向を表明している。Disney+はすでに広告付き階層を立ち上げる意向を示しており、アップフロントが始まると詳細が発表されるようだ。Huluは、大手メディアが欲しがるような全国規模の大口広告主だけでなく、地元や地域の広告主にも働きかけを始めている。

Netflixがどこまで準備しているかは分かりませんが、ゼロからシステムを準備するのでしょうか?それともどこかを買収するのでしょうか?いずれにしても追いつくには大変な状況です。

またこれまで殆ど情報を公開してこなかったNetflixですが、これからは広告主に情報を公開する必要があります。果たしてそれに耐えることができるのでしょうか?


どこまで成長できるのか

Bloombergのインタビューに答えたアナリストのリッチ・グリーンフィールドの発言が印象的でした。

リード・ヘイスティングスとチームは、ストリーミング市場の大きさを楽観視しすぎていたのではないか?6億、7億、8億人くらい加入すると思っていたにも関わらず、もし2億人の加入者がある種の「頂点」だとしたら、それは全てを変えてしまう。それが今の株価に表れている。

個人的には今回はインフレの影響が大きいことから減少は一時的なものだと思っています。その一方であまりに夢物語を語っているのは危険だとも感じています。

果たしてNetflixは(今回の純減の責任の取り方を含めて)投資家の期待に応えられるのか。引き続き動画配信業界に大きな影響を与えるのは間違いないでしょう。

最後に余談。Netflixが2011年になぜ純減したかを調べていたのですが、その時は自社のサービスからDVDレンタルを「クイックスター」(Qwikster)というブランド名で独立させたものの、実質的な値上げであったことから80万人が四半期で解約したとのこと。今回は何かこのような大きな失敗があったとは思えませんが、それだけ10年前よりも複雑になっているということでしょう。

私も気付けば動画配信に携わって10年以上が経ちましたが、あまりに動きが激しすぎて10年前なんて何も記憶がありません…。

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