同じ映画を

同じ映画を何度も観たくなる!?その理由と魅力とは。【完全版】

「あなたは映画を観に映画館に行きますか?」

この質問に、「行く」と答える人がどのくらいいるだろう。2019年6月より、大手3社が一般入場料を最大1800円から1900円に値上げした。その反応をSNSで見る限りは、「行く」と答える人は、以前よりも少なくなったかもしれない。「行く」と答えた人でも、年に1度や2度くらいの頻度の人が多いだろう。月1で行っても、「多いね」と言われてしまうことがあるかもしれない。

「あなたは同じ映画を何度も映画館で観たことがありますか?」

この質問になると「ある」と答える人が途端に減るだろう。しかし、そんな中でも、必ずそういう人はいる。昨今ミニシアターで上映が行われている映画に関していえば、何度も何度も足を運ぶ人が増えてきているらしい

「なんでそんなに行くの?」と聞かれたことがある。

筆者も、後に紹介する『アイスと雨音』を観るまでは、「同じ映画を何度も観るなんて」と思っていた。しかし今では、「なんでそんなに行くの?」と逆に聞かれるくらいになった。その質問には、いつも答えに困る。いや、実際には言えるんだけど、納得してもらうことが少ない。「人それぞれだし、いいじゃん」と思っていたこともあるのだが、「是非その気持ちを知ってほしい」そう思い、この記事を書くことにした。

記事を作成するにあたって。

今回記事を作成するにあたり、自分1人の観点だけだと説得性にも欠けると感じ、『アイスと雨音』を通じて知り合った映画好きの方に「同じ映画を劇場で20回以上観ている人」を4名ご紹介いただき、協力を仰ぐことにした。著者含めて計5作品を紹介しながら、その理由や魅力について描いていく。

これを読んでくれた人が、もう1回だけでも同じ映画に足を運ぼう、そう思ってくれたら嬉しい。

※今回ご協力いただいた方&著者を、便宜上【語り人】とさせていただく(敬称略)

今回題材にする5作品を魅力とともに紹介

『ローリング』

出典:ローリング - Yahoo!映画

2015年6月13日公開
【監督&脚本】冨永昌敬
【出演】三浦貴大、柳英里紗、川瀬陽太、松浦祐也、高川裕也 ほか

水戸のおしぼり業者で働く貫一は、10年前学校内で盗撮事件を起こし行方をくらましていた元高校教師の権藤と再会する。

水戸を舞台にクセ者たちが絶妙のアンサンブルを織りなす、面白うてやがて哀しき人間模様
鬼才冨永昌敬が茨城県水戸市でロケを行い撮り上げたヒューマンドラマ
出典:イントロダクション|映画【ローリング】ROLLING

【魅力 / 想い】
権藤(川瀬陽太)の人間臭いダメっぷり、みはり(柳英里紗)の小悪魔的魅力、貫一(三浦貴大)の真っ直ぐすぎる愚直さ、繁夫(松浦祐也)の迸る狂気など登場人物は皆ダメダメだけど憎み切れない人間的魅力に溢れている。権藤の語り過ぎないモノローグ、レトロ感あふれるスクリーンの色味や音楽から滲み出す不穏さといったこの作品のもつ独特の雰囲気が好きで、気が付いたらすっかり冨永昌敬監督のマジックにはまり込んでいる自分がいた。
みはりが貫一と納豆の事で喧嘩してすねた後、怒った貫一の機嫌をとろうと甘えていくシーンでの柳英里紗さんの可愛さはピカイチである。

出典:ローリング:映画.com

【語り人】いのうえさだむ
【劇場で観た回数】21回

『この世界の片隅に』

出典:この世界の片隅に - Yahoo!映画

2016年11月12日公開
【監督】片渕須直
【声の出演】のん、細谷佳正、小野大輔、尾身美詞、稲葉菜月 ほか

「長い道」「夕凪の街 桜の国」などで知られる、こうの史代のコミックをアニメ化したドラマ。戦時中の広島県呉市を舞台に、ある一家に嫁いだ少女が戦禍の激しくなる中で懸命に生きていこうとする姿を追い掛ける。市井の生活を壊していく戦争の恐ろしさを痛感する。
出典:解説・あらすじ - この世界の片隅に - Yahoo!映画

【魅力 / 想い】
片渕須直監督が、徹底的に調査して映像化した、当時の生活や町並みが素晴らしい。当時の資料を大量に集め、深夜バスで何度も広島に通って調査したそう。例えば空襲については、いつ、どこで、誰(パイロット)が、何発の爆弾を落としたのか、まで把握していて、当時の天候も全て調べたとか。もし戦時中にタイムスリップしても、生き延びる自信があると、片渕監督は話していた。周囲を徹底的なリアリズムで固めることにより、フィクションである主人公すずさんの実在を信じてしまう。初めて観たときは、こんな前情報は一切知らなかったが、リアルさを感じて作品世界にドップリはまっていたのだろう。上映が終わり劇場が明るくなった瞬間、自分が何処にいるのか分からなった。数千の映画を観てきたが、唯一の感覚だった。

出典:山口情報芸術センター

【語り人】くろなま
【劇場で観た回数】39回

『アイスと雨音』

出典:cinefil編集部

2018年3月3日公開
【監督】松居大悟
【出演】森田想、田中怜子、田中偉登、青木柚、紅甘、戸塚丈太郎、門井一将、若杉実森(若杉凩)、松居大悟、利重剛、MOROHA ほか

2017年、小さな町で演劇公演が予定されていた。オーディションで選ばれ、初舞台に意気込む少年少女たち。しかし、その舞台は突如中止となった――

監督・松居大悟が実際に体験した出来事を基に、“現実と虚構”“映画と演劇”の狭間でもがく若者たちの1ヶ月間を、74分ワンカットで描いた青春譚。
心が折れたことのあるすべての人へ。覚悟を胸に駆け抜けた映画が今はじまる。
出典:映画『アイスと雨音』オフィシャルサイト

【魅力 / 想い】

このツイートを見た時から、全て始まっていた。年齢制限がなければ募集をしていたくらいに、興味があった。くらいにこの時点で松居大悟とMOROHAが好きだった僕に刺さっていた

そして「決定!」のツイートを見て愕然した。映画『14の夜』で好きになった青木柚と、ドラマ『13歳のハローワーク』の時から好きだった田中偉登が、出演しているということに。好きが好きで重なっていた。元から観るつもりでいたが、このキャスト発表で必ず行くことを決めた。それから7ヶ月と少しした後に、東京国際映画祭で観て更にハマっていくのだが、以前書いたことがある・長くなってしまうため、割愛する。興味ある方は「お前、もういいだろ?」をご覧いただきたい(下記にも似たような書くが)。内容に関して書いていないのは、あえてであり、その目で確認してほしいという気持ちが1番強くあるからである。それと同時に、上記ツイートの内容を読んでから観るのも、魅力の1つであると思っているからでもある。

出典:松居大悟の戦い 映画・演劇といったジャンルの境界線上をもがく - インタビュー:CINRA.NET

【語り人】なおぽんちょ(このnoteの管理者)
【劇場で観た回数】61回

『少女邂逅』

出典:映画『少女邂逅』公式アカウント / Twitter

2017年6月30日公開
【監督】枝優花
【出演】保紫萌香、モトーラ世理奈、松浦祐也、松澤匠 ほか

君だけでよかった。君だけがよかった。
女の子だけが知る美しい青春譚。

 MOOSIC LAB 2017観客賞獲得。
本作の原案は、監督・枝優花自身が14歳の頃の実体験。いじめによって“場面緘黙症”となり、声が出なくなってしまった経験を軸に、蚕のように容姿も中身も変容する少女たちの残酷でありながら、まばゆい青春映画を完成させた。
出典:映画『少女邂逅』公式サイト

【魅力 / 想い】
最初に観た時から一貫して思うことは、僕はこの映画の中の世界、もっと具体的に言うと「ミユリ」と「紬」の二人の少女が作り出す特別な時間が大好きで、ずっと浸っていたい...ということだ。

『少女邂逅』には、魅力的かつ様々な立場の人物が登場する。僕は同じ映画を繰り返し観る時、毎回違う登場人物の視点で観るようにしていて、この映画も、1回目は「ミユリ」視点、2回目は「紬」視点...という様に、最初は主人公2人の視点で見ていた。そして3回目、ミユリの事をいじめる「馨」の視点で見たときに、今までに感じた事のないような気持ちになった。その何ともいえない気持ちを確かめるかのように、以降、何度も何度も僕はこの映画を観る事になる。

出典:映画『少女邂逅』公式サイト

【語り人】藤田大介
【劇場で観た回数】30回以上

『暁闇』

出典:映画『暁闇』公式 - Twitter

2019年7月20日公開
【監督】阿部はりか
【出演】中尾有伽、青木柚、越後はる香、若杉凩、加藤才紀子、小泉紗希、新井秀幸、折笠慎也、卯ノ原圭吾、石本径代、芦原健介、水橋研二 ほか

音楽を通じて出会った、幸福も不幸も知らない少年少女たちの、不器用で、空虚で、美しい一夏の記憶――。

MOOSIC LAB 2018準グランプリ。
新星・阿部はりか監督と若き俳優たちが生み出した、静かで孤独な青春映画の傑作。
出典:映画『暁闇』公式サイト

【魅力 / 想い】
私にとって多分、イヤフォンで音楽を聴いている時間が、一番安心する時間だ。でも、それはきっと孤独で寂しいことなのだろうと、そんな風にも思っていた。
初めて暁闇を観た時、プールの底から見上げる空のような、夜中に暗闇で見るスマートフォンの光のような、そんな安心があった。スクリーンと私だけが繋がった世界だった。何も言えなくて、ただ「暁闇を作ってくれてありがとうございます」という思いだけが漂っていた。暁闇の主人公の三人は、みんなそれぞれに孤独だ。廃ビルの屋上で出会ってからもずっと、三人のままで孤独だった。けれど、三人が出会って生まれたそれは、とても温かい孤独で、こんなに優しい孤独があるのだと、心の奥の底で確信した。孤独を孤独のままに抱き締めてくれて、本当に嬉しかった。その時、何度でも、有限であるならなるべくその限りは、スクリーンで観たい、スクリーンと繋がりたいと思った。

出典:映画「暁闇(MOONLESS DAWN・어둑한새벽)」特報

【語り人】ハマダ
【劇場で観た回数】23回

「同じ映画を何度も観たくなる理由」には、大きく分けて6つの理由があった。

今回話を聞いていると、共通している部分がいくつかあり、「同じ映画を何度も観たくなる理由」には大きくわけて6つの理由があるというのが分かった。その理由を細かく紹介していきたいと思う。

※(『〇〇(作品名)』語り人)の記載がない場合は『アイスと雨音』語り人の文である。
※5作品以外にも、違う映画の作品名を記載することもある。

1.舞台挨拶やトークイベントが多い。

舞台挨拶やトークイベントがあるから観に行く。これが入口という人も多いかもしれない。ミニシアター系統で上映される映画や自主映画の場合は、映画を一人でも多くの人に観てもらうために監督やキャスト、多彩なゲストが何度も何度も、場合によっては連日登壇する事もある。目当ての監督やキャストに会いに劇場にほぼ毎日通う通っていた部分もあり、観賞回数の半分以上は、アフタートーク付の上映の人もいる。この点は、アイドルに会いにいくのにコンサートやライブに行く、ということに近いかもしれない、と思う時もある。
(『ローリング』『この世界の片隅に』『アイスと雨音』『暁闇』語り人)

『アイスと雨音』初日舞台挨拶(撮影:『アイスと雨音』語り人)

1-2.撮影秘話や裏話が聞ける。

そのトークの中で、撮影秘話やその手法、こだわった点や苦労した話、登場人物の心情、その舞台(街)ついての話、など毎回違った様々な視点の裏話を聞くことができた。そうすることによって、作品を多面的に観ることができるようになり、それを踏まえてまた観て、作品の面白さが2倍3倍になることを知った。
(『ローリング』『この世界の片隅に』『アイスと雨音』『少女邂逅』『暁闇』語り人)

出典:トークセッション完全レポ!@Indietokyo第2回Home Party

それによって、もっとたくさんの方が観た『暁闇』を知りたくて、何度も劇場へ通ったあの毎夜は、永遠に刻まれて、消えないで欲しい夏の記憶である。
(『暁闇』語り人)

出典:『暁闇』初日舞台挨拶|NB Press Online

1-3.キャストやスタッフと会える・話せる。覚えてもらえる。

また上映終了後にロビーでお話できることも多い。その際に直接感想を伝えたり質問をしたりしていると、人となりが見えてきて、監督やキャストがより好きになるという好循環も生まれる。さらに、直接会った際に自己紹介をすると、応援ツイートを見てもらっていたり、覚えてもらっていることがある。やはりそれは自分の作品へ対する想いが伝わったということであり、とても嬉しく感じ、監督やキャストをより好きになるというのもある。
(『ローリング』『アイスと雨音』語り人)

ちなみに、上映前の映画祭での初上映の時からずっと大好きで大好きで大好きすぎて気持ちをSNSに書き続けた僕は、上映初日のサイン会の時に初めて名乗ったのだが、その時の劇場がざわついた瞬間は、一生忘れないだろう。
(『アイスと雨音』語り人)

1-4.知り合いが増える。

同じ空間で感動を共有出来る事は、何事にも変えがたい映画体験だと思う。同じ内容でも、タイミングや地域によってお客さんの反応が全く違うのも面白い。
ミニシアターでは席数も限られているため、何度も観に行っていると、同様に観客の中にも何度も見かける人が出てくる。その時までは面識が無かったのに、劇場では何度も一緒に同じ時を過ごしていたという実に不思議な体験である。そういう人たちは当然好みが似ている人なので自然と話すようになり、それぞれの解釈をぶつけ「そういう見方もあったか」「それは違うんじゃないか」と盛り上がり、それを確かめにまた観にいくなど観客側から受ける刺激もある。
(『ローリング』『少女邂逅』語り人)

『アイスと雨音』は映画というジャンルだけでなく、演劇でもあり、ライブでもある。なので純粋な映画好きのファンだけでなく、演劇をやっている人、劇中で歌っているMOROHAのファンなど、様々なタイプの人もいて、「好き」が違っていたため、出会った人と話すのがとても楽しかった。「これは舞台でもなく、映画でもない、形容できないジャンルの何か」と監督・松居大悟も言っており、「『アイスと雨音』をどのようなジャンルでいえばいのか」という根本から考える部分があるので、他作品よりも多く各自の解釈をぶつけあうことが出来て、余計に刺激になっていた
(『アイスと雨音』語り人)

その体験も出会いも、この映画がもたらしてくれた素敵な「邂逅」のように思う。
(『少女邂逅』語り人)

出典:「MOROHA IV」特設サイト

1-5.その中にある問題点

この数多くの舞台挨拶やトークイベント。実は少し問題な部分もあったりする。それが、
・挨拶だけ見て出待ちするために映画を観ずに出ていってしまう(上映前)
・映画を観ずに上映後に、イベントが始まる直前に入場する
といった人も増えてきているのも事実であるということだ。(大きな映画館で行われる舞台挨拶などでよく見かける)

『アイスと雨音』語り人も、時間が間に合わず本編を少しだけしか観れない、もしくはイベントだけしか観れないということが何度かあり、その度に大変申し訳ない気持ちになっていた。

キャストやスタッフは、自分に会いに来てくれるのも嬉しいと思うが、その作品を観てもらうことが一番嬉しいと思う。だからこそ、その人だけでなく、映画も観て欲しいと思う。

2.テーマが難解、内容が難しい。

昨今の大きな映画館での作品(邦画)は、「大きなスポンサーがついている」「有名どころの俳優をキャスティングしないと売れない」「その俳優のイメージを大きく変えてはいけない」「恋愛モノ・不良モノの受けが良い」などと言った理由により、シンプルなストーリーであったり、テーマを重い・難解なものにしても、そこまで難しく描かない、といった作品が多く見受けられる。

少し脱線してしまうが、どれだけ演技が上手く「カメレオン俳優」と呼ばれていても、有名になってしまうと俳優としてのイメージをつけられてしまい、来る仕事のどれもが似たような役になってしまい、「カメレオン俳優」ではなくなってしまうというジレンマがあったりする。のではないか、というのが売れた俳優の悩みどころ、なのかもしれない。
(『アイスと雨音』語り人の偏見)

話は戻り、その分、ミニシアターで上映される作品は、大きなスポンサーもない。だから、監督やスタッフがテーマを自由にできるというのが理由の1つともいえるだろう。その分少し低予算になってしまうが、有名どころの俳優を使用することもなく、その俳優のイメージも大きく変えることはないそのようになったことにより、テーマを難しくして制作する場合もある。

そのようになると、テーマや内容が難しかったり、または上記の通り徹底的な調査の上で描かれていており、一度観ただけでは咀嚼しきれる内容ではなく、映画全体を理解できることが少ないことがあるのだ。
その後に監督や役者のトークを聴いたり、SNS等で他の人のコメントを見たりしながら「あれってどういう事?」と感じることもある。
そしてそれが「繰り返し観る」に繋がっていき、見逃していたことや初めて気付くことなど、多くのものが見えてくることに興味深くなり、何度も繰り返して観る気持ちも加速させていた。そしてその想いは、20回観ても30回観ても、60回観ても変わっていない
(『ローリング』『この世界の片隅に』『アイスと雨音』『少女邂逅』語り人)

ただ、これは大きな映画館での作品でも起きうることもある。その例が2016年に上映された新海誠作品『君の名は。』である。男女が入れ替わりに数年の違いがあるなど、一度で上手く理解出来ない人もおり、何度か足を運んだ人を見た。それは、今年公開された『天気の子』にも同様の事が言え、こちらも既に何度も足を運んだという人を見ている。

出典:君の名は。 - Yahoo!映画

出典:HMV&BOOKS online

3.どんでん返しなどで作品のイメージや解釈が変わる。

映画を観ている時に「え、これそうだったの?」とそれまで考えていた・思っていたことが覆ることがあったりするだろう。いわゆる「どんでん返し」というのだが、それ以外にも、何度か映画を観ていると、それまで感じたもの、解釈が変わることがあったりする。その解釈の違いを、楽しむために何度も足を運ぶ人もいる。

3-2.どんでん返しの作品例

どんでん返しという意味であれば『猿の惑星』が1番有名かもしれない。しかし、作品自体や、その内容(オチ)が知れ渡りすぎており、もはやどんでん返しと言っていいのか分からなくなっているところもある。それを逆手に取り(?)、リブートシリーズとして、地球が猿の惑星になるまでの過程を『創世記』『新世紀』『聖戦記』の3部作で描いたのは、とても面白いと思った。

出典:Pinterest

3-3.途中で作品のイメージが変わる

途中でイメージが変わる作品といえば、最近では『カメラを止めるな!』がいい例である。「37分ワンカットでゾンビ映画を撮る。」という映画。冒頭の37分間は、そのゾンビ映画をワンカットで撮影したもので、そのあとにその映画を撮るに至ったまでの経緯、そしてその裏側を描いている。その裏側を観てから、その真相を知ってから、もう一度その「37分ワンカット」を観ると、面白いのである。

これはよく演劇で使用される技法であり、『カメラを止めるな!』はそれを映画でとても上手く表現していたのが、評価の対象の1つであると思われる。

出典:カメラを止めるな! - Yahoo!映画

3-4.座る席や映画館によってイメージが変わる

映画も、席によっては当たり前だが見え方が違う。トークイベントなどで「あ、そのシーンでこういうことしてるんだ。」と知ることがあるとするだろう。そうなると「じゃあ今回はそのシーンを見やすい席で観よう」「今回は前の席で細かいところを確認してみよう」「後ろの席で観客の反応を見てみよう」などと思い、作品の楽しみ方がどんどん広がってくるし、そこで観ることによってイメージが変わることもあるのだ。

出典:元町映画館の映画館情報|映画の時間 - ジョルダン

また、映画の内容に合わせて座る位置を変えていたりもしている。例えば体感型(宇宙モノ...等)の視野いっぱいに画面を埋め尽くしたいタイプの映画の場合は最前列を選んだり、画面の情報を隅々まで追いたい場合は後ろの方を選んだり...など。
近年では、同じ映画でも様々な形式が存在している。3Dや4Dはどちらかといえばアトラクションに近く、それぞれの形式で3D演出や場内エフェクト方法も全く異なる為に、毎回新鮮な気持ちで観る事が出来ると思う。

出典:「映画の灯」を絶やさない 歴史にじむ上田映劇躍進中 - 産経ニュース

また、同じ形式でも上映館によってスクリーンサイズも画面比率も全く違う為(IMAXは特に)、座席位置も含めてかなり違う映画体験になり、イメージも変わると思う。
(3-4.全編 『ローリング』『アイスと雨音』『少女邂逅』語り人)

出典:Fan's Voice

4.効果音などの音響に細部にまでこだわっている。

映画館によって違うのは、スクリーンと席の感覚だけでなく、スクリーンのサイズ、劇場の広さなどもある。その中でも更に違うところといえば、スピーカーである。その位置や個数で、音の響きや高さ、声の聴き方が変わってくるのである。

そう、効果音や音響に細部にまでこだわっている作品であればあるほど、多くの映画館で観て、その違いを楽しむ人が出てくる。たまに、同じ劇場でも通っている途中で音の出し方が変わったりもして、面白かったりする。だからなのか、今『爆音映画祭』や、立川シネマシティでの「極上音響上映」「極上爆音上映」などといった、「音」にこだわった上映をする映画館やイベントが増えてきている。

出典:シネマシティ - Wikipedia

「爆音」でいえば、『アイスと雨音』も松本で『爆音映画祭』で観たことがある。
『アイスと雨音』はそもそもが音に細部までこだわっている作品で、シーンは1カットであるが、音はカット数がとにかく多いので、多くの映画館やライブハウス、フェスへ通い、気付けば12都府県23箇所で、その違いを楽しんでいた。

出典:松本で「爆音映画祭」 - 松本経済新聞

4-2.『極上爆音上映』で一番有名な作品と言えば

映画好きで「立川シネマシティで『極上爆音上映』と言ったら」と聞いたら、知らない人はいないんじゃないだろうか。そう、『ガールズ&パンツァー』である。2015年11月21日の公開日から2016年11月25日まで、計371日上映された超ロングランの作品だ。この作品では、戦車ごとにすべて反響を変えていたり、砲撃を衝撃、激走を震動として「体感」することができるようになっていた。期間中には、計100回以上観た人が複数人もいるというのが驚きである。その音1つ1つを楽しみたいがために遠方からその劇場に観に来る人もいるくらいに「音」というのは、映画制作に欠かせないものなんだろうと言える。

出典:ガールズ&パンツァー 劇場版 - Yahoo!映画

5.ロケ地へ行く、ロケ地での上映が行われることで特別感が味わえる。

これは1~4の理由とは少し違い、既に何度か観に行き始めてから生まれてくる魅力になってくるものだと思う。興味を持ち始めると、もっと知りたくなり、そうしてくると次に自然と出てくるのが、「撮影はどこでしたんだろう」というものだ。

5-2.ロケ地へ行くと感じるものがある

『ローリング』は茨城県水戸市で撮影されたのだが、メインのロケ地である大工町で撮影場所を探したことがある。実際にロケ地を見ると映画で同じ場所を確認したくなるのが人情。見知った場所が映画の中に出てくると感激もひとしおである。そしてまた他のシーンの撮影場所が知りたくなり...結果、水戸には何度も足を運び大好きな町になった。主演の柳英里紗さんがこの作品で水戸を大好きになったというのも頷ける。
(『ローリング』語り人)

出典:エキサイトニュース

『アイスと雨音』でも、撮影が行われた下北沢にはよく通った。元々好きな街でもあったので、行くたびに撮影で行われた道中を歩いていた。歩けば歩くほど、感じれば感じるほど、もっと下北沢の街を好きになっていた。下北沢は駅周辺が工事をしていたり、店の入れ替わりが激しいので、その違いを見つけるのも、途中から楽しみの1つになっていた。そのロケ地を見回ったり、移り変わっていった街の風景を多くの人に見てほしいと思い、まとめたものがあるので、興味があれば是非読んでほしい。

5-3.ロケ地で上映される特別感

『アイスと雨音』は下北沢に唯一ある映画館「トリウッド」で上映された。こちらは2018年4月、6月、8月に各自数週間の上映、9月にドキュメンタリー完成記念上映で、12月に下北沢演劇映画祭でと、初めて上映された4月から、なんと再々々々上映されるほど、反響を生んだ

監督の松居大悟が演出を務めた舞台『みみばしる』。この作品は、『アイスと雨音』で舞台となった本多劇場で上演された。2019年2月12日。本来ならば休演日であるこの日に、『アイスと雨音』が上映されたのである。

本多劇場で『アイスと雨音』が上映できるという奇跡。これは、僕だけじゃなくて、多くのファンだけでなく、監督が、出演者が皆喜んだ。唯一の席「柚が座った席」に座ったのだが、今までにない感情が生まれたし、この日から『アイスと雨音』という作品に対しての意識すらも変わった。それほどまでに、ロケ地や、その場所での上映には、特別感がある。

6.公式や劇場の努力に感化される。

写真展や台本の展示、意外な組み合わせでの2本立てや特集上映、応援上映や爆音上映などいろんな楽しみ方を提案してくれると、それは面白そうと行きたくなる。シネマスコーレの坪井篤史さんはこの作品観て何て言うんだろうと名古屋まで足を運んだことも。そういう意味ではミニシアターに行くようになって映画の楽しみ方が随分広がったように思う。
(『ローリング』語り人)

出典:シネマスコーレ - Wikipedia

田端にあるシネマチュプキタバタ(ユニバーサルシアター)等での上映の際には、音声ガイド付きで観賞できる。ガイドで気付く点も多く、お気に入りの作品を、答え合わせ的にここで観るのも面白い
(『この世界の片隅に』語り人)

出典:田端にも映画館があった!「Chinema Chupki Tabata(シネマチュプキタバタ)」に行ってきました

上記の『アイスと雨音』の本多劇場での上映は、プロデューサーの阿部広太郎がどうにか実現しようとして、生まれたイベントだ。他にも、渋谷ユーロスペースでの上映開始時には『アイスと雨音と写ルンです』というFUJI FILMとのコラボ展を実施した。

さらに、渋谷ユーロスペースでの上映開始前にタウンワークとのコラボで「宣伝コピーを考える」というアルバイトを募集した。多くの募集の中から8人が選ばれ、そのコピーはパンフレットに記載されたり、ポスターが作成されたりもした。

その後、「#アイスと雨音のコピー」というハッシュタグを使用し、SNS上でキャッチコピーを集め始めた。プロデューサーと監督の粋な計らいで、その中からポスターを作成をするとの発表があった。

そう、『アイスと雨音』はファンが消費者だけで終わらないのだ。観て感じたもの、生まれた感情を形にすることが公式の手によって出来たのである。それはまるで、作品に参加をしているのとほぼ同じであり、より『アイスと雨音』という作品をより好きになった1つの要因でもあった。

ちなみに僕(『アイスと雨音』語り人)は、A4サイズ22枚(コピー164個と表紙と最後の手紙)というクソ迷惑な形で松居大悟監督に直接渡し、そのうちの1つがポスターに選ばれた。純粋に嬉しい。

出典:アイスと雨音 / Twitter

このように、劇場や公式が努力をしたことによって、その熱に感化され、作品とはまた別の「熱」を持ち始めることもあるのだ。
著者が今こうして、この長い記事を書いているのも、その一環である。

以上が、大きくわけて6つの理由である。
言い方は違えど、やはり感じるところは似るんだな、と改めて感じた。それを感じさせてくれた、語り人達には、本当に感謝をしている。

溢れ出た熱い想いを

上記の6つの理由だけに収まらずに、溢れ出てしまった熱い想いたちがある。そちらも是非記載させてほしい。(『アイスと雨音』語り人はこの記事最後に書くので割愛)

『ローリング』
ほんの5年前までは私もシネコンでメジャー作品をたまに観るという人だった。自主映画とそれを作る監督・キャスト・スタッフ、ミニシアターとの出会いが、映画をより身近にし人生を豊かにしてくれた。ハリウッドメジャーのように自分とは無縁の雲の上で作られたものだった映画が、もしかしたら自分とそう変わらない人たちが一生懸命作っている身近なものに変わった瞬間だった。それによってより自分事と感じられ共感度合いも変わったのかも知れない。

最近はスマホでも簡単に映画が観られるようになった。だがスマホの電源を切って劇場という暗闇に入れば、他の情報はシャットアウトされ、没入できる大きなスクリーンと劇場を包み込む音響から得られる映画体験は、TVやスマホとは比べ物にならない特別なもの。興味のある作品があったらぜひ劇場で観てほしい。そして騙されたと思って、次は少しSNSやネットでその作品の記事や書き込みを調べてから、もう一度劇場に行ってみてほしい。きっと最初は見逃していた事に気付いたり、違った視点で観られたりと二度目ならではの発見があるはず。そんな体験をしてもらえたら嬉しい

『この世界の片隅に』
お気に入りの映画でも、上映期間が短かければ観賞回数は少なくなる。1ヶ月程度で上映終了する作品が多く、短ければ1週間や2週間という作品も。私が20回以上観たのは、いずれもメイン館等で2ヶ月以上も上映された後、更に他の劇場でも上映(ムーブオーバー)されて頑張った作品ばかりだ(『アイスと雨音』『少女邂逅』『カランコエの花』)。そんな素晴らしい作品に出逢えて、観続けられるのはめっちゃ嬉しいことである。

『少女邂逅』
 この映画に出会って起こった、自分の中のもう一つの大きな変化「自分も映画を撮りたい」と思ったことだった。枝優花監督の作品作りに対する想いや、考え方を毎日のトークショーで直に感じる事で、日に日にその想いは強くなっていった。そして様々なご縁が重なり、今年(2019年)の春、僕はオムニバス映画の一編を、初めて自主制作にて撮影した。改めて映画のチカラって凄いと思うと共に、『少女邂逅』との出逢いは、人生の中でも特別な物となった。

『暁闇』
  映画館でたくさんの知らない人と映画を観るということは、孤独だ。けれど、決して寂しいと感じないのは、隣の知らないあなたも、私と同じ映画を観ているという、揺るぎない安心があるから。屋上に向かう三人のように、孤独になるために、私はこれからも映画館へ行くのだろうなと思う。

「登場人物は、全員イヤフォンでしか音楽を聴かない。そういうジャンルの音楽があることを感じていて、その話を描いた映画。」という事を知ったのは、鑑賞前だったけれど、本当はこの言葉だけで嬉しかった。教室でイヤフォン越しに音楽を聴いていたいつかの自分に、観て欲しいなと思う。『暁闇』に出会えて良かった。

『暁闇』語り人のこの内容を頂いたときに、僕はふとあるツイートを思い出した。

この漫画の4コマ目には「映画を一緒に見る事って、きっと一番小さなお別れだ」という言葉がある。この「一番小さなお別れ」と『暁闇』語り人のいう「孤独」というのは同じことであって、でもその映画が終わったあとにはまた「出会える」という「揺るぎない安心」がある。「孤独になるために、映画館に行く」というのは「人に会うために、映画館に行く」というのと同じことなのかな、と思えたのが、とても胸が温かくなった瞬間だった。(解釈が違っていたら失礼)

最後に

完全版、ここまで読んでくださった方ありがとうございました。とても長くて、大変だったのではないだろうか。10000字を越える量になるとは正直自分でも思っていなかった。

それでもと書き続けたのは、協力してくれた方への感謝でもあり、皆魅力を一言で表すのが難しいだろうに、それでもと作品への熱い想いが籠った文章を書いてくれたことに感銘を受けて「これは是非しっかりとまとめたい」と思ったのが強かったからだ。そして映画を映画館に、更に何度か足を運んでいただきたいがためである。
もしNAVERまとめからこの完全版に来てここまで読んだ方がいれば、その方はもう何度か観に行っている方か、これから行き始める人だろう。

『アイスと雨音』という作品に出会って、映画をたくさん観るようになって、このような人々、また別でもたくさんの人に出会えた。それはとても純粋に嬉しい。人生何が起こるか分からないな、と書きながらしみじみと思っている。

今回紹介した5作品の今後だが。

『ローリング』は公開が4年経った今でも、今年1月にアップリンク吉祥寺、7月12日にシネマスコーレと、適宜上映が行われているので、またどこかで必ず上映されるだろう。(公式facebook

『この世界の片隅に』は原作からカットされていた場面を含む長尺版『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』と名前を変え、新たな物語として2019年12月20日から公開されるので、どのようなリアルを見せてくれるのか楽しみである。

『アイスと雨音』は、今年2月12日に本多劇場で上映以降、1度しか大阪で上映されていないが、今後また松居大悟監督の新作が発表された時に、上映されることがあるかもしれない。

『少女邂逅』は随時単発であったり、数週間であったりと、未だに根強く上映され続けているので、必ずまた観れる機会はくるだろう。

『暁闇』はまた2019年9月13日からアップリンク吉祥寺 他で順次公開されていく。

と言った形で、どの作品も続いているし、これからも続いていくだろう。劇場で観れる機会は、まだまだある。

僕も、語り人も、これからも映画を観続けるだろう。上記で紹介した作品以外でも、観続けるものがまた生まれるかもしれない。もし映画館で会えたなら。僕と握手…ではなく、作品の手を取って、その奥へと引き込まれていってほしいどぷん、と。