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第19号(2024年2月9日)米陸軍、自爆ドローンを全軍配備へ。ドローン産業政策で明暗の韓国とロシア(12月期)

 皆さんこんにちは。なんと早いもので20号まであと1号となりました!
 今号は2023年12月期の話題と論文をご紹介いたします。



米海軍が配備する大型UUV「オルカ」とは?

概要
Defense One に12月20日掲載(記事本文
原題 ”The Navy has its first giant robotic submarine”

要旨
 
ボーイングは海上試験の後、大型無人潜水艇(XLUUV)を米海軍に引き渡したと発表した。このディーゼル電気式推進のUUVはオルカと呼ばれており、大きさは明らかにされていないものの全長51フィート、幅8.5フィート(全長約15.5m、幅約2.6m)と推測されている。
 オルカは遂行するミッションに合わせて様々なペイロードを交換することができ、最大34フィート(約10.3m)のペイロードを搭載可能である。またオルカは数か月間人間の介入なしに、ミッションを遂行できるとのことだ。米海軍はこの納入されたオルカをテスト機として使用する予定で、この機体で得られた教訓を元に改良型のオルカが建造される模様である。

コメント
 今回納入されたオルカはかなり大型の機体であることを考えると、損耗の恐れがあるキネティックな任務に投入するとは考えにくく、ISRのようなノンキネティックな任務に投入されるのだろう。
 またペイロードを交換可能にして、多目的用途に使えるようにするのは興味深い取り組みであるが、コストが高騰しそうなのがネックであろう。そして何よりも米海軍はこのオルカを実験機として運用し、その結果を新型機に転換させようとしている点は評価に値する。とにかく試してみないとわからないことも多い。ためしてガッテン。(以上NK)

Boeing 公式X

 UUVとしてはかなり大型の潜水艇になりますね。一体全体何に使うのかが非常に気になります。輸送任務等も踏まえられているのでしょうか?10.3mのペイロードを単一の装備品が占めることは考えづらいのでその点も非常に気になるところです。
 また動力は一般的な潜水艦と同じ仕組みを使っていますから、UUVとは異なり「浮いたり潜航したりして使う」ことになると推測されます。潜水艦も乗組員確保が難しいアセットの一つですから、情報収集等に効果的に活用できればコストパフォーマンスにも優れることになるのではないかと期待します。他方、少数生産になれば他のアセット同様大量配備や積極活用と、それによる体制転換へのインセンティブは働きにくくなります。
 私はウクライナの様相から、小型で柔軟な装備の大量導入がUxV戦略のメリットなんじゃないかと考えていましたが、米国は重厚長大な無人装備品の開発導入にかなり積極的に見え、非常に興味深く感じています。これは短期的に打てる手立てを急ごしらえしつつ、こういった一大プロジェクトを並行して行うことが可能である「持てる者」の行動であって、今少なくとも無人アセットをほぼ何も持たない状態の日本が盲目的に追随すべきではありません。
 他方で、無人アセットが作戦の選択肢として非常に大きな役割を担いつつある中、戦争の変化に懐疑的な空気が漂っていることを懸念します。戦争の本質は変わりませんが、あらゆる手段を駆使して目的を達成しようとする以上、新たな技術が出てきた際の能力化は戦争の様相を変化させますし、皆いち早く取り入れて我の優位を希求するものです。(以上S)

米陸軍、2024年には自爆ドローンを配備へ

概要
Defense One に12月13日掲載(記事本文
原題 ”Army looks to field loitering munitions next year”

要旨
 米陸軍は来年半ばまでに自爆ドローンの実戦配備を開始する可能性があると、米国陸軍将来コマンドの責任者が水曜日に語った。ジェームズ・レイニー陸軍大将は、国防総省で開かれたメディア懇談会で、「来年前半には納入が始まると思う」と述べた。
 陸軍はすでにLASSO (Low Altitude Stalking and Strike Ordnance)  programと呼ばれるプロジェクトを始めており、このプロジェクトは対戦車用自爆ドローンを一般部隊に配備しようという目的を持つ。
 そして、このプロジェクトに基づきスイッチブレード600が陸軍に実験機として納入されている。今回実戦配備される予定の自爆ドローンはLASSO programだけでなく他のプロジェクトにも適用される模様である。

スイッチブレード600 出典 https://www.youtube.com/watch?v=tN2HN6ra4nw

 レイニー大将によれば、自爆ドローンは他の兵器に比べてロジスティクス的にはるかに単純であるために、配備が推進されていると述べた。また、徘徊型弾薬を予備部品や無線機などに使われる補給品リストに加えて、前線での入手をより簡単にするアイデアも披露した。
 米陸軍は各所においてドローンを使った実験を行っている模様である。記事内では、ジョージア州ムーアにおける都市作戦における実験や、フォートアーウィンにあるナショナルトレーニングセンター(National Training Center, NTC)のアグレッサー部隊がロボットを投入しているケースについて触れられている。

コメント
 米国が自爆ドローンの配備を進めているが、このスピード感には驚かされる。導入するドローンの中身が不明だが、スイッチブレード600のようなドローンだけではなくFPVドローンも配備されることになるのか気になるところだ。
 記事内で特に興味深かったのが、ドローンの調達を簡単にするために補給品リストを工夫している点だ。大量配備、大量使用を前提とする徘徊型弾薬には調達の工夫が必要となるのだろう。これが通常のドローンにも適用されるのかが気になる。さらには日本もドローンの調達に関して、この米軍の工夫は見習う必要があるだろう。(以上NK)

 米国がウクライナの教訓を爆速で取り入れているという事実は、ウクライナで実行されている戦術の効果が立証されているということであり、このようなプロジェクトは米軍がこの流れを評価していることの証左だと思います。
 一点気になるのが、ウクライナが現場から自分たちの小さな軍隊の環境や条件に適合したイノベーションを実現させてきたのに対し、米国は引き続きトップダウンかつ、スイッチブレードのような(小型ドローンの主流に比して)重厚長大なアセットを念頭に置いているという点は興味深くもあり、本当に教訓化できているのか?という所です。米国とウクライナでは環境は大きく異なりますから、それぞれ国情に適した取り入れ方をすべきだと思います。
 ただ翻って見れば日本のようにドローンやロボット、AIの活用が軽視され、アップデートされないシステムで戦うことを前提とした状況では評価すらしようがありません。ネットワーク基盤のアップデートから始めなければいけないことを踏まえると、二の足を踏む事情があるのも理解できますが、折角従来の主力兵器の能力を格段に向上させる可能性があるのに…と、残念でなりませんし、今やらなければどんどんCapability Gapは開くけど、大丈夫?と心配です。
 今後米国がどのようにドローン戦略を洗練させていくのか期待するとともに、日本がこのギャップをどう埋めていくのかは引き続きチェックしていきたいと思います。(以上S)

急成長する韓国ドローン企業の海外輸出

概要
聯合ニュース に12月20日掲載(記事本文
原題 「韓国ドローン企業 今年の輸出額が1111万ドルに=目標の4倍以上」

要旨
 国土交通部と航空安全技術院によると、韓国のドローン関連企業17社の今年の輸出額が計1111万ドル(約16億円)と集計された。国土交通部は輸出目標として30億ウォン(約3億3000万円)程度を見込んでおり、目標の4倍以上の実績となった。
 輸出品目の8割はドローン本体であり、ドローンを使用したサービスが11%であった。主な輸出先は米国、カナダ、日本、英国、フランスだった。

出典 https://twitter.com/ReviewVayu/status/1451428664118153217

コメント
 韓国ドローン産業の力強さを感じさせる記事だ。ドローン関連の輸出品目のうち8割がドローン本体というハードウェアであるということは、韓国製ドローンの質の高さを象徴しているといえよう。記事で気になることと言えば、日本がドローン先進国に分類されていることだ。隣の芝生は青く見えるのかもしれない。(以上NK)

 韓国は防衛産業に非常に力を入れていること比較的日本でも注目されております(昨年キヤノングローバル戦略研究所主任研究員の伊藤弘太郎氏が『韓国の国防政策』という韓国の防衛政策を網羅した大著を出版されています)。
 このニュースでもわかる通り、ドローン産業もかなり飛躍していますね。あまり会社数が多いと言えない中でここまでの成果を出せたことは今後の韓国のドローン産業も発展する可能性が極めて高いでしょう。
 なぜ目標の「4倍以上」という高い成果を生むことが出来たのか、来年以降の伸びしろがどこにあるのか、産業の効率化のために何が出来るのか、完成品輸出増を目指すのであれば優れたドローンを他国に売り込むことが出来るのか…恐らく来年の目標は非常に高い位置に置かれると思うので、ぜひとも韓国国内の分析が待たれるところではありますが、日本も学ぶべきものが多いのではではないでしょうか。(以上S)

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