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第14号(2023年12月1日)軍需産業の黄昏 ~民生技術の戦争への”復帰”~ (10月期)

皆さんこんにちは。今号では2023年10月期の記事と論文についてご紹介します。



ハマスの奇襲攻撃におけるドローンとその戦術

概要
 
ドローンの危機管理を研究するDrone SEC が10月9日発表( 本文PDF請求ぺ―ジ

要旨
 
このレポートは紛争中のハマスによるドローンの使用を記録したものとなる。10月7日、パレスチナで活動するハマスを中心とする武装勢力は、イスラエルのさまざまな標的に対してロケット弾やドローンによる攻撃を開始した。これはさらに「アル・アクサの嵐/洪水作戦」として発表され、ハマスの過激派が国境や軍事検問所に何度か侵入した。
 この攻勢における有効な手段となったのがドローンであり、それはハマスの公式チャンネルを通じて関連映像が公開された。映像の一部は事前に準備されたもので練習や訓練の様子の広報となっている。

ハマスの自爆ドローンの一例

コメント
 
10月7日のハマスによる攻撃行動は、イスラエルに大きな衝撃を与えたものと見られています。このレポートはハマス及びその隷下組織等のTelegramアカウントによる広報をまとめたものです。
 ハマスはホビー用及び産業用ドローンを改造して使用しているとみられるほか、イラン系とみられる自爆ドローンを含めその背後に複数の国家/組織の支援を感じさせます。
 ハマスが民間人や人質(特に子供や女性など、抵抗が難しい人々)を盾にテロ活動を行っていることは看過できませんが、ハマスが最近の紛争の経過に注目し、ドローンとアナログの組み合わせを効果的に作戦に取り入れているところには学ぶべきであると考えます。特に、イスラエル軍の警備が自動化されたシステムに深く依存しており、警戒が薄れていた所をドローンによって効果的に攻略していった点は、ハマスの高い情報収集能力及び作戦能力の結果と言えるのではないかと考えました。
 勿論「盛っている」可能性も否定はできませんが、この紛争の結果如何によらず、各勢力の技術や戦術の様相から学ぶべきことは沢山あるはずで、情緒的なことを排した分析が必要だと思います。戦争の予行なんてできませんから。(以上S)

今年の米陸軍協会(AUSA)会議のトレンドはカウンタードローン?

概要
BREAKING DEFENSE が10月23日発表( 記事本文)原題 "Army on the hunt for counter-drone tech as firms show off c-UAS solutions"

要旨
 今年のAUSA会議ではドローンへの対抗手段、C-UAS(カウンタードローン)が大きな注目を集め、それに関する出展が多く見られた。米陸軍ではドローンへの対抗手段に取り組んでおり、2024年にはニューメキシコ州のホワイトサンズ・ミサイル発射場で、最大50機のドローンを撃破する野心的な新デモンストレーションを開催する予定である。
 陸軍の統合小型無人機対策室(JCO)のショーン・ゲイニーによれば30mm機関砲、コヨーテ迎撃ミサイルの他、マイクロ波によってドローンの電子機器を焼くロッキード・マーティンのMORFIUSシステムが有効な技術だと、今までの実験で発見している。また電子戦能力は、特にスウォームに対応する際には重要となると述べ、今後のデモンストレーションでの試験を匂わせた。

AUSA2023で展示された対ドローン車両。電子戦兵器と機関砲で武装している。

 企業側でも対ドローン機材の展示が見られた。英BAE社は自社の装甲車両に30mm砲を搭載できるよう改造するアイデアを展示していた。
 Fortem社はDroneHunterと名付けられた1機ドローンから、標的のドローンへ網を発射して捕獲するドローンを展示した。このドローンはウクライナで実戦投入され対シャヘドにおいて戦果をあげているとのことだ。

同じく展示されたウクライナの実戦で活躍するDroneHunter

コメント
 ウクライナ戦争でのドローンの活躍は、軍事組織にどのようにして敵のドローンの監視や攻撃から自部隊を防護するかという難題を突きつけた。
 今回はその対抗手段として物理的及び非物理的な破壊の方法を問わず様々な手段が提示されたが、やはりスウォームを相手にする場合には電子戦が有効とのコメントはなるほどと思う反面、相手の対抗手段次第では有効性は疑わしくもある。
 対ドローン手段が進化すれば、それを無力化しようとする技術が必ず出てくるし、どの対抗手段にも弱点は存在する。JCO担当者の対ドローンに特効薬はないとのコメントはまさにこうした懸念を踏まえたものだろう。(以上NK)

 今号紹介する論文でも述べられていますが、カウンタードローンについては各国がかなり頭を悩ませており、有効な手立てを講じられずにいる一方、様々な研究者が様々な方法で(割と節操なく)トライアンドエラーを繰り返している所です。
 しいて言えば一つのテーマかつ汎用的な技術であるにもかかわらず、いろいろな分野の専門家が世界中で各々研究をしているために、有効な教訓が散逸しやすい状況にある点は、改善されるべきだと思います。
 ドローンに特効薬はないということでこれらの技術も日を待たずに古くなってしまうのかもしれませんが、デモンストレーションが積極的に行われると、それを目の当たりにした人が連鎖的にアイデアを形にしやすくなるのではないかとも感じました。
 モックアップもわくわくしますが、既にここまでやってるぞ!という事実ほど刺激的なことはありません。カウンターに対するカウンターも今後講じられていくと思いますし、より効果的なカウンタードローンのあり方についてもより追求されていくことでしょうし、それはあなたかもしれません。(以上S)

NATOが初のカウンタードローンに関するドクトリンを策定

概要
The Defense News が10月20日に発表( 記事本文
原題 "NATO to adopt first-ever counter-drone doctrine for member nations"

要旨
 
NATOは対ドローンに関するアプローチとオペレーターの共通訓練についてのドクトリンを採択する見込みとなった。2019年に対ドローンを目的としたハンドブックが作成されており、それを元に指針を示す内容で70~80ページの長さに凝縮されている。具体的な内容は明らかにされていないが、対ドローンシステムの運用方法、マルチドメインと各階層における対抗策の重要性、オペレーターの共通訓練基準の設定に関する提言等が盛り込まれているとのこと。
 このドクトリンの開発はロシアによるウクライナ侵攻に先んじて行われており、2019年にはNATO内部にC-UAS作業部会の設立されている。この文書は今後数週間のうちに、軍事作戦基準の策定を担当するNATO委員会の批准のために送付される。順調にいけば年内に正式なドクトリンとして採用されることになるだろう。

コメント
 ドクトリンとは何か。それは米海兵隊の定義によれば「軍事行動の準備、遂行から戦争の性質までに至る戦争に関する基本的な考え方」である。つまりドクトリンとは軍隊におけるソフトウェアということになる。
 ドクトリンがあることにより、各部隊での取り組みを標準化し、実際の運用における指針を得ることができる。NATOがカウンタードローンに関するドクトリンを策定しているということは、いかにドローンを迎撃するかという課題が喫緊の課題であるかを示している。我が国もドローンに特化したものでもなくても良いが、こうしたドクトリンを整備する必要があるだろう。
 ドクトリンができれば教育・訓練の変化へも繋がってくる。このニュースはドローンという技術が軍事組織を変えている証左だ。(以上NK)

 対ドローン戦について組織的な戦闘のあり方をデザインするということは(現状を踏まえると)かなり厳しい検討だったのではないかと思います。こうした知的な、あるいは抽象的な作業はとても大変で、更に全NATO軍に浸透させようとすると今後も更に困難なことが続くのではないかと思います。
 しかしながらこうした不断の努力が複雑化・システム化する現代戦では必要不可欠だと考えます。末端の努力で現場が何とかなっているというのは日本の様々な組織に見られる光景ですが、C4ISRの中枢は司令部に集中します。今後は、末端の機能の維持や効率化により高い司令部機能が要求されるのではないでしょうか。
 自衛隊はドクトリンが根付かない?と言われて久しいですが、たとえ士長でも最先任者なら指揮官、ヤバそうな気がしたら寝食を惜しんで問題解決に取り組む(取り組まないと白い目で見られる)、などソフトで精神的(というかジリ貧というか)な「空気」はかなり浸透したドクトリンのような気もします。ただドクトリンを「空気感」レベルまで浸透させないと実際の隊員の活動に結びつかないという現実は、戦場における理性的な判断に基づく行動を要求する本来のドクトリンとはかけ離れたものですが…。さて、自衛隊は複雑化する戦い方をどう交通整理し、どう隊員を導いていくのでしょうか?(以上S)

ウクライナの手作りドローンは軍用ドローンより効果的?

概要
Technology Org が10月20日に発表( 記事本文
原題 "Custom-made Ukrainian drones outperform commercial models in terms of efficiency"

要旨
 ロシアによるウクライナ侵攻においては、ウクライナの「手作り」ドローンが工場で製造されたものよりも効果的であることが証明されたとのこと。ウクライナの自家製ドローンは民生用部品を使って組み立てられたり、基本となるプラットフォームとしてホビー用ドローンを使ったりしているが、致命的なイノベーションとなっており、他の国々にも新たな開発の刺激さえ与えている。
 ウクライナの軍用エレクトロニクスの専門家や有志のドローン愛好家達は、開戦当初から、独自のUAVシステムを構築する可能性に注目していた。そして、彼らはすでに、通常レースといった民生用途で使用される電子部品や機器が、コストあたりの戦闘力という点で、高価な軍用モデルの重大なライバルになり得ることを証明することに成功している。
 これらの安価な自家製ドローンは、手榴弾を驚くほどの精度で敵の塹壕に投下することを可能にし、ウクライナ兵の戦闘能力を大幅に向上させている。同時にスイッチブレードのような既存の兵器の限界も記事で指摘されており、スイッチブレードは操作性における難点が指摘されている。

コメント
 民生用の手作りドローンの方が軍用ドローンよりも効果的、コスパがいいというのは最近民生用ドローンが実際にぶんぶん飛んでいる姿をよく見ている私にとっては腹落ちする内容だ。今話題のFPVドローンが目の前で飛んでいるのを見たことがあるのだが、某アーマードコアのような軌道で飛んでいる。下手な精密誘導兵器より精密に終末誘導できるかつ低コストなんじゃないかとその様子を見ながら思ったものだ。
 また記事内ではランセットを引き合いに出してペイロードの問題が触れられており、ランセットよりもペイロードがない自家製ドローンの方が効果的と指摘されていた。これは誘導能力と必要な火薬の量を巡る軍事の歴史に沿ったものだと言えよう。基本的に精密誘導能力が上がれば上がるほど、目標を打撃するのに必要な火薬量は減っていく。ウクライナの手作りドローンも同じように、精密誘導できるために必要な火薬量が少なくても済む、つまりペイロードが小さくても打撃できるということだ。
 加えてウクライナが手作りドローンを作れたのはやはり民間でドローンを自由に使えたからという要因は見過ごせない。日本の規制緩和の櫃いう制を示している。(以上NK)

 家内制手工業化したウクライナのドローンが開発面、経済面で速いイノベーションサイクルの素地となっていることを紹介した記事です。このような動きは開戦以前から存在していましたが、ウクライナ政府が規制改革や資金調達に全力で取り組んだ結果、2022年以降大きな成果をあげてきました。
 ドローンは様々な用途に応じたタイプのものがあり、通信性能や操縦性を除いたスペックでは一概に語れませんが、ウクライナは民間人に開発を委ねたことで非常にバラエティ豊富なドローンを手に入れ、戦場でのニーズに合わせて柔軟に組み合わせることに成功しようとしています。
 平時の国家/軍隊だとこのような取組は非常に難しい(日本を見れば分かると思いますが、法規制が開発の各段階で襲い掛かってくるため個人で対応するのは非常に煩雑で時間が掛かります)システムとなっています。一歩間違えれば即悪用に繋がるという点では当然のことではありますが、産業振興/技術開発の両面から、柔軟な取組を支援する枠組みが必要だと考えます。この先のイノベーションには、今までのペースでの開発ではついていけません。(以上S)

【論考】独自の軍需産業の確立を目指すウクライナー自由世界の兵器庫へー

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