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『ゴジラ』(1954)と原爆

湾曲し火傷し爆心地のマラソン   金子兜太


『ゴジラVSコング』公開前に、関連作品の復習をしておこう!第二弾!
(※本日現在、公開延期になっています)

1954年の主な出来事
・第五福竜丸の被爆
・モスクワで世界初の原子力発電所稼働
・自衛隊発足

1954年公開の映画
・ダンボ
・ローマの休日
・七人の侍
・裏窓
・近松物語
・二十四の瞳

ゴジラとキングコング。もう一方の始まりである『ゴジラ』に関してのあれこれを、いつものように勝手気ままに書いていこうと思う。

物語は、客船、貨物船、漁船などが消息不明になったことから始まる。生存者は「いきなり海が爆発した!」と言っていた。
一方、漁船の被害が出た大戸島では、昔からの言い伝えである「ゴジラ」(現地では「呉爾羅」と言われている)が出現したのではないかと畏れられていた。

ここで、よく見る神にささげる「踊り」の場面になるのだが、今作で見るものは、どちらかというと「舞」に近いかもしれない。
『キングコング』(33)では、原住民が踊り狂っていたが、それに比べると幾分大人しい。

だからといって、どちらがいい悪いという話ではなく、文明の違いと見るべきだろう。
とはいえ、この時代、人口、所得などにおける都市部と地方の格差は大きく、地方ではまだまだこういった風習が残っていたようだ。

この時代、テレビの受信契約数が1万件突破、ラジオの受信契約数は、1200万件になっており、特にテレビ記者の命を張って中継する様子に、テレビ時代の幕開けを感じる。

さて、ゴジラのデータをここで少し。

身長:50メートル
体重:2万トン
出生地:大戸島近海
主要武器:放射熱戦、怪力、破壊力のある尻尾
性質:水爆実験による放射能を帯びて狂暴化
種族:爬虫類
・約2億年前のジュラ紀から白亜紀のあたりに生息していた恐竜が、海底洞窟で生存していたのが、度重なる水爆実験により、その安住の地を追い出された。

ちなみに1950年代、建築基準法により、建築物の高さは31メートルに原則規制されていたため、ゴジラの50メートルという高さは、頭一つ分は抜きんでているという、いい塩梅の高さである。と同時に、これまで見たことも無い高さのものが現れたのだから、その恐怖は想像を絶するもの。という意味でもいい設定である。

これを、現代に置き換えると、画像のようになって、ゴジラはさらに巨大化!

このゴジラに遭遇した都市部の人は、
「嫌ね。原子マグロだ、放射能雨、今度はゴジラ。せっかく長崎の原爆から逃げてきた大事な体なのに・・・・・・」
と、こぼしている。

この「原子(原爆)マグロ」とは、1954年、アメリカ軍がビキニ環礁にて水爆実験を行い、第五福竜丸が被ばくした際、汚染されてしまったマグロのことで、話の流れからすると、「放射能雨」は、原爆投下のときではなく、この水爆実験後に降った雨から放射能が検出されたことを指しているものと思われる。

この台詞で、気になるのが「長崎の原爆」という部分。
通常(映画においては、広島を舞台にしたものが多いという点で)であれば、広島の原爆となるのだが・・・・・・。
3度徴兵された監督の本多猪四郎氏が、長崎の原爆に関係しているのかと思ったが、どうもそうではないらしい(むしろ、広島の原爆跡を目の当たりにしていた)。

「怒りのヒロシマ、祈りのナガサキ」

こんなふうに言われているのだが、広島と長崎で真逆ともいえる反応になる要因はなんだろうか。
・長崎の被爆地は、浦上天主堂などがある浦上地区である
・広島は、原爆ドームにあるように、被害にあったままの状態で保存したことに対し、長崎の浦上天主堂は復興された
などがあるだろうか。

余談になるが、長崎の原爆を扱ったものは、色々な意味で、祈りの要素が大きいように思う。

では、なぜ今回長崎だったのか。
これは結果論になってしまうかもしれないが、この後の展開にその答えがある。

ゴジラによる破壊のあとの本編部分が、静かに静かに祈るように流れていく。この部分が、核の恐怖と悲惨さを感じさせ、じんわりと心にしみこんでくる。

オキシジェンデストロイヤーにより、殺されてしまったゴジラに対して、山根博士(志村喬)が言う台詞が重い。

「このゴジラが、最後の一匹とはかぎらない。もし水爆実験が続けて行われるとしたら、また現れてくるかもしれない」

水爆実験や、核にたいしての警告の言葉であろうが、これをもし、「原爆=ゴジラ」と仮定して、置き換えてみると、意味が大きく変わって、空恐ろしく思う・・・・・・。

最後に、特撮に関して。
特撮部分と、本編部分を合成する際、(例えば、ゴジラを見上げる場面など)役者の視線を合わせるように、徹底的に打ち合わせをしたようだ。この綿密な撮影が、リアリティを生み出している。

この翌年に公開された『怪獣王ゴジラ』は、ハリウッドで、今作を追加撮影、再編集されたものだが、追加撮影されたアメリカ人記者の視線が全く合っておらず、物語に集中できなかった。
ただ、日本人としては、「反米、反核」の部分が丸々カットされていたことの方が問題ではあるのだが、それも当時の時代背景を知る手掛かりにはなるだろう。


湾曲し火傷し爆心地のマラソン   金子兜太

この句は、季語がない。ないのだが、「季語がないじゃん。ダメじゃん」ではない。今回紹介した『ゴジラ』に絡めて、この句を見てみると、「あったことをなかったこと、見なかったことにしてはならない」であるから、「季語はないからスルーするのではなく、爆心地とあるのだから、ここで悲劇があったことを忘れてはならない」と思う。


『ゴジラ』(1954)
監督:本多猪四郎
原作:香山滋
脚本:村田武雄/本多猪四郎
出演:志村喬/河内桃子/宝田明/平田明彦/堺左千夫/村上冬樹/鈴木豊明

参考資料:東宝特撮映画DVDコレクション1『ゴジラ』

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