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オズモンドとの出会い

デンマークで半年間、丁稚奉公をしたハンドメイドの杖の職人にはオズモンドという自閉症の息子がいた。

移り住んだ当日、コーヒーを飲みながら職人たちと話していると、オズモンドが学校から帰宅し

「Hello, I am Osmond.」

と自己紹介してくれた。

自閉症ではいつもと違うことが起こるとパニックを起こしてしまうことがあるが、日本人の男性がこの家に来ることを前もって伝えてくれたようだ。

そのまま彼は薪割りをし始め、「この斧はこういう時に、こうやって使うんだ」と、英語で私に説明してくれたのだが、斧に対する知識の深さにも驚かされた。それがオズモンドとの出会いだった。

1週間が過ぎた頃、父親である職人が学校の先生に呼び出された。

「オズモンドは英語を全く勉強したがらない。ひと言も話さないから、英語の授業はもうやめた方が良いかもしれない…」

と。

それを聞いた職人は

「家ではNao(筆者のこと)と話しているのに…?」

と笑いをこらえながら帰宅し、オズモンドに何故学校で英語を話さないのか尋ねた。

するとオズモンドは怪訝な顔をしながら


「だって、彼らはデンマーク語が話せるじゃないか!」
と答えたのだ。


皆で大笑い。後日英語の授業は取りやめることになった。


実は職人も他の家族も、私が来るまではオズモンドが英語を話せるのか分からなかったのだそう。彼はどうやら、どうしても見たいYouTubeを見るうちに英語が話せるようになったようだ。

職人は「もしドイツ人が来ていたら、彼はドイツ語を話していたかもしれない。彼の才能は誰も知りえないんだ」と得意げに言った。


誰にも無限の可能性を秘めた能力がある。


そう考えると教育とは?福祉とは?…新たな視点が見えてきた出来事の1つ。

(尚工藝代表・宮田尚幸)


シルバー新報 2020年(令和2年) 9月11日(金曜日)発刊号より

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