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【思考訓練の場としての経済学入門】金利とは何か

(1)はじめに:金利はお金のレンタル料

 今回は「金利」についてお話しします。金利は、借金を返す時、借りたお金(元本)に上乗せするお金です。いわば、お金を借りる「レンタル料」です。DVDをレンタルすれば、レンタル料を支払いますよね。DVD本体だけ返せばよいわけではありません。また、延長した場合は延長料金を支払い、無断で返さなかった場合は、ペタルティとして延滞料が発生します。当然、これらの場合も借りたDVDだけ返せばよいものではありません。
 借金も同じです。たまに「借りた金を返すだけなのに、なんで金利なんて取るんだ!」と憤る人がいますが、それは「DVDをタダで貸せ」と言っているようなものです。
 お金にレンタル料が発生する理由は、貸している間、貸主はそのお金を使えないからです。たとえば、あなたは100万円の車を買おうとしているとしましょう。ところが友人が100万円貸して欲しいと言い出しました。ここで100万円を貸してしまうと、しばらく車はお預けです。また、銀行預金の利息が1%つくとします。友人に貸す場合、1%より高い金利を支払ってもらわないと、割に合わないと思うでしょう。
 ところで、レンタルDVDのレンタル期間を延長する場合、DVD本体は返さず、レンタル料だけは支払いますよね。同じように、借金も借りた本体(元本)の返済を止め、金利だけ支払うことがあります(これを「元金据え置き」といいます)。例えば、毎月、利息込みで10万円(元本9万円+利息1万円)返済していましたが、収入が激減し、毎月10万円も返済していては、生活できなくなる場合、元本の返済は止めてもらい、利息の1万円だけ支払います。これで月々の返済負担は軽減されます。
 逆に、金利を払わず、元本だけ支払うことはありません。レンタル料を支払わず、DVDだけ返すようなものですから。

(2)金利は何で決まるか

 金利の計算式は、「金利=元金×利率(%)×期間」です。借入100万円、年利2%、借入期間90日(1年360日とする)なら、金利は、100万円×2%×90/360=5,000円です。ここで期間に注意しましょう。計算例のように、年利は2%ですが、期間は90日しかないので、実際に発生する金利は100万円×2%=2万円ではなく、100万円×0.5%=5,000円です。金融機関のキャンペーンで、デカデカと高い預金金利をアピールすることがありますが、利率は年利で、実際に預けられるのは3か月だけしかないことが多々あります。数字のマジックですね。
「利率」と似た言葉に「利回り」がありますが、別物です。利率は、元本に対する利子の割合であり、利回りは、元本に対する(年単位の)総合的な収益の割合のことです。つまり、利子だけでなく、売却利益も含みます。例えば、利率4%の債券を100万円で購入し、4年後に104万円で売る場合、利率は上記のとおり4%ですが、利回りは、5%です((利息16万円+売却益4万円)÷4年/投資額100万円×100)。
 投資の世界でいえば、利回りはお金が増える「スピード」です。利回りが高ければ、それだけお金の増殖スピードが速いということ。但し、その分リスクも高いということもお忘れなく。
 さて、金利はお金のレンタル料だと言いました。言い換えれば、金利はお金の値段です。値段を決めるのは、需要と供給、つまり貸主と借主の合意で決まります。特に双方の合意がない場合は、日本の場合、金利は5%です(法定金利)。
 お金の値段も、物の値段のように需給関係で決まりますから、お金の価値が高まれば金利は上がり、価値がなくなれば金利は下がります。たとえば、お金をジャンジャン発行して、街中にお金が溢れれば、お金の希少性がなくなるので、価値が下がり、金利は安くなります。逆に、街中からお金が消えれば、お金の希少性が高まり、金利は上がります。
 また、貸す相手の信用力によって金利は変わります。個人間の貸し借りでも、約束を平気で破るような人には、リスクに見合う高い金利を要求するでしょう(そもそも貸さないかもしれませんが)。

(3)金利を因数分解する

 ところで、私たちが銀行などで目にする金利は、「名目金利」と呼ばれるものです。名目金利は、目に見える金利ですが、因数分解すると①実質金利、②期待インフレ率、③リスクプレミアムの3つに分解できます。
 実質金利とはなにか。例えば、100万円を金利1%の銀行預金に1年間預けます。(名目)金利は1%なので、1年後には101万円になります。ところが、同じ期間に物価が2%上昇することが予想されています。つまり、1年後には100万円で買えたものが102万円を支払わないと買えなくなります。これでは、銀行に預けても101万円にしか増えませんから、1万円の損です。つまり、金利は物価上昇に相殺されてしまうので、実質的な金利を求めるには、名目金利から物価上昇(インフレ)の影響を差し引かねばなりません。したがって、上記の例でいえば、実質金利は、名目金利1%-期待インフレ率2%=▲1%となります。
 リスクプレミアムとは、リスクに応じて上乗せされる金利です。個人間のお金の貸し借りでも、リスクが高い人には高い金利を要求するとお話ししました。誰でも、期待するリターンが同じなら、できるだけリスクが低いところに投資したいと思うでしょう。ハイリスクな投資先は、それ以上のリターンを投資家に提示しなければお金は集まりません。だらしのなさは、高くつくのです。

(4)様々な金利

 世の中には、様々な金利が存在します。その中でも、代表的な金利をいくつかご紹介します。
❶ 短期金利
 ① 政策金利
 日銀などの中央銀行は、金融の安定化のため、短期金利をコントロールしようとします。中央銀行がコントロールの目標とする金利を政策金利といいます。日本の政策金利は、無担保コールレート(翌日物)です。これは、金融機関同士が短期間の資金を融通しあうコール市場で、1日だけ借りるときの金利です。
② 短期プライムレート(短プラ)
 金融機関が、優良企業向けに短期間(1年以内)貸し出すときの最優遇金利のことです。
 住宅ローン等の変動金利は、短期プライムレートを基準に決まります。
❷ 長期金利
 短期金利と違い長期金利はコントロールが難しく、市場の需給関係で決まります。そのため、長期金利は「経済の基礎体温」と言われ、景気が悪くなれば下がり、よくなれば上がる傾向にあります。
新聞などで報道される長期金利は、10年物国債の利回りです。長期金利の動きは、住宅ローン等の固定金利の決定に影響します。

(5)金利が経済に及ぼす影響

 次に、金利が他の経済要因に与える影響について説明します。但し、経済は科学の法則の如く、「こうなれば、必ずそうなる」ものではありません。様々な要因が複雑に絡み合って、結果に現れます。そのため、ここでの説明は、経済を読みとく手がかりにはなりますが、絶対的な法則を説明するものではありませんので、予めご了承ください。
❶ 景気
 金利が高いと、支払い利息が増えるため、企業は借金してまで積極的に投資する意欲を失います。逆に、金利が下がると、どんどん借金して投資する意欲がわくので、景気が良くなります。
 中央銀行は、金利をコントロールし、景気をコントロールします。つまり、景気が悪ければ、政策金利を下げて投資意欲を刺激し、景気が過熱したら、金利を上げてブレーキをかけます。
 しかし、日本は何年も超低金利が続いており、金利をコントロールしてもコンマ何%の世界です。多少金利を変えたところで、ほとんどインパクトがありません。そのため、今では量的緩和(お金の量をじゃぶじゃぶにする)などが金融政策の柱になっています。
❷ 株価
 金利が上がると、金利負担が高まり、投資意欲が減退するので、景気が悪くなるとの予想から、株価は下がります。金利が下がると、金利負担が下がり、投資意欲が増大するので、景気が良くなるとの期待から、株価は上がります。
❸ 為替
 高金利の通貨に預ければ、たくさん金利がもらえるとの期待から、高金利通貨に資金が流れ、その通貨は値上がりします。例えば、ドルは円と比べ金利が高いので、円を売って、ドルに換えたいという人が増え、円安・ドル高になりやすいです。
円安(=円で買えるものが少なくなる)になると、外国から輸入品が高くなり、物価が上昇します。すると、人々はこぞって買い物に走るので、企業は生産を増やしたく、ドンドン設備投資します。つまり、投資資金の需要が高まります。また、中央銀行が、過熱する景気にブレーキをかけるため、金利を上げて金融を引締めます。この資金需要の高まりと金融引締めにより、金利が上昇。今度は日本の金利が高くなり、円高・ドル安に動きます。
❹ 物価
 金利が上がると、資産を物で持つよりお金で持っていた方が有利なので、物に対する需要が減り、お金に対する需要が高まるため、物価が下がります。逆に、金利が下がると、物で持っていた方が有利なので、物価が上がります。

(6)借金する際の注意点

❶ 固定金利か変動金利か
 住宅ローンなどを申し込むとき、変動金利か固定金利かを選びます。
 変動金利は、先述のとおり短プラによって決まる金利です。多くの金融機関では、毎月金利が改定され、融資の実行(資金の振込)のときの金利が適用されます。融資後は、半年に1回、適用金利が見直されます。市場の金利が上がれば連動して適用金利が上がり、下がれば下がります。極端な話、借り入れ後、どんどん金利が上昇すれば、適用金利は青天井で上昇します。
 しかし、仮に金利が急上昇しても、月々の返済額はすぐには増えません。返済金額の見直しは5年に一度で、更に返済額が2倍、3倍に増えても困りますから、増額にも上限があります(通常は、1.25倍まで)。
ただし、金利が上昇すれば、返済額のうち利息分の割合が高くなります(=元本の返済が遅くなる)。最悪のシナリオは、利息ばかり支払って、元金がほとんど減らないまま、返済期限を迎えることです。その場合でも、期日までにローン残高を、耳を揃えて返さなければなりません。変動金利は、金利上昇のリスクを顧客が負っているということです。
 固定金利は、ベースとなる変動金利に特約として付け足すもので、いくら市場の金利が変動しようが、固定期間中は適用金利を変えないプランです。変動金利で借りて、途中から固定金利特約を付けることはできますが、逆はできません。
 固定金利は、金利がいくら上昇しても顧客が支払う金利は変わりませんので、返済計画が立てやすい点がメリットです。また、金利上昇のリスクは、金融機関が負っています。その代わり、変動金利よりも金利は高いです。
 低金利が今後もずっと続くと考えているなら変動金利がお得ですし、金利上昇のリスクが怖く、計画的に返済したいのなら、多少高くても固定金利にすべきでしょう。しかし、金利が今後どう動くのかは、誰にも分かりません。自己責任で判断しなければならないのです。そのため、借入する際は、過去の金利の動きや、ニュースなどをよく見て、自分なりの金利相場観を持つべきでしょう。
❷ 元利均等か元金均等か
 返済方法には、主に元利均等と元金均等があります。
 下図のように、元利均等は、月々の返済額は一定に保たれ、元金と利息の内訳が変わります(返済当初は、利息部分が多く、元本部分は少ない)。元利均等返済のメリットは、月々の返済額を無理のない範囲に抑えられることです。
 一方、元金均等は、元本部分が一定で、そこに利息が上乗せされます。借入当初は、残高がたくさんあるので、利息も多く支払わなければなりません。そのため、元金均等は、当初返済額が多くなります。ただし、元本の減りが早いので、返済総額は、元利均等よりも少なくなります


❸ リボルビング払いは要注意
 リボルビング払いは、例えば50万円の商品をクレジット払いで買い、支払いは毎月数千円でコツコツ支払う方法です。月々の支払額が少なく済むので、リボルビング払いでどんどん買い物する人がいますが、これは大変恐ろしい行為です。なぜなら、リボルビング払いの金利はとてつもなく高いからです。実質年率15%も取られることもあります。当然、残高があれば、そこにこの高金利がかかります。ですから、カード会社はリボルビング払いを選択してもらい、月々の返済額を少なくしてもらおうと創意工夫をします。
 気が付いた時には、首が回らなくなるほど残高が膨れ上がることもありますから、リボ払いは、まず選択しないことが鉄則です。どうしてもリボ払いしなければならない場合は、できるだけ早く返済してください

(7)最後に

 今回は、金利の基礎知識を総ざらいいたしました。
 金利というのは、分かるようで、なかなか掴みどころがない概念だと思います。本稿を読めば、生きていく上で必要な金利の知識は身に付けられると思いますが、不足や誤りなど、至らぬ点があれば、ご指摘いただけると幸いです。

【ドリル】

(1)金利は、お金の「(①)料」です。
(2)利率は、元本に対する(②)の割合であり、利回りは、元本に対する年単位の(③)の割合です。
(3)金利は、原則、(④)関係で決まります。
(4)名目金利を因数分解すると、(⑤)、(⑥)、(⑦)に分解できます(順不同)。
(5)中央銀行がコントロールの目標とする金利を(⑧)といい、短期金利は(⑧)で決まります。日本の(⑧)は、(⑨)です。
(6)住宅ローン等の変動金利は、(⑩)を基準に決められます。
(7)長期金利は、(⑪)で決まります。新聞等で報道される長期金利は(⑫)です。
(8)金利が上がると、景気は(⑬)、為替は(⑭)、物価は(⑮)、株価は(⑯)。
(9)変動金利のメリットは、(⑰)が低いこと。ただし、(⑱)リスクは顧客が負う。
(10)元利均等払いと元金均等払いのうち、支払総額が少ないのは(⑲)です。

【解答】
①レンタル
②利子
③総合的な収益
④需給
⑤実質金利
⑥期待インフレ率
⑦リスクプレミアム
⑧政策金利
⑨無担保コールレート(翌日物)
⑩短期プライムレート
⑪市場の需給関係
⑫10年物国債の利回り
⑬下がり
⑭上がり
⑮下がり
⑯下がる
⑰金利
⑱金利上昇
⑲元金均等払い


 

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