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技能五輪国際大会に見る「技術大国・日本」の危機

(1)はじめに

 「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の栄華から数十年。日本の経済大国としての地位は揺らいでいます。GDPが中国に抜かれて3位に転落してから10年近くが経ち、世界のGDPに占める日本のシェアも、16%(1988年)から6%(2018年)まで縮小してしまいました。対照的に、日本を除くアジアのGDPシェアは、6%(1988年)から23%(2018年)まで拡大。コロナ後も、成長は続くとみられています。
 日本国民の中には、日本経済に対し、「もう先進国とは言えない」、「将来は世界から取り残される」などと悲観的な見方をする人もいます。
 一方、「日本は、技術だったら世界のどこにも負けない」と楽観的に思う方もいるでしょう。確かに、日本の技術力は世界から称賛されています。芸術的な職人技には、目を見張るものがあります。
しかし、世界の物差しで測った日本の技術力は、果たして今でも世界トップといえるのか、あるいはこれからもトップをひた走り続けることができるのでしょうか。
 日経SDGs/ESG会議(2020年5月12日)にて、寺島実郎氏(多摩大学学長)は、技能五輪国際大会を例に、日本の技術力について触れました。要約すると①技能五輪国際大会で、日本の順位は下がっている。②その事実を日本国内でほとんど報道されない、③「日本の製造業は、機械化されているので問題ではない」という反論があるが、競技種目は、美容/理容やレストランサービスなど、製造以外の技術でも競われている(その中で、日本の順位は低い)ということです。
 技術を競う国際大会で、日本の順位が下がっているという事実は、技術の面では世界で負けていないと思っている方にとっては驚くべきことでしょう。本稿では、技能五輪国際大会における日本の順位の変遷から、日本の技術力について考察しようと思います。なお、当大会の競技職種の変遷については、割愛いたします。

(2)技能五輪国際大会について

 本大会について、初めて耳にする方も多いのではないでしょうか。中央職業能力開発協会によると、「この大会は、1950年にスペインの職業青年団が提唱して隣国ポルトガルとの間で各12人の選手が技能を競ったことにその源を発し、逐年、参加国および出場選手の増加をみて若い技能労働者の祭典と呼ばれるにふさわしい行事に発展してきました。中央職業能力開発協会は、ワールドスキルズ・ジャパン(WorldSkills Japan)として同大会に日本選手団を派遣しています。」とあります。一言でいえば、「技術分野のオリンピック」といったところでしょう。満22歳以下しか参加できません。獲得した金メダルの数で、国別の順位が決まります。

(3)本大会での日本の順位

 下表をご覧ください。これは、日本が参加を始めた第11回大会から現在までの日本の順位、メダルの獲得数を表しています。

 この表を見ていただければお分かりいただけますが、1960年代~70年代前半までは、日本がトップでした。70年代に入り、韓国が、次いで台北が台頭してきます。80年代に入ると、日本が盛り返してきますが、韓国が首位を堅持します。90年代は、韓国と台北の独壇場です。2000年代は、2005年大会と2007年大会は日本が1位を獲得しますが、それ以外は目立った成績を収めていません。ここ10年については、1位を取れていません。過去2回の大会に至っては、9位(2017年)、7位(2019年)と残念な結果となっています。

(4)まとめ

 無論、本大会の成績だけを見て、日本の技術力のすべてが分かるわけではありません。しかし、目安としては役立つでしょう。
 高度経済成長期、バブル期と日本が大いに繁栄した時代は、技術力も世界をリードするほどでした。しかし、バブル崩壊以降、それなりの技術力は維持しておりましたが、「世界一」といえるほどではありません。直近に至っては、ランク外です。このまま衰退が続けば、日本の技術力がどんどん弱くなるでしょう。「日本の技術力は素晴らしい」という認識を改め、危機感を抱くべきではないでしょうか。
 東京オリンピックを応援することは大いに結構ですが、技術のオリンピックにも注目してはいかがでしょう。次回は、2021年9月22日から、中国・上海で開催予定です。

出典:中央職業能力開発協会
https://www.javada.or.jp/jigyou/gino/kokusai/index.html

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