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「ソー:ラブ&サンダー」の感想(ネタバレあり)

MCU最新作という事で楽しみにして朝から映画館に向かったのだけど、予告の途中で火災報知器が作動してそのまま上映中止になるトラブルが発生。(映画館内ではなく繋がっているショッピングモール内の火災報知器が作動したらしいので映画館でのトラブルでは無かったらしい。)

その後、急いで他の映画館に移動したけど、そこから3時間程おあずけを喰らった感じなので、最近の映画体験の中でもかなり忘れ難いものになってしまった。

ソーシリーズは一作目、二作目が不評なイメージだったけど、今作の前に見直したら結構好きな所も多くて、特にドラマシリーズを観てから改めて観るロキ周りのエピソードはかなり味わい深かった。
あとソーシリーズだけを続けて観るとアンソニー・ホプキンスの情緒の不安定っぷりが凄くて、ファーザーとかと近い印象。二作目の常に不機嫌な理由が結局よく分からないまま映画が終わっていった。

タイカ・ワイティティの底抜けに明るい悲劇

ソーは「バトルロイヤル」と「アベンジャーズインフィニティウォー」「アベンジャーズエンドゲーム」の流れの中で悲劇的な事ばかりが襲い掛かるキャラクターで、MCU作品で言うと前作の「ドクターストレンジマルチバース・オブ・マッドネス」に出ていたワンダと並ぶくらいの幸が薄いキャラクターになってきたと思う。

ただワンダと違うのはキャラクターの持つ根の明るさが異常なのと、演じているクリス・ヘムズワースが「ゴーストバスターズ」等を経て段々とコメディ俳優としての魅力を開花していったのもあって、全く闇堕ち的な展開にならないのがよく考えると結構凄いバランスのキャラクターな気がする。(その心の傷を抉る様に冒頭でギャグ的に今まで死んだヤツをダイジェストとして見せる逞しさにまた爆笑なのだけど)

その根の明るさという部分を引き出し見事に軌道修正したのが「バトルロイヤル」からソーを監督する事になったタイカ・ワイティティなのだけど、間違いなくアイアンマンとキャプテンアメリカに比べ地味だったソーのイメージの一新を成功させた立役者だと思う

コメディシーンの面白さは相変わらずで、最初のガーディアンズとのコラボによるドンチャン騒ぎのアクションシーンがいきなり最高。
エンヤから繋がっていく無駄に長いヴァンダムオマージュの股割りシーン等ずっと笑ってた。
そこからのヤギを貰って(押し付けられて)宇宙船内での大暴れでの、迷惑そうなガーディアンズのやりとりとか、ジェームズ・ガンのノリの踏襲の仕方もかなり良かった。常にめっちゃキレてるネビュラが好き。

「バトルロイヤル」や「ジョジョラビット」でもそうなのだけど、基本的に物語自体はめちゃくちゃ主人公にとって悲劇的な事しか起こらないのに、作品全体のコミカルさが強くてあまり映画として暗くならないのが、この人の作風の好ましい所だと思う。
それでもそのコミカルさの先にちゃんと血肉の通った登場人物の痛みも繊細に描いてるからこそやっぱり重みも感じて、「悲しいけどコミカル、でもやっぱり切ない」のバランス感覚が本当に見事。

ソー

前作では家族や故郷から、ある意味独り立ちする様な物語だったけど、今回はソーというキャラクターを語るのにもう一つ重要な要素であるジェーンとの関係の完結を描いている。

そして今作でも「バトルロイヤル」や「インフィニティ・ウォー」の時と同じくまた愛する人を亡くしてしまう訳だけど、今回はゴアの娘が彼の新たな生きる意味として救いになるラストがなんとも優しい。
この敵の子供を自分の子供として育てる事を誓う所はオーディンとロキの関係と重なり、彼が彼なりのやり方で父と同じ道を選んでいる様でソーシリーズのとりあえずのハッピーエンドとして実はめちゃくちゃ感動的だし、またここで全くウェットにしないタイカ・ワイティティの演出が上品であくまでハッピーに終わっていくバランス感が本当に見事でそれがまた泣けてしょうがない。

あと何気にロキの入れ墨を背中に入れてるのが泣かせる。ドラマ版ロキとの合流があると良いなぁ、、、。

ジェーン

登場していきなり余命幾ばくもない事が明らかになって、ソーの一作目から観ているとかなりショッキング。
ソーシリーズでは、お馴染みのダーシーやセルヴィグ博士が彼女を心配しているのだけど、一作目を観返していたのでみんな歳を重ねて変わっている感じに切なくなった。
もうあの頃のドタバタした愛しい日々は昔になってしまったんだなぁ、、、。

おそらく時期的には「エイジ・オブ・ウルトロン」の辺りのこれまで語られてこなかったソーと彼女が同棲していたカップル期のエピソードが結構生々しい。
神と人間の寿命の違いとかもあるけど、お互いの仕事の忙しさによる行き違いとかで段々気持ちが離れていく描写が普通にカップル倦怠期要素としても見応えがあった。
ジェーンの死に関しては、二作目のダークワールドでオーディンが「人間は歳をとるのが早く病気にもなるし、お前と同じ時を歩めない」と指摘するのだけ今作ではそこをハードに突き詰めている感じで、まさかこんな形で死別する事になるとは、、、。

ムジョルニアを持って健康になるという所で「なんか都合のいい設定だな」と思ったのも束の間、逆に命を削る事になっているというの分かる展開が辛い。
今回明らかになった母親から言われた「闘い続ける事をやめない」という言葉が彼女の人生の何より大切な事で、それを尊重する様なラストのソーとのやりとりにめちゃくちゃ感動してしまう。

ただエンドロールラストの彼女の死後のヴァルハラを描いちゃうのは個人的にはどうなのかな、と思わなくもない。
「ムーンナイト」でも感じたけど、死後の世界まで描き出したらいよいよ収拾がつかなくなってくる気がするし、死んだキャラクターに対しての印象まで軽くなってしまう恐れがあると思うので、この辺は程々にして欲しいかなぁ、、、。

ヴァルキリー

ニューアスガルドが観光地として地球で人気のスポットになっているのは何気にとてもリアル。
エンドゲームの時はまだ地球に来たばかりで、小さな漁村みたいな侘しい感じだったけど、人口の半分が戻り世界に活気が出てきたタイミングでソーの人気も借り、ドイツ村的な商売に切り替えているのが本当に逞しい。カマラちゃんとかも観光したそうな素敵な町。

そしてヘラとサノスの虐殺で立て続けに酷い目に遭ってきた人達なので、本当みんな幸せになって欲しいと思いながら観ていた。
もちろんこちらも基本的にコミカルなシーンばかりなので、そういう辛気臭さは全く感じないのがワイティティバランス。
今回もロキ役をやっていたマット・デイモンがカツラ取ったら意外と老けててめっちゃ笑った。あと子供が攫われた状況で結構なクズ発言してたのも好き。

その辺を取りまとめ市長(?)として頑張るヴァルキリーの手腕がなかなか凄い。ソーがこんな上手いこと出来る訳ないので彼女をリーダーに選んだのは正解だと思う。

ただ本人的には戦士として死ぬという事がやはり大事で、中盤のゼウスの兵隊との闘いとかで明らかに殺した後エクスタシーを感じてる顔とかかなりヤバい人だし、かつて一緒に戦って死んだ仲間たちの元へ早く行きたくて死に場所を探してる様に見える。そこをこそ言葉で攻めてくるクリスチャン・ベールとの演技力合戦がとても見応えがあった。
あと船の中で愛する者はみんな去ってしまった事をしみじみ思い出しながら、スナックのママみたいにコーグと話してる所のテッサ・トンプソンの脱力した演技力がまた凄く良かった。

いよいよもう闘える身体じゃなくなってしまい、今後は後進の教官として生きていく様なラストだったけど、彼女にも今後幸せなラストがくると良いなぁと思う。

ゴア

アメコミ映画的にはクリスチャン・ベールと言えば「ダークナイト」シリーズのバットマン役の印象が強いのだけど、今回の役はバットマンの宿敵のジョーカーとちょっと通じる、相手の弱みに触れてその人の本質みたいなモノを抉り出す様な役だった。
そしてこの闇堕ち感を狂気たっぷりで演じているのがとても楽しそうだった。

死にかけの命を更に削る事で力を得て戦う事を選ぶジェーンとは裏表の関係で、最期に人間性を取り戻した彼がジェーンとソーのお互いを愛する様を観て心変わりする所が凄く胸にくる。
ここの「愛」を絵として見せつける様な演出も下手な人が撮ったら興醒めになりかねないけど、タイカ・ワイティティのこういう所は照れずにストレートに感動させてくる手腕は流石。ここら辺からラストまでずっと泣いちゃう。

全体的には流石はタイカ・ワイティティという感じで今回も素晴らしい傑作になっていたと思う。
ラストに流れるSweet Child O' Mineの曲の余韻も凄く良くて、ダウンロードしてずっと聴いてしまう。

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