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「ぼくのお日さま」の感想(ネタバレあり)

まさにタイトル通り自然光を生かした場面が印象的で、どのカットも美しい。
特に何度も登場する窓から太陽光が綺麗に入ってくる屋内スケートリンクが、ロケーションとして本当に素晴らしくて、あの場所を見つけられた事でこの映画は勝ちだと思う。
雪国の冬の日差しが、見事に表現されていて、限られた期間の小さな物語の特別さを際立たせていた。

この場所でのタクヤ、荒川、さくらの関係性の変化が、苦さも含めて一つ一つが思い出として刻まれている感じが、ドラマとして本当に見応えがあった。

途中、あまりにも真っ直ぐにさくらに見惚れるタクヤと、そのタクヤに思わず視線を送る荒川、自分の姿を見てくれていなかった荒川に肩を落とすさくら、美しい自然光の中でこの映画の中で語られる3人のスタンスを分かりやすくセリフ無しで示してくるこの一連の流れが映画的としか言い様が無くて本当に素晴らしい。

タクヤ

冒頭から野球やアイスホッケー等をやっているけど、どう考えても本人の気質的に合っていなくて、仲の良い友達もいるし、いじめられているとかではないけど、吃音の事もあり、周りから浮いていて小さな町の中で居場所が無い感じ。
そんな彼が思わずフィギュアスケートに打ち込んでいるさくらの練習姿に一目惚れしてしまう所からお話は動きだしていく。
ただ彼女の事を恋愛対象として好きになっていくというより、もっと人間的に「彼女の存在に近づきたい」という想いを強く感じて、彼女の真似をして気持ちを近づけ、理解しようとしているみたいに見えた。

その真っすぐさに惹かれて荒川と少しずつ練習していく事になり、やがてさくらとアイスダンスに、のめり込んでいく。

この流れの中で何が感動的かと言うと、彼が新しく経験する事を常に楽しんでいて、その喜びが伝わってくる所だと思う。
これまで自分が夢中になれる事が無く、何をやっても上手く出来なかったであろう彼が、一生懸命練習して出来なかった事がどんどん出来るようになっていくのが心底嬉しそうで、彼のトレーニングシーンはどれも涙腺を刺激された。

最終的に本人の知ることが無い理由で、彼からすると不条理にその時間は終わってしまった訳だけど、彼がそこに至る経験を胸に一歩を踏み出そうする瞬間で映画終わっていくのが切れ味としても素晴らしかったと思う。

彼の友達役の男の子も良い味を醸し出していた。
タクヤに負けない位、優しい雰囲気で二人でニコニコ話しているシーンはどれも微笑ましい。
タクヤがフィギュアに夢中になっていく事で、彼らの友情がひび割れないか心配だったけど、タクヤと一緒に喜んであげてる感じが泣ける。
結局タクヤとさくらの演技は日の目を見る事が無かった訳だけど、最初から最後まで通しで演技練習した所を彼だけは見ていて、演技が終わった後、嬉しそうに拍手を送るシーンで胸がいっぱいになった。

荒川

かつての自分と重ねたり、あまりにも真っすぐに打ち込むピュアさに惹かれて、タクヤにスケートを教える事になっていく。
タクヤとの交流を通して明らかに性格が明るくなっていくのだけど、同時に映画を観ていこちらは分かっているさくらの想いに全く気付かずに、2人でアイスダンスをする様に仕向けていく流れとかは、かなり危うさも感じて、何気にハラハラもしながら観てしまう。
この辺の大人としてちょっと配慮に足りてない迂闊さみたいな部分がとても演じた池松壮亮の雰囲気とマッチしている感じ。
かつてのプロスケーターが自分と重ねて子供に教えていくというのも、「ラストサムライ」等で子役として輝かしい経験をして、これから頑張っていくであろう若手に何かを伝えていくという、池松壮亮自身の俳優キャリアともちょっと重なる感じがして味わい深かった。

さくら

明らかに違和感を感じつつも、荒川への淡い恋心を胸にアイスダンスをする事も受け入れ、次第に3人での時間に楽しさを見出していくのだけど、彼女自身の本心が見えにくいので緊張感もあるバランス。
クールさと、時おり見せる子供っぽい笑顔がチャーミングで、演じた中西希亜良さんはこの映画で初めて見たけど素晴らしかった。

彼女が結果的に失恋を味わう事になる荒川と恋人の車内でのやりとりを目撃するシーンが橋の途中で立ち止まっている状態だったり、その後の踏切を渡りきらずにカットが終わる所など、彼女の心情をとても丁寧で分かり易く映画的に示していたと思う。

その後の溜まりに溜まったモヤモヤしていたものを荒川にぶつけるシーンはこの映画の中で一番観ながら辛くなるシーンだった。
彼女からすれば、ある意味利用された様な感覚もあるだろうし、荒川からすれば自分のタクヤの為にしようとしていた事の傲慢さに気づかされる痛さを感じる。

それでも荒川がいなくなったラストに彼を象徴する「月の光」が静かに流れているシーンで、決して甘い決別ではなかったけど、彼女のこれからの人生に三人で過ごした時間は刻まれているのを表現しているみたいでグッときた。

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