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「渇きと偽り」の感想(ネタバレあり)

基本的に地方都市のイオンシネマメインで映画鑑賞している身としては、イオンエンターテイメント配給でこういうメジャーじゃないけど、ド渋い作品がくるのは、とても嬉しい。

オーストラリアという土地

当然なのだけどオーストラリアが舞台という事でアメリカの映画とは違う独特な雰囲気が面白かった。
水の貴重さが常にあって、何度も映る土地のカラカラ具合が事件の凄惨さと相まって原題の通りのとてもドライなミステリー作品になっていた。
その現在のパートに対して主人公の黄金時代である過去のシーンでは川の中で泳ぐシーンが入ったりして、絵的に分かりやすく瑞々しさがあって、もう失われてしまった時代として対比された表現になっているのがとても映画的な演出。

ラストの山場でオーストラリアの乾燥した土地にとっての火というのが、どれほど規模が大きい災害に繋がるのかを考えると、あそこはかなり怖い描写だと思うし、そこまで追い詰められた人というのが観ていて苦しい。

残虐な事件の裏側にある厳しい土地で暮らさないといけない人々の悲しいドラマや、主人公自身もその土地でのトラウマと決して無関係じゃないというか誰よりも実は苦しい痛みを抱えていたりする感じはテイラー・シェリダンの映画等とも通じる重みがあった。

ミステリーとしての面白さ

街の人達、亡くなった家族、遺族、元親友の女性、等登場人物全員に胡散臭さがあって、誰もかれも怪しい。
現在の事件の捜査が少しずつ進む度に過去の事件が重なる様にフラッシュバックしていく語り口も上手くて引き込まれる。

主人公自体のキャラクターも面白くて、凄腕の警察官であるのに、かつてのトラウマや、それに伴う住民達の彼へのかなり冷たい対応によって、めちゃくちゃ精神的に不安定で彼自身も信用出来ない感じ。
彼が容疑者と思われる人達に「嘘をついても良い事ないぞ」と、問い詰めるのだけど常に自分が言う資格があるのか?という迷いがある様に見えて居たたまれない。

相棒になる警察官のキャラクターも印象的で最初の頼りない印象からどんどん逞しくなっていくのが良かった。ラストの躊躇なく火だるまになりながら犯人を止めるのがカッコ良くて、精神的に不安定な主人公に対し、初めての陰惨な事件に心をすり減らしながらも常に正しくあろうとする姿勢にグッときた。

彼だけじゃなくほとんどのキャラクターが最初に登場した時の印象から大きく変わって映画が終わっていくのも味わい深かった。
かつて主人公の親友のルークやグレッチェンも終盤までかつての事件に不穏に関係してそうな雰囲気だったけど、彼への想いを考えると切なく響く様なラストの余韻も良かった。

それに対して最初から感じの悪いエリーの父親のキャラクターが怖い。真相が分かった後、更に深く闇を感じる様な佇まいがかなりゾッとして、その真相を知っているのは彼だけというのが救いがない。
過去と折り合いをつけた主人公に対し、永遠に前に進む機会がないのが誰にとっても不幸な気がして、この重みを残して映画が終わっていくのもなんだか不思議な味わいだと思う。

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