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「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」の感想(ネタバレあり)


アレクサンダー・ペイン監督最新作。
結構期待して鑑賞したけど、アレクサンダー・ペインらしい、笑えて優しくて愛おしい傑作だったと思う。

出だしの映画会社のロゴが昔のものになっているし、フィルムカメラで撮っている独特の味わいで、まるで70年代の映画を観ている様だった。
他のアレクサンダー・ペイン作品で言うと「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」ではモノクロで撮影をしていたけど、それと似た効果があると思った。
かつての映画的な映像の味わいで映すことでどんな時代にあっても変わらない人間の営みの普遍性を示しているし、今作の物語でも主人公から語られる「かつての歴史から学ぶ事の意義」というテーマとも親和性が高い。

冬休みの間、閉鎖された学校の中で過ごさなければならなくなった人たちのドラマを見せてくる映画なのだけど、そのやりとりが全部面白くて、ゆったりはしているけど登場人物それぞれの小さな会話や仕草に見える人間性が本当に味わい深い。
ポスターアートとかをよく見ないで観に行ったので、最初の何人かいた登場人物の中で誰が重要なのかよく分からないまま観ていて、途中でメインの3人だけに絞られていく流れとかも、どうなるか予想出来なくて面白かった。
この3人だけが取り残されて、他の生徒達のヘリで運ばれていくシーンが、天国に昇天していくみたいで笑えた。

皆から嫌われ者の教師であるハナム、1人だけ親と連絡が繋がらないアンガス、息子を亡くした調理係のメアリー、この3人がそれぞれ気の毒な境遇ではあるのだけど、同時に性格の悪さみたいな部分も丁寧に描かれる。
そんな三人がお互いの傷と、心の弱さを響き合わせながら、互いに少し成長していくドラマの描き方が本当に素敵。
特にハナムとアンガスが二人で街に繰り出し、それまであまり語ろうとしなかったハナム側のエピソードやアンガスの父親との関係が明らかになり、お互いの人生を讃え合う様な流れが静かだけどめちゃくちゃ心に染みた。

しかしラストに父親に会いに行ってしまった事が両親にバレてしまいアンガスが退学の危機に見舞われる展開が辛い。
スノードームを父親の為に渡してしまったのがきっかけになってしまうのだけど、パーティーで嬉しそうにスノードームを見つめる姿が父親への想いを募らせているのかと思うと振り返ってより切なくなる。
そのアンガスの想いに寄り添って彼の未来を守る為に、ハナムがこれまでの教師の地位を全て捨てて優しい嘘をつく所はそりゃもちろん泣いてしまった。

あと調理担当のメアリーのエピソードもめちゃくちゃ素晴らしかった。
気丈に振る舞っていた彼女がパーティーで自分の気持ちを爆発させてしまうシーンが切なかったけど、2人との交流を通して前向きに生きていく事を選択していくラストもまあ泣いてしまう。

もちろんアレクサンダー・ペイン作品なので、コミカルなシーンの緩急とかも素晴らしくて、それまでゆったりしていた語り口から一転して、アンガスが腕を怪我してからのテンポが上がる編集とかコメディ映画として緩急の付け方めちゃくちゃ巧み。アンガスが後ろで泣き叫びながらハナムが車のフロントガラスをゴリゴリする所で爆笑しちゃった。

あと何度も出てくる校長室にある高級なお酒のオチとかもコメディ映画として上手い回収だった。
「どこかのタイミングでキレた主人公が飲むんだろうな」と予想をして観ていたけど、本当に忘れてたラストのラストに出てきて主人公が飲んだ後「ペッ」と吐き出すのが笑えるし、最後の最後までハナムのチャーミングな毒気が健在したまま映画が終わっていくのが、爽やかに感じた。

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