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「NOPE/ノープ」の感想(ネタバレあり)

ジョーダン・ピール監督最新作。
「ゲットアウト」や前作の「アス」と同じく、映画の印象がコロコロと変わっていく話運びが上手いし、登場人物達の魅力的な人間味、それとこれまでの作品もこだわりは感じていたけど、今回は特に名撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマを起用した映画的な画作りのセンス等も素晴らしくて、完全には分からない所はあっても最初から最後まで映画として圧倒される面白さだった。

名匠ジョーダン・ピール

今回のメインである正体不明の生物がいかにもUFOというシルエットで登場するのだけど、その印象がどんどん変わっていくのが面白かった。
エメラルドがいかにもバズり目的の俗っぽい考えでこのUFOを撮影して見世物にしようとするのだけど、それをこそ否定するようにスマホやカメラなどの電子機器の機能を奪い、挙句に直にこちらを見てくる者を飲み込んでしまう存在。
登場人物のほぼ全員が面白いものを見せる事を目的や商売にしているのだけど、見世物になる側の怒りや手に負えなさを何も考えず楽しんでしまう事のある種の罪みたいなモノを映画を観ているこちらに突き付けてくる様なゾクッとする怖さがあった。

ただこの映画自体が一流の撮影監督であるホイテ・ヴァン・ホイテマがIMAXカメラを駆使しこれ以上なく今映画館で観る事に特化した見世物として作り上げられていて、それが更に重層的な面白さとして表現出来ているジョーダン・ピールの監督としての力量がやっぱり半端ない。
画作りも素晴らしいし、登場人物の人間的な厚み、それを見事に体現する役者の演出力、先の見えないストーリー、とにかくどの要素も高水準で貶す所が全く無かった。
本人の演者としてのイメージもあって、なんとなくホラーなどをやっていてもコメディの要素を期待しながらこれまで作品を観てきたのだけど、もはやそういうコメディ要素とかがなくても、世界でトップクラスの一流の映画監督なんだと今回の作品で改めて感じた。

OJ

父親の死の真相が胸に引っかかっているし、父親の様にはなれないというコンプレックスを抱えている。
そして名前は刻まれない映像になった馬乗りの祖先のある種の伝説みたいモノも家系のプライドになっていて、UFOを映像に残す事がこれまでの家族の汚名返上みたいになっていく展開が切実に感じた。
最初の方は妹のエメラルドが乗り気な様に見えるのだけど、どんどん彼の方がのめり込んでいき、命の危険があったとしても動じない肝の据わりっぷりがカッコいい。
というかそれこそがカウボーイ的で、ラストの馬に乗って危険に立ち向かう姿が先祖の偉大な馬乗りと重なっていてく展開がとても熱かった。

演じたダニエル・カルーヤ、ジョーダン・ピール監督作だと当然「ゲットアウト」のキャラクターが浮かぶのだけど、そちらとは全然違う堅物な職人的な雰囲気で、真面目ゆえのコミカルさとかの塩梅が絶妙だったと思う。
急に妹とタッチし合うテンションの上がり具合とか笑った。

エメラルド

OJがあまりに口下手なので、彼女のコミュニケーション力で補い合っている兄妹なのかと思って観始めたら、そうでもないバランス感が面白かった。兄が交渉下手なので助けに入ってるはずなのだけど、どの場面でもあんまり助けになってないのが絶妙にコミカル。

兄と違い家に縛られず自由に生きていたい人なのだけど、決して家族を愛していない訳じゃなく、父の死をきっかけに兄との関係が少しずつ変わっていき、電器屋のお兄さんやカメラマンを巻き込んで奇妙にチーム化していく流れが熱い。ここもやっぱり西部劇っぽい仲間の集まり方な気がした。

シーン単位で言うとやっぱりOJと「見てる」という事を示す様なサインが繰り返される所がめちゃくちゃ熱くて感動したなぁ。
あとどう見てもAKIRAオマージュとしか思えないシーンが急に入ってきたのは笑っちゃった。

ジュープ

最初、彼のトラウマと彼が今やろうとしている事が繋がらなかったのだけど、UFOの正体が人間には手に負えない猛獣(に近い生物)という事が彼が食べられた後判明して、後から振り返ると切なく響いてきた。

彼がこのUFOを調教する事で過去のトラウマを乗り越えようとしている様に見えた。だからこそチンパンジーの事件での生き残りの女性に見届けてもらう事がとても重要なのだと思う。
まあそれが最悪の悲劇に繋がってしまうのが、皮肉なブラックジョーク的で凄くジョーダン・ピール監督の作品っぽい。
ここで食べられた人がどんな風に消化されるのか結構見せてくるのだけど、胃袋みたいな所を通ってめちゃくちゃ丸呑みされる感じで飲まれた人たちがずっと悲鳴上げているのとか凄い嫌な表現の仕方でなかなか怖い。

演じたスティーヴン・ユァンの一見何を考えているか分からない不気味さは相変わらず素晴らしくて、ジョーダン・ピール作品にもやっぱりハマっていた。今後も癖の強い大物監督の作品とかに沢山出てアジア系のスターとして変な役で活躍してほしい。

あと彼の少年時代を演じた子役の子のちょっとぽっちゃりしている感じが絶妙で、スティーヴン・ユァンの雰囲気とめちゃくちゃ合ってた。
ここら辺もキャスティングが見事だったなぁ。

その他、タイミング良すぎで邪魔してくるカマキリや、宇宙人の着ぐるみの子供たちの無駄に怖がらせる登場シーンや、エンジェルの同僚女性の無駄に不穏な存在感とか、笑っていいんだか何なんだかよく分からないバランスのコミカルシーンとかも沢山入ってて、やっぱり唯一無二なジョーダン・ピール作品という感じでそこら辺の癖の強さも凄く魅力的な作品だった。


前作「アス」の感想↓

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