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「ルックバック」の感想(ネタバレあり)

原作は「チェンソーマン」等でお馴染みの藤本タツキ先生がジャンプ+で配信していた読み切り作品。

少年ジャンプはずっと読んでいるので「チェンソーマン」はすぐにハマって全巻買っていたし、その前作の藤本タツキ先生自身の「映画愛」の要素がこの上なく作品に影響しまくっているのが感動する「ファイアパンチ」も遅ればせながらすぐ購入したし、とにかくどれも傑作ですぐ大ファンになった。

そんな中で読み切り作品でありながら「ルックバック」は個人的には藤本タツキ先生の最高傑作だと思う。
「チェンソーマン」の一部から二部に移る間の期間に配信された作品なのだけど、この間の時期に描かれたというのがまた本編の「藤野」の感情と共鳴している感じで、藤本タツキ先生の現実の事件に対しての怒りや、何故漫画を描くのか?描き続けるのか?という自分自身への問いかけにもなっていて、とても個人的で、だからこそ1人の作家として大切な作品になっているのだと思った。

そんな作家にとって大切な作品を、今作の劇場版ではアニメーターの人たちがその良さを損なわない様にこれでもかと愛を込めて映画にしようとしている姿勢に感動して、最初から最後までずっとチビチビ泣きながら鑑賞した。

冒頭の主人公藤野が学級新聞に載せる四コマ漫画を考え描き進める背中のタイトルシーンは原作に無いけど、エンドロールと対になる様な美しい始まり方でちゃんと漫画から映画的なアレンジが出来ていてとても巧みだと思う。
その後の藤野がどや顔で「5分で考えた」という所でより笑えるようになっているのも上手い。
その他にも藤野が京本の画力に圧倒される展開の時に、一つのクラスが広がって全校生徒に自分と京本との差を見られている心象描写等も原作を映画として語る上での肉付けの仕方が本当に素晴らしかった。

そして、もちろん原作と違い全編カラーで自然光の美しさや、田舎の雨や雪を踏む音等の要素が入る事でより2人で過ごした時間のかけがえのなさが強調されて観ながらどんどん切なさが増していく。
僕の様に原作を何度も読み返してる人間は前半の何でも無さそうに見えるシーンですら、アニメとして生き生きと丁寧に描かれている事で涙腺を刺激された。
音楽に関しても過剰に感動的にはせず、抑えている感じも良かった。

アニメーションとしての登場人物の生き生きとした動きもハイクオリティで、特に藤野が京本と初めて出会った直後の藤野のダンススキップシーンは、藤野と京本の漫画家としての人生が動きだした高揚感も相まって、思わず落涙してしまう。

原作でも何度も読んでいたけど、やはり素晴らしかったのは終盤に藤野が自分が漫画を描いたせいで京本が死んでしまったんじゃないか?と、後悔する場面からの流れ。
藤本先生の作品殆どに共通してる要素だと思うのだけど、主人公が関わった事によって大切な人が負わなくては良かった悲劇に見舞われてしまう展開。
今作が感動的なのは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」と同じ様に(ラストカットの藤野の仕事場にもDVDのパッケージがあった)不幸に対して物語だけが出来る復讐が描かれて、その物語が小さな奇跡を起こして藤野を再び立ち上がらせるシーンだと思う。
漫画を何故描くのか?の問いに「あなたがいたから描いてきた、そしてあなたがいたからこれからも描き続ける」という決意の藤野の背中で終わっていくのが本当に素晴らしい。
原作のテンポの良い切れ味で描かれたラストも素晴らしいけど、今回の朝から夜まで時間が流れる中で藤野が描き続けるエンドロールも凄く良かった。

上映時間は1時間ほどで、普通の長編映画の時間に合わせて余計なシーン等を増やす訳じゃなく、あくまで物語の必要な時間として、製作されているのも原作へのリスペクトを凄く感じた。
それ故に料金とかも特別上映的で高く感じる気もするけど、個人的にはしっかりその価値はある素晴らしい作品だったと思う。

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