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オータム・ビートの感想(ネタバレあり)

独特な味わいなラッパー映画

Amazonプライム・ビデオオリジナル作品。
イタリアでラッパーに打ち込む兄弟2人の20年に渡るドラマを描いた作品。

3章に分かれる構成になっているのだけど、全ての終わりになる3章目で結構意外な展開になっていくのが面白かった。

本場のアメリカじゃないからこそのラッパーの葛藤を描いた映画だとインドの「ガリーボーイ」や日本だと「サイタマのラッパー」シリーズなどがあると思うのだけど、そのどれとも違う後味で映画が終わっていく感じ。

業界内での搾取の構図や、チーム内での関係性の悪化による分裂等、ラッパー映画では定番な要素も出てくるのだけど、ラストでラップに想いを乗せて歌い出すような展開を持ってこないのがラップ映画というか音楽映画として不思議なバランスに感じた。

そもそも主人公が歌えない人であるので、その中でどういう方向に向かうのか先が見えない感じで、3章の冒頭で兄が亡くなった所も驚きが大きかった。

熱いライブシーンや兄との和解で終わるパターンを予想していたけど、姪である兄の娘との関係性を通して、これまでの自分の人生に気持ちの区切りをつけていく様な小さなカタルシスで終わっていくのが個人的にとても好き。
心象風景として繰り返されていたバスケットゴールの下で主人公の側にいる人が変わっていく所が感動的だった。

兄弟

1章からお互いに隠し事があって、チーム内の関係性は実は今にも壊れそうなのだけど、そのすれ違いがどんどん大きくなっていくドラマの見せ方が丁寧でこの一幕目から引き込まれる感じ。

ラッパー映画というと日々の暮らしの中で感じた自分にしか出せない葛藤を自分の言葉で、表現する事に感動する作品が多いと思うのだけど、言葉とラップを2人で作り上げるというのがとても新鮮だった。
パフォーマーとしての華はあるけど言葉に深みが出せない兄、声が出せないからこそリリックに全てを託す弟、この二人が補い合って成立しているからこそ、どんどん二人の仲が裂かれていく要素が出てくるのがハラハラしてしまう。

過去のパートになる2章目で、彼等と母親との関係性や、1章の悲劇的な最後に至るまでの小さな亀裂の様なものが既に匂わされていたりするのだけど、ここのパートはライブとかの見せ場より小さなドラマ描写がメインなので、ここを時系列として最初に持ってこないで2章目にした方が確かに見やすい気がした。
映画館で集中して観れない、途中で停止される可能性がある配信限定作品は3幕構成でも1幕目に掴みになるエピソードを持ってくるパターンはありだなぁと思ったりした。

あと作風的に3つの時代の中での主人公が変化していく感じとか、ちょっとポエティックな映像の作り方のセンスとかはバリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」とかに近い味わいを感じる作品だった。

しかし正直兄が見栄を張りたいからなのか知らないけど、そこまで弟の存在を隠して一人だけのラップとしてパフォーマンするスタイルじゃないといけない理由がよく分からなかった。
あの三人でチームになっているのだからその形態のままで売れようとする道がなんで無いのか見ながら結構引っかかっていた。
あとジョン・レジェンドっぽい曲をジェイ・Zみたいにしたいとかの言い争いは、いくら何でも「言い争い」を入れたいが為の言い争いシーンに感じてちょっと不自然に感じたりした。スタジオレンタルしてから選曲で揉めるのってどうなのか、、、。

それと今回の日本語版なのだけどラップ部分の字幕がある所とない所があって、正直全部訳して欲しかった。
こういうラッパーが主役の映画はやはり言葉がとても重要だし、英語と違ってイタリア語だとニュアンスも読み取れないので、もう少しなんとかして欲しい所。

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