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ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーの感想(ネタバレあり)

チャドウィック・ボーズマン

今回の作品が普通の映画以上に感動してしまう要素として、言うまでもなく2年前に亡くなったブラックパンサー役のチャドウィック・ボーズマンへの哀悼を作品の中に盛り込んでいる点だった。
出ている俳優が亡くなって映画製作が続行される場合、作品内で演じていたキャラクターはどこかで生きている事にするというのもあると思う。
ただ今作は作品内のティチャラに関してもはっきり急死してしまった事にしていて、冒頭の亡くなりかけている彼に対してあまりに無力でなす術がないシュリ達の様子が実際の誰かの死を前にする様な緊張感と、とても生々しい怖さがあった。
そして劇中のお葬式シーンと、いつもの軽快な音楽がないチャドウィック・ボーズマンの映像のみのマーベルファンファーレで、観ているこちらも映画の登場人物と同じく悲しさで胸が苦しくなる。

それでもこの映画はその死を皆受け止め必死に前に進もうとする事自体が大きなテーマになっていて、今作の主人公シュリが死後先祖達が行く草原の存在を信じられず、「ただ自分の心を慰めているだけ」と否定している状況から映画は始まっていく。
それ故に気持ちのもっていき場所がなくて、自分を責め続けたり、心が耐えられなくなり世界を敵視する予兆すらあるのだけど、ネイモアとの死闘の末に女王となって成長していき、最後に葬儀の服を燃やして自分の気持ちにケリをつけるシーンでしんみり終わっていくのが切なくも感動的。

そしてこの映画を完成させる事自体がライアン・クーグラ含め映画に携わったスタッフやキャスト達の彼の死を乗り越える為の儀式にも感じて、物語を続けようとする意義みたいな部分にも胸が熱くなる。

ライアン・クーグラ監督作品

予定されていた脚本は当然だけどティチャラの目線で書かれていた作品だという事で、おそらく大部分を変更していて、そんな状況の中でもこれだけの作品に仕上げているのはとても凄いと思う。

短い期間内でどういう作品に変更するのか?当然めちゃくちゃ大変だったはずで、そこをチャドウィック・ボーズマンという偉大な役者に対しての多大な敬意をもって、キャスト陣も含めてみんなでカバーしようとしているのが冒頭から泣けてしょうがない。

僕は「クリード/チャンプを継ぐ男」が生涯ベスト映画なのだけど、監督であるライアン・クーグラの好きな所は登場人物達を記号的じゃない血の通った人間として描き切れる人情味みたいな部分で、前作の「ブラックパンサー」もそうだし、今作もヴィラン側の登場人物が何故そういう考えに至るのか?しっかり寄り添った物語になっていた。
だからどっちの言い分も分かるので、よくあるヒーロー映画の様に勧善懲悪じゃなく「争い」に対して観てるこちらも痛みを感じる作りになっていて、それが僕は嘘がない感じがしてとても好きだ。

シュリ

冒頭で兄が亡くなり、映画中盤では母も亡くし、悲しみから抜け出せない状況であれよあれよという間に王女としての重荷を背負う事になる。前作のティチャラと比べてもハードな境遇だし、精神的にもまだ子供なわけで、見ていてかなりしんどい気持ちになった。

そんな喪失の中でも、新たなハーブを製造し能力を手にしようとするのだけど、これまでの歴代のブラックパンサー達は通過儀礼的な儀式を通して精神面もブラックパンサーとして相応しい人間になった後ハーブを飲んでいた。
この段階ではシュリは自分が何をしたいのかハッキリ定まっていなくて、そんなあっさり超人的な力を手にして良いのか?と観ながら思っていたら、そこにつけ込むように現れるのがキルモンガーという流れが本当最高だと思う。死んでも自分の想いを遂げようしてるみたいで本当に逞しい。
彼とのやりとりで、迷いが復讐に傾いていき、それを象徴するようにキルモンガーカラーの金色のスーツを身にまとっていく。

ただここでのキルモンガーのスタンスがただ復讐へと唆すだけのバランスには決してなってなくて「気高い兄になるのか?それとも俺の様になるのか?」と、あくまで問いかけるだけなのがとても良かった。
チャドウィック・ボーズマンがいないからこそライアン・クーグラが多大な信頼を置くマイケル・B・ジョーダンが反面教師的だけど新しいブラックパンサーを導くというのがかなり納得度が高くて、感動的なサプライズになっていた。

その後、ネイモアとの痛みを伴った闘いの末にギリギリで自分の気持ちと向き合うシーンはとても感動的でクリードの時もそうだったけど、こういう登場人物の心情をフラッシュバックで表現するのがライアン・グーグラはめちゃくちゃ上手い。
ネイモアからの攻撃のシーンが逆回しになっていくのが、敵だけど何故ネイモアがこうなったのか?を彼女が必死に考えているのが伝わってくる。
そして「彼もまた自分たちと同じ様に民と国を愛している王だから」という考えに至っていくのを映画的に表していて、ここからずっと泣きながら観ていた。

そこで会いたかった母が現れ背中を押し、復讐から解き放たれたタイミングで、ブラックパンサーのテーマ曲が高らかに鳴り響くカタルシスが本当に素晴らしかった。

ネイモア

ヴィブラニウムによって発展したワカンダと写し鏡的な都市のビジュアルがまず素晴らしい。
海底世界モノのアメコミ作品といえば先にDCでアクアマンをやられていて被るかと思いきや、あちらは宇宙都市みたいな未来感を打ち出してきたのに対して、こちらは古代ヤマ文明要素とかを入れて、いい具合に差別化出来てた思う。

キャラクター的には前作のキルモンガーとも通じる支配的な考え方もあるのだけど、ワカンダ自体も嫌悪していたキルモンガーとは違いあくまで自分の国の事を第一に考えていて、ヴィランというよりは良き王としての一面の方が印象に残る。

だからラストの戦闘シーンは胸が痛むし、命を落とす様な展開にならなくて良かった。

演じたテノッチ・ウエルタは個人的には「マードレス闇に潜む声」の旦那さん役の印象しか無かったのだけど、前作のキルモンガーと同じく人間臭くて深みのある悪役をしっかり演じ切っていた。

現状MCUで海をテリトリーにしているのは彼等だけだし、今後も色んな作品で活躍しそうな気がする。

リリ・ウィリアムズ

今回から初登場で今後はドラマ作品も決まっている新ヒーロー。おそらくシュリと一緒に次のトニースタークの様な位置になっていくキャラクターだと思う。
スーツのデザインとかがアイアンマンとはちょっと差別化した感じでよりロボットアニメ感があって良かったと思う。

こないだの「ドクターストレンジマルチバース・オブ・マッドネス」に出てたアメリカ・チャベスや「ホークアイ」のケイト・ビショップや「ミズ・マーベル」のカマラちゃんとかとヤングアベンジャーズになるという噂もあるのでその辺も楽しみだなぁ。

ただ今作の彼女のエピソードに関してはかなり性急には感じた。ヴィブラニウムを探知できる装置を初めて作ったという理由で物語に絡んでくるのだけど、ネイモアの彼女一人だけの命を奪えば解決という考えがなんだかピンとこないし(製造方法がすぐ広まるとか考えてないのかな?)、その後段々彼女の命を奪う事から地上への攻撃に話がすり替わっていくのもなんだか無理を感じた。

チャドウィック・ボーズマンが主演の元々の脚本ではもう少し無理のない登場の仕方だったのかもしれないけど、今作に関してはちょっと微妙な印象。
もちろんキャラクターとしてはとても愛らしくて魅力的だったので次のドラマシリーズは楽しみ。

そんな感じでMCU作品としてはかなり特殊な位置付けになる作品ではあると思うけど、亡くなってしまったチャドウィック・ボーズマンに対する愛が溢れたライアン・クーグラらしい優しい作品として成立していたと思う。

またブラックパンサーシリーズをやるのか分からないけど、次回作も楽しみ。

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