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「さがす」の感想(ネタバレあり)

劇場で観れていなかったのだけど、早くもAmazonプライムビデオの見放題に入ってきたので鑑賞。
ちゃんと映画館で観とけば良かった、、、と後悔する位めちゃくちゃ面白かった。

独特なサスペンス感

片山監督の前作「岬の兄妹」と同じく重々しい雰囲気はありつつ、基本的にチャキチャキの大阪弁で話す人しかいないので吉本新喜劇を見てる様な軽快さもある不思議なバランス。
最初の万引きした父親を娘が迎えに来てからの店長や警官とのやりとりとか、本当に新喜劇の出だしでありそうな雰囲気だし。
そこから父親が行方知れずになってからの娘の探索シークエンスでは不穏さは常に漂いながらも、彼女自身のキャラクターが全く暗くないのでじゃりン子チエ的なコミカルさもあってずっと面白い。
脇を固める彼女を好きな男の子や、担任の教師も悪い人達ではないけど、絶妙に好きになれない信用出来なさが常にあってこちらもやっぱり不思議なバランス。

そこから後半で物語の全容が明らかになっていき、タランティーノ映画みたいな大人達のつかず離れずな騙し合いの様な展開になるのもめちゃくちゃ引き込まれた。

そして観ているこちらの倫理観を揺さぶってくる様な重い問いかけにもなっていて、それがまた凄まじい。
ほとんどのキャラクターが一般的な「正しさ」の価値観からはみ出てしまった人達なのだけど、じゃあどうすれば正解だったのか、こちらに問い続けてくる様な重さが胸に残る。「岬の兄妹」から更に磨きがかかった僕らの生活と地続きな地獄描写とエンターテイメント性とのバランス感が不思議だけど面白い傑作だった。

出る映画のほとんどが傑作で今絶好調な伊東蒼が相変わらず名演を見せていた。
今回も幸の薄い役ではあるのだけど、自分の中にある筋を絶対通そうとする芯の強さが観ていて気持ちが良かった。

母親を失った痛み故に父親を失うことをとても恐れていて、前半は彼女の父親探しの熱意にちょっと圧倒されるのだけど、だからこそラストに彼女が自分の「正しさ」を信じて父親離れする選択をする所は苦いけどとても感動的だった。

冒頭のしょうもないやりとりが最後に繰り返され映画が終わっていく余韻に痺れた。

前半の駄目だけどどこか愛らしいチャーミングさが漂う雰囲気から一転、後半からの彼の抱えている闇が明らかになっていく展開が観ていてビックリ。
最初観た印象からどんどん変わっていく男を佐藤二朗が見事に体現していて、個人的にはこれまで観た中でダントツのベストアクトだったと思う。
途中かつて妻にしてあげた様に森田望智の服のボタンをかけてあげるタイミングで、思わず抱えたものの重さに耐えられず泣き出す所は、個人的にこの映画中で一番好きなシーン。やはり根っこにある人の良さを捨てきれない彼の人間性に泣いた。

その他奥さんを亡くすに至る経緯が地を這う様に重いトーンで観ていて苦しい。また奥さん役が「恋人たち」でお馴染みの成嶋瞳子なのが素晴らしいチョイスだと思う。

山内

ミスミソウなどでお馴染みの清水尋也の死んだ目のど変態殺人鬼役がピッタリハマっていた。

彼のバックボーンはほとんど描かれないので、実際に何を考えてああなったのかは想像するしかないのだけど、決して記号的な殺人鬼として描かず、腹を空かしながら寝る場所を探して逃亡する泥臭くカッコ悪い人間として描いてるのが、あまり見ないバランスで面白かった。
楓に追われてズボンを脱がされてパンツ姿で逃げていくシーンとか緊迫感とコミカルさのバランスが絶妙で笑ってしまう。あとAV集めが趣味の老人との関係も笑っていいんだか何なんだかで最高。

そして本心は見えないけど彼が殺しを行う論理の「正しさ」みたいな部分を否定せずに佐藤二朗が受け継いでいく様な流れが、うすら寒い怖さがあった。
常にこちらに問いかけてきて、どういう風に映画が終わっていくのか予想出来なくて彼が死んだ後の展開にとてもハラハラした。


その他、自殺依頼をしたムクドリ役の森田望智とかも素晴らしい。この人も本当毎回役毎に全然違う雰囲気で凄い俳優さんだ。今回も年齢不詳の胡散臭い人を人間臭く演じきっていた。
あとほとんど出てないけど、黒田大輔率いる刑事達の仕事出来そうで全然出来てない、あんまり熱量がない雰囲気が妙に生々しくて面白かった。

是枝裕和監督や深田晃司監督など、世界の片隅で不幸の中にいる人々の営みを撮る名監督はいるのだけど、片山監督はその誰ともまた違う雰囲気で本当に面白い。
改めて今後どんな作品を撮っていくのかとても楽しみな監督さんになった。

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