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「エターナルズ」の感想(ネタバレあり)

MCU最新作にして、「ノマドランド」でアカデミー賞作品賞、監督賞を受賞したクロエ・ジャオ監督の最新作。

生き生きとした重厚な人間ドラマ、神話的に美しい画作り、そして自分を支えていたモノを失ってどう生きるのか?というストーリー、振り返ると作品のトーンは違うけど前作ノマドランドと通じる要素が多くてしっかり映画作家としてのクロエ・ジャオの刻印は押されている。

それでいて「支配と自由意志との闘い」という王道ヒーロー映画な側面もしっかりあって、めちゃくちゃMCUな作品にもなっている。

クロエ・ジャオ力

ロッテントマトとか観ると賛否がかなり分かれているらしいけど、僕はMCUの中でもかなり好きな方の作品になった。
あまりにビジュアルが美し過ぎてヒーロー映画らしからぬ感じもするし、これまでMCUを観てきた人にとっては馴染みのないメンバーが今までの作品と繋がりもないままいきなり10人も登場するし全然アベンジャーズと絡まないし、「MCU映画観に来たのになんか退屈だなぁ」と思ってしまう気持ちもちょっと分かる。

ただ僕はとにかく全シーン、画作り、登場人物の魅力、語り口など映画的な感動に溢れていて、個人的にはこれまで観たどのMCU作品より美しい作品になっていたと思う。

彼等が地球に降り立つシークエンスから素晴らしい。
まず海辺のロケーションの美しさに目を奪われるし、魚を切れないナイフでギコギコ捌いてたりするそこに住む人間生活の生々しい存在感、あと息子を庇う時間稼ぎの為に怪物に食べられる事に躊躇しない父親の顔つきとかもいきなり良くて脇に至る役者選びの確かさとかも良いし、映画的魅力に溢れたクロエ・ジャオ印がこの時点で担保されている感じ。

ただノマドランドと違うのはここでヒーローが登場する所なのだけど、特殊能力アクションセンスもかなり良い気がする。
終盤もそうだけど大事なアクションのシーンが明るくて見やすいのもポイントが高い。
ここでのそれぞれのメンバーの能力、考え方、関係性など説明台詞なしで一気に的確に分かる様に見せる手腕も見事。

そして終盤と対になる様な絵画的な美しいシーンから、ピンクフロイドの「Time」に乗せてお馴染みのマーベルのロゴに繋がっていく、この冒頭の流れだけで映画的な快感に溢れていて「傑作確定では?」という気持ちになってしまった。

セルシ

今回の映画の主役と言って良いと思う。
観ている間は気づかなかったけど「偉大な前任のヒーローがいなくなり、自分がその重い責任を引き継ぎ、闘いの中で自分にしかできない役割に気づき、これまで誰も出来なかった偉業を成し遂げる」という彼女目線の大まかなストーリーを振り返ると、めちゃくちゃMCUの王道ヒーロー映画じゃん!って気がしてくる。もちろん支配と自由意志との闘いになっていくのもそうだし。

不老で学芸員的な仕事をしながら人類を見守っている女性ヒーローというと、ガル・ガドットのワンダーウーマンが真っ先に連想されるのだけど、人間としての姿でも超スーパー美女なダイアナと違い、セルシの方は服装とかかなり地味で学芸員としての佇まいがとてもリアル。
あと僕らと同じ様にスマホとかにもしっかり依存されていて、自分が初めて地球に降り立った時に渡したナイフが博物館の広告になっているのを思わず写真で撮ってしまう所とか神目線と人間的な俗っぽさが共存している感じでとても面白い。
ジョン・スノウでお馴染みのキット・ハリントンとの関係もちゃんと不老とか関係なく恋をしている感じが良かった。
しかしこの恋人に自分の正体がバレた所の描写が思いの外あっさりしているのが結構新鮮だったのだけど、宇宙人に人口の半分消されて戻ってきた後なので世界中の人が大概の事に驚かなくなっていて、それが逆にMCU世界の中でのリアルさを感じた。

中盤のキンゴのドキュメンタリー映画のインタビューに上手く答えられないシーンで、コミカルだけど彼女が自分に自信がなくリーダーとしての資質が欠けている、と周りも思っているし本人もそう思わされているのが伝わってくる。
特にイカリスとキンゴが彼女のリーダーとしての資質を明らかに信じていなくて、人間と同じくエターナルズ内でも男性優位な空気が強いのが面白いし、だから彼女のリーダーとして背中を押すのが、エイジャックやセナなど女性なのもしっかり現代的な物語になっている。

演じたジェンマ・チャン、キャプテンマーベルにも出てたけど言われないと全く分からないレベルなので問題なし。
というか今回ラストに声で出演してるブレイドのマハーシャラ・アリもそうだけど、仁義なき戦いシリーズみたいに一度死んだ人も別の役で出すのをもっと積極的にやって欲しい。

イカリス

真面目だし、男前だし、目からビームでも分かる通り明らかにスーパーマン的な雰囲気なのだけど、ザ・ボーイズはじめ最近のアメコミ作品の流行りとして逆にこういう奴が一番胡散臭い!という予想通り終盤で裏切りが分かる。

ただこの作品が凄いのは彼を「ザ・ボーイズ」のホームランダー的なサイコパスとして描くのではなく、あくまで人間的な痛みを持ちながらも裏切るしかなかった悲しい男として描いている所だと思う。特にエイジャックを殺した後の表情が辛そうで痛々しい。
この辺はロブ・スタークでお馴染みのリチャード・マッテンの育ちの良い雰囲気が効いている。
土壇場でセルシと過ごした日々を思い返し、使命じゃなく自分の本当の気持ちに向き合い彼女を殺すのをやめる所は、唐突に感じてもおかしくないのでだけど、彼の思い出す記憶の演出の仕方が上手いのでとても感動的に響く。
その後、彼がしっかり謝り、取り返しがつかない事を理解して消えていくので、やっぱり全く嫌いになれないバランス。

エイジャック

原作知らないので何とも言えないけど、戦闘員タイプじゃなく回復系の能力の人がチームリーダーなのが、こういうヒーロー映画であんまり観た事なくて意外だった。
しかしサルマ・ハエックの菩薩の様に優しいどっしりした存在感でこんだけのオールスターキャストの中で、リーダーとしての説得力凄い。

彼女がこれまで従順に上の命令に従ってきたのに、考えを変え人類を救おうとしたきっかけがエンドゲームでのアベンジャーズの偉業だったのはとても感動的。
人類最大の悲劇に対して決して諦めなかったヒーロー達の「人間なめんな」な精神によって心が動いてしまうのは、これまでMCUを観てきた観客と同じ目線で、やっぱりこの映画もMCU世界のヒーロー映画なんだ!と、実感する。

ファストス


最近だと「ゴジラvsコング」でのヤバイ陰謀論者でお馴染みのブライアン・タイリー・ヘンリーが愛嬌たっぷりに演じていた。
人類に技術革新を促す役割を担っているが、それが結局戦争と密接に繋がっていて、同時に人類の殺戮の歴史を促してもいる。
この技術促進がMCU世界特有のワカンダの技術やアイアンマンのアークリアクターとかフィクション的なものじゃなく、あくまで人類の兵器の歴史そのままなのがとても重い。
彼が一番心を痛めてしまうきっかけが広島への原爆投下なのが日本人的にはかなりグッときてしまう。アベンジャーズ一作目とかでとりあえずお決まり的に出てきた核描写ではなく、この映画では「人類最悪の発明と悲劇」として原爆を取り扱っている真摯な姿勢に感動した。
ちょっとしか写らないのに見た目もちゃんと広島の町になっていて、日本描写としてもめちゃくちゃ説得力がある。

彼の家族との関係性もとても良かった。多くは語られないけど彼の夫が仲間と合流する背中を押すシーンとか素晴らしいシーンだった。

マッカリ

耳が聞こえないという設定が超高速スピードで走る際のソニックブームに影響されない為というのが素晴らしいと思う。
障害ではなく進化のために聴覚を捨てているというのがシグルイ的で熱いし、演じたローレン・リドロフが実際に聴覚障害がある女優さんというのも彼女のキャラクターに説得力を持たしている。
何よりこれを観て彼女がそのままの魅力でヒーローを演じた事で救いになる人が世界中にたくさんいると思うし、とても意義深いヒーローになっている。

超スピードの演出も新鮮で、世界中を一瞬で走って偵察する所の当然の様に水面を駆ける感じも観てて面白い。

ドルイグ

普通こういう人を操る系の能力の奴は大体ヴィランになる事が多い気がするのだけど(ジェシカ・ジョーンズのキルグレイヴとか)、あくまで神目線で人間の暮らしを良くしたいという想いがあるのに、基本的に使うことを禁じられているのが面白い設定のキャラクターだと思った。

中盤のエターナルズが解散する時に彼がため込んでいたものを吐き出すシーンが観ていてとても辛かった。
戦争を無くせるのに見ているしか出来ない事に、実は誰より傷ついていた事が分かる。

それ故に誰も傷つかない理想郷を作り守り続けていたのがあの村なんだろうけど、争いはないが彼が管理している事でミッドサマー的な閉塞感もある。
彼だけが、神がいてその周りに人々が暮らしているという生活スタイルから抜け出せていないのが実は一番過去に囚われている気もした。

最初の方でファストスと意見が対立していたけど、最終的にどちらも人類の争いに嫌気がさし隠居生活をしているのが興味深い。

マッカリとのカップリングもとても良くて、観ていてずっと微笑ましい。

ギルガメッシュ

気は優しくて力持ち、それでいて癒し系というマ・ドンソクの魅力これ以上なく理解できているクロエ・ジャオ監督の演出力は流石としか言いようがない。
めちゃくちゃ強くてバリバリ戦闘員タイプなのにその人生の殆どを介護生活に費やし、エターナルズの中で誰よりも優しい彼とセナの関係に泣いた。
彼の優しさがあったからこそ、セナは愛を理解し地球人を誰より愛しているセルシをリーダーへと背中を押すシーンの流れがとても感動的で、いなくなっても終盤までちゃんと存在感がずっと残っている。

食卓のシーンでイカリスに「お前次のリーダーになれなかったもんな!」とか、スプライトに「スプライトには子供様の飲み物!」とか本人達が本当に気にしてる事をズバズバ言うのにそれで受け入れられてる感じが家族描写として奥深い。
マ・ドンソク、これをきっかけにハリウッドでの仕事増えると良いなと思う。

そういや彼がトウモロコシで口噛み酒を作れるって事はエターナルズも体液とかは人間と同じ成分って事で良いのかな。

キンゴ

彼が映画スターをやっているのが、スプライトが見せた物語の影響で、自分も誰かを喜ばせる存在になりたいという、真っ当に映画を作る人の姿勢そのものなのが凄く良い。
それだけにイカリスだけじゃなく、スプライトもラストに敵対する事になって、彼だけが最終決戦に参加出来ないのがとても人間臭いと思った。

能力的にはクロエ・ジャオ監督が大好きな幽遊白書の霊丸そのまんまで、監督のオタク的な側面が微笑ましい。

付き人のおじさんのコメディリリーフっぷりも素晴らしかった。あと「家族の危機なら行かないと!」と言ってキンゴを叱る所も良かった。彼がスプライトの影響で始めた映画のセリフを引用しているのとかが回り回って背中を押す感じで振り返ると更に感動的だった。

ファストスの家族とかもそうだったけど、神側の彼らに対し彼らの傍にいる人間が背中を押してくれる構図が毎回良いと思う。

スプライト

最初のクラブのシーンで大人の女性の姿で男にナンパされ避ける所や、近くで祝われるデインの誕生日などで成長や恋をしたい憧れが示唆されていて、彼女を紹介する語り口として上手い。
そしてそのあと、イカリスが登場した時の嬉し過ぎて戯れついているシーンが振り返ると切ない。子供の自分が嫌なのに、子供らしい方法でしかイカリスに抱きついたりする事が出来ない気がした。

幻影を操るタイプのキャラクターはこれまでも沢山出てきてたと思うけど、どのシーンの演出もフレッシュで良かった。特に現代パートで敵と遭遇した時の分身の術でやり過ごそうとするシーンの敵の面食らって何も出来なる感じとかが絶妙で面白かった。

あと最終的にセルシに謝らないのとかも人間臭くて良かった。地球のエターナルズが彼女以外攫われてしまったし、次作でセルシとの関係がまた変化すると良いな。

セナ

めちゃくちゃ強いのに記憶障害で暴走してしまう危うさを抱えた情緒不安定さが、アンジェリーナ・ジョリーにぴったりハマっていた。こないだの「モンタナの目撃者」とかとも絶妙に重なる印象。
リーダーとしての自信がないセルシを唯一応援するのがイカリスと同格の戦闘力を持つ彼女なのが良い。
エターナルズの中でもトップクラスに強いというのも、そりゃアンジーが演じてるんだから当然だろ、という説得力が凄まじい。

そんな彼女に恋愛感情とか抜きで(僕にはそう見えた)ただ優しくずっと側にいる相手がマブリーなのが本当に素晴らしいカップリングアイデア。
このキャラクターのカップリング力、幽遊白書で得たクロエ・ジャオのオタクセンスが爆発していて素晴らしかった。

ラストの仇討ちの所の「忘れるな」という言葉で正気を取り戻す所も見事な伏線回収で感動的。
最後のギルガメッシュの能力の欠片を見つめる彼女の顔が切なくて思わず落涙。

登場人物毎にダラダラと思っている事を書き殴ってしまったので、いつも以上に長文の感想になってしまったけど、主要登場人物がこの人数で誰一人、影に隠れる事なく全員に思い入れてしまう作品になっているのは驚異的な事だと思う。
当然これ一作で終わる筈はないし、今後もまた楽しみな作品が増えてしまった。やはりMCU恐るべし。

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