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「侍タイムスリッパー」の感想(ネタバレあり)

MOVIX京都の舞台挨拶付きの上映回で鑑賞。
大きめのシアターだったけど、ほぼ満席でギャグの度に笑いが起こるとても良い環境で鑑賞出来た。

待望の安田監督最終作

僕は今は無き立誠シネマで公開されていた安田監督の第一作目の「拳銃と目玉焼」で大好きになって、その次作の「ごはん」の完成試写イベントを観に行ったりしていたので、今作がこうやって全国的に「カメラを止めるな!」の様に口コミで広がりヒットしていくのは、とても嬉しかった。

「拳銃と目玉焼」の時には数十人しか入らないシアターで安田監督と今作にも出ている沙倉ゆうのさんらキャストの方々がサイン入りのポスターを配りながら、お客さん1人1人握手していた思い出があるだけに、今回シネコンの大きいシアターで300席以上をほぼ満席にしながら舞台挨拶されているのを見ると思わず胸が熱くなった。

安田監督はどの作品も関西、主に京都が舞台の作品が多くて、京都に住んでいる人間としては、とても地域密着な身近なドラマを撮る人という印象があったけど、今作は京都で映画といえばの、ど真ん中「東映京都撮影所」という場所を舞台にしているのがとてもキャッチーだし、かつての賑わいを失っていく時代劇への愛情が感動させられる。

物語的にはタイムスリップ要素、時代劇要素、その時代劇を撮影し続ける事の意義、等、これまでの安田監督の作品に比べても要素が色々多いのだけど、その全てをユーモアたっぷりに上手くまとめる手腕は流石だと思った。

福本清三愛

それと今作で泣かせる点で重要な要素として、安田監督の第二作目の「ごはん」に出演もしていた時代劇において「斬られ役」という言葉を有名にした福本清三さんへのこの上ないリスペクトだと思う。

本作の主人公がただでさえ先細りな時代劇の中で、希少な「斬られ役」の仕事を選んでいく訳だけど、本来斬られ役の師匠役を福本さんで予定されていたらしく、もし存命なら重厚感たっぷりの名演をされていただろうなぁと思う。
でも映画に居ないからこそ道着にチラッと名前が出るシーンや、主人公が斬られ役をやりたいと熱弁するシーン等で、より存在感を感じてしまうのに泣かされる。
もちろん今回福本さんに代わり演じた峰蘭太郎さんも、これまで時代劇を支えてきた貫禄と哀愁を感じる名演だった。

舞台挨拶で監督が話されてたけど、最後の「福本清三に捧ぐ」が英語になっている理由が、本人がそういうのを絶対嫌がるので英語にしといたら気づかないから、というどこまでも福本さんへの配慮を考えているのもグッときた。

登場人物の人間的な厚み

ただ単にいつの時代か分からない侍を現代に持ってくる訳じゃなく、タイムスリップしてくる侍達それぞれに背景があって、しっかり登場人物としての厚みがあったと思う。

要は主人公新左衛門も敵側の風見も、侍の時代がもう終わろうとしている最後の世代の「それしか出来ない人達」な訳で、だからこそ自分達が生きていた証としての意味も含めて時代劇に関わっていくのだけど、その「時代劇」すらも終わろうとしていて、不器用になんとか自分達の想いを消すまいと奮闘していくのが感動的だった。

そして単純に新左衛門がTVで観た時代劇に感動するというシーンが、とてもコミカルに入ってくるのも良い。
過去から来た人がTVに驚くというのは、タイムスリップ映画で定番のギャグシーンだと思うけど、それ以上にそこで流れる時代劇に感情を揺り動かされ夢中になってしまう所は、「時代劇にはそれくらい面白いのである!」と、作り手が信じている感じがして、笑いながらも実はめちゃくちゃ熱いシーンだと思った。

斬られ役という仕事を、コミカルさを入れつつこちらに丁寧に説明してくる描写とかも楽しく観ることが出来たし、彼が本物しか出さない味でどんどん出世していくのが高揚感があった。

そして、そこまでチャンバラとして描いていた時代劇を、命のやりとりとして演出し直す最後の立ち合いシーンも思わず引き込まれた。
一太刀一太刀に緊張感があって、刀で斬り合う事の怖さを役者2人の名演もあり、しっかり描き切っていたと思う。
強い侍が爽快に敵を倒すだけではなく、斬り合う事の怖さにハラハラするというのも時代劇を楽しむ醍醐味で、だからこそ最後に血が噴き出た所で驚くし、その後それはスクリーンで映画として観ているお客さんの視線だったのが分かる事で安堵すると同時に、同じ様に今では無くなりかけている時代劇を見る事でハラハラしていたこちらの視線と同一化していた事にも感動してしまう。

気になった所

とはいえ、ラストの展開は同時に今作で一番気になるポイントでもあって、止める人もいるし斬り合う2人が納得しているとはいえ、真剣を使い撮影するというのは、「時代劇」の展開としては良くても「時代劇愛を語る作品」という意味では、アウトな気もした。

やはりどんな理由があっても俳優の命に関わる撮影は絶対に誰かが止めないといけないと思うし、その無茶苦茶の手法が良い効果を生み出してヒットしたとしても、両手を上げて作品を支持は出来ないと思う。
もちろんあくまで絵空事なので、こんな形で実際に撮影される事は無いとは思うけど、今作は「時代劇を作る事の素晴らしさ」も語っている作品なので、これを素晴らしいものとして提示して終わるのはどうかなぁ、、、という気持ちもある。
でもここが無いと、主人公の心の気持ちの持って行きどころがぬるくなるし、描き方として悩ましい点ではあるとは思った。

あと気になった所で言うと、安田監督の前二作に比べて要素が多いのは分かるけど、ちょっと上映時間が長過ぎる気もした。
コテコテな関西弁のギャグ的なやりとりとか楽しいのだけど冗長にも感じて、前二作と同様に2時間以内に納まっているともっと観やすい印象がした。

という感じで、気になった所もあったけど全体的にはめちゃくちゃ面白かったし、やはり安田監督の凄い所は低予算だろうがエンターテイメントとして、普段映画を観ない人だろうと、誰もが楽しめる作品を作り出そうとする姿勢だと思う。
今作にとどまらず楽しい作品を作り続けて欲しい。

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