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「ラストマイル」の感想(ネタバレあり)

TBSで放送されていた「アンナチュラル」「MIU404」と、同じ世界線を舞台にした映画作品。
いわゆるユニバースモノの作品にはなるけど、しっかり続編という訳じゃなく、あくまで今回から登場する映画オリジナルのキャラクターをメインにした群像劇的な物語で、沢山の登場人物の中に「アンナチュラル」や「MIU404」のお馴染みのキャラクターが事件の解決の為に混ざって出てくる感じ。
なので、別にこれまでのドラマシリーズを見ていなくて全然楽しめるし、映画を観て興味が出たらドラマシリーズを後追いで見ても、なんら問題無い感じ。
個人的にはメインの物語が面白いので、作品毎の主人公同士は交わらないこれくらいのユニバース感でちょうど良いと思う。

野木亜紀子脚本という事で、次から次へと事態が変化していくスリリングな作劇がまあ上手くて、普通にドラマとして面白いし、それでいてこれまでの同ユニバースのドラマシリーズと同じく、今の日本で「生き辛さを抱えた人々」に寄り添う様な、現実と地続きな重いテーマを盛り込みながら、エンターテイメント作品として成立させる手腕が本当に素晴らしかった。

「ブラックフライデー」という、タップするだけでネットで安いモノが便利に買える、とても身近になってしまったイベント日を舞台に、その裏で実際にギリギリの状態で物流と配送に関わる人達にスポットを当てて事件を描き、そこに関わる企業体質や皺寄せで混乱しまくる現場の人々の右往左往が、日本という国で働く人達の縮図の様にも見える。

主人公が勤めるDAILY FASTというショッピングサイトの利益優先の態勢がどんどん明らかになり恐ろしくなってくるのだけど、僕自身この映画でモデルになっているであろう某海外ショッピングサイトで、商品を買ったり、動画配信サービスで映画やドラマを鑑賞しまくったりして依存している訳で、全然無関係の出来事に思えず、映画を観ているこちらの加害性をも浮き彫りにしてくる。
それでも当たり前になっている「欲しかったものを届けてくれる事の素晴らしさ」を改めて美しく、劇中のセリフでもあった通り「奇跡」として描くラストシーンはめちゃくちゃグッと来るし、映画が観終わった後、世界の見え方が変わる様な感覚になった。

ここら辺の現実との地続きな視点が、とても骨太で野木作品らしい。
今年野木脚本の映画作品だと他に「カラオケ行こ!」があったけど、個人的にはあちらは中学生の狭い視点から見える寓話的な青春映画の印象がしたので、今作と対照的でまた比べるのが面白い。
「カラオケ行こ!」と被ってる役者さん的には宮崎吐夢がどちらとも短い出番なのにめちゃくちゃ印象的な真逆の役で本当に驚く。
今作の涙を流しながら無表情で話すシーンはめちゃくちゃグッときてしまった。

満島ひかり演じるエレナは、主人公なのに語り部としての信用が出来ない感じで、特に前半の方は何を考えているのかが全く読めない、というか管理職として人を使い捨てる様な態度がはっきり悪役っぽい。

そんな中で、彼女自身も偶然だけどテロの標的になってしまったり、かつて心が折れた自分と同じ様な立場だった山崎の想いに触れ、彼の意志を受け継ぐ様に稼働率を0にする為に奮闘していく展開がとても熱かった。
満島ひかりの棘のある飄々とした演技がとてもハマっていたし、やはり華があった。

それに対して受け身の岡田将生の演技も素晴らしくて、エレナが腹の内を見せない前半部はどちらかというと彼の目線で映画が進んでいく印象。
彼も本来は「何を考えているのか分からない」タイプの人間なのだけど、主人公エレナの方がめちゃくちゃ胡散臭いので、段々と感情を剥き出しにしていく様子が面白い。

彼もまた前職で搾取される人間だった事が示唆されるのだけど、彼のこの先を考えると事件が解決してハッピーなだけじゃなく、しっかり不穏さも感じるラストが味わい深かった。

あと登場人物で特に印象的なのは、委託配送業の火野正平&宇野祥平親子だった。
この2人の会話シーンは全部実在感があって素晴らしくて、配送業務の過酷さ、仕事として極めたとしても命を削っているという実際の仕事もそうであろう現実を観てるこちらに突きつけてくる。
今回の様な事件があれば、本当に命懸けになるし、それを誰も顧みないのが、とても辛い。
この辺はケン・ローチ監督の「家族を想うとき
とかを連想する現実と地続きの地獄だと思った。

それでも彼等の最後の活躍(洗濯機登場は熱すぎて泣いちゃう)と、誰かの想いが詰まった荷物を届けるという仕事人としての誇りを示す様なラストシーンが最高だった。
彼等の仕事の状況が改善される訳じゃ無いのだろうけど、それでも小さな救いを見せる様なバランスに落涙。

その他にも少ししか出演しない俳優さんもみんな素晴らしくて、詳しく過去が描かれる訳じゃないのにその人の佇まいや、過去を匂わす小さなセリフで、決して軽くない人間味を醸し出しで来るのが、とても映画的で素晴らしかった。

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