見出し画像

「ワイルドキャット」の感想(ネタバレあり)

ドラマとしての面白さ

Amazonプライムビデオオリジナルのドキュメンタリー映画。

観る前は「ダーウィンが来た」的な、山猫の生態にフォーカスした動物ドキュメンタリー映画だと思っていたけど、全然違っていてそれがすごく良い意味で期待を裏切られた。

もちろんアマゾンの山猫を赤ちゃんの状態から独り立ちさせ、再び野生に戻すという目的もあるので、山猫がどういう獲物を狩るのか、どんな天敵が居るのか、等アマゾンの山猫がどういう生き物なのか?という説明がされるのでそこは動物ドキュメンタリー的な面白さがしっかりある。

ただ今作がメインで描いているのは、その山猫を野生に返す努力をして寄り添っている人達の葛藤と成長を描いている点だと思う。

ドキュメンタリー映画に相応しくない言い方かも知れないけど、出てくる人達の人間ドラマが最初から最後まで映画として完結していく感じがしてすごく好きだった。
戦場でのPTSDに悩む元軍人のハリーと、アルコール中毒の父親トラウマを持っている動物の学者のサム。お互いの傷を癒しながらも、再び傷ついたり、山猫を野生に帰すミッションを通してそれぞれが独り立ちしていく過程がドラマとして、とても見応えがあった。

ハリー

ハリーは前半から異常に涙もろかったりして、見るからに精神的に不安定で、山猫を独り立ちさせる為に頑張ってはいるのだけど、どう見ても山猫に依存しているのは彼の方で、観ながらこんな精神状態の人が動物を野生に返すなんて出来るのか?という気持ちで観てしまう。
普通こういう動物を野生に返す活動ってあまり動物側が甘えすぎない様に一定の距離を置くのが普通だと思うけど、ハリーに関して結構ベタベタに山猫と擬似家族関係になっていて、彼の子離れこそがこの映画のメインになっていく。

そんな彼に最悪の形で最初の山猫のカーンと死別してしまう所は観ていてかなり辛かった。
他の野生動物に襲われるとかじゃなく、人為的に仕掛けられた銃によって死んでしまうのが、彼の戦場の記憶を刺激している様で、そこもキツい。
そこから再び山猫を育てるチャンスが巡ってくるのだけど、「今度こそ成功させる」という切実さがとても伝わってきて、凄く良いシーンだった。

そして心配していた通り、親離れ子離れの時期が訪れても上手くいかなくて精神的にどんどん追い込まれていくのが、やっぱり観ていて辛かった。
山猫側も離れられないし、ハリー側も本当は離れたくなくて自傷行為をしたり自殺をほのめかしだす。
腕を切る自傷行為も身体中に彫っているタトゥーと裏表に見えて、痛みを身体に刻み込んでいたい彼の心の痛みがより伝わってきた。
途中家族がアマゾンまで来てくれるシーンがあるのだけど、そこで身体の傷の話題になった時の心配であるけど踏み込めない沈黙が、とても生々しくてこの辺はドキュメンタリーならではの緊張感が素晴らしかった。

そんなハリーを見守るサムも心配で精神がすり減っていく描写も辛かった。
前半彼女のアルコール中毒の父親との過去がさりげなく入れられるのだけど、後半以降のハリーがキアヌに必要以上に執着していく様子と重なっていくのが、意図してるのか分からないけど伏線回収みたいですごい。

それでもその2人と1匹がひとときの楽園みたいな時間を終えて、絶望から立ち上がり独り立ちしていくラストはとても感動的だったと思う。
それぞれの人生の幸せを心から願ってしまうドキュメンタリー作品だった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?