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ザ・メニューの感想(ネタバレあり)

美食ブラックコメディ映画

あんまりどういう映画か分からず観たのだけど、個人的にははっきりブラックコメディ映画という印象。
閉鎖空間に閉じ込められた人々が頭のおかしい男から逃れるデスゲーム的な話なのかと前半は思ってたけど、割と早い段階で「もうここに来てもらった時点で全員死にますので」と発表されるし、登場人物に対してもめちゃくちゃ馬鹿にした描き方になっているので割とどうなっても良い感じ。

あとまあ「美食家」的な人だけではなく何かを批評する様な人たち(もちろん映画好きとかも含んで)を逆に批評してブラックコメディにしてるのが、何とも意地が悪い。この辺は今作の製作に入ってるアダム・マッケイの監督作品とかに通じる精神性を感じる。

それとラストの終わり方とか舞台の島の雰囲気とかかなり「ミッドサマー」を連想した。

マーゴ

クセが強い金持ちばかりの中で唯一観ているこちらに近い目線の人。
ジュリアンが言う通り彼女だけがこの場に相応しくなくて、他の客達は死ぬのがほぼ確定なのだけど、彼女だけには助かって欲しいと思いながら観てしまう(関係ないので)。

映画全体を支配しているジュリアンも彼女に対してどういう扱いが相応しいのか迷っているので、そこにつけ込めるかが鍵になっていくのだけど、無線で助けを求めるという選択によって窮地に追い込まれていく。

でもその無線のある部屋で見た写真からジュリアンの原点を責めて反撃していく流れが凄く良かった。
ジュリアンが繰り返していた手を叩く描写を彼女がする所でも分かるけど、シンプルに「お金を払って、美味しいものを提供してもらい、感謝を伝える」という「作り手」と「受け手」との「対等」な関係になっている様に見えて、本来あるべき関係性を改めて示しているのが不思議な感動があった。

彼女が出ていく前に振り返った時、かつての客だった指を切られた男性の奥さんが「行きなさい」と、ジェスチャーをする所が極限状態の中で人間的な良心が垣間見える感じがしてグッときた。

演じたアニャ・テイラー=ジョイはやはり圧巻の華があって見とれてしまう。次のフュリオサ役も楽しみだなぁ。

ジュリアン

頭のおかしいおじさんやらしたら、レイフ・ファインズはやっぱ最高で、チャームポイントのギラギラした目が今回もバッチリハマっていた。こちらからの話が通じないし、そもそも何言ってるか分かんないし、ヴォルデモートより全然ヤバい。ジョン・レグイザモを呼びつけた理由が個人的すぎてマジで気の毒で笑うしかない。

ただ最後にマーゴだけが彼の中の人間性を見抜いて、彼自身も忘れていた美味しい料理を作って、お客さんに喜んでもらうという、そもそもの自分の料理人としての役割を思い出していく。
だからこれまでの芸術性みたいなものを重視した結果、全然美味しそうに見えない料理と違い、ここに関しては劇場を出た後思わずチーズバーガーが食べたくなる位美味しそうだった。
ここがあるから、最後の最後に本来の料理を提供する喜びに目覚めて亡くなっていけた訳だし、彼にとっては思ってもみなかったハッピーエンドに見えた。

タイラー

頭のおかしいジュリアンが呆れる程、頭がおかしい美食家ファンのモグモグ男子。
何歳になっても幼い印象の役が似合うニコラス・ホルトがこちらもバッチリハマっていた。よく言えば一途で真っすぐなのだけど、今回の役みたいにそれ故の人間性の欠如した雰囲気が自然に狂っている感じがして最高。
回りで何が起きてもジュリアンの作る料理に夢中でずっとモグモグしているのがはっきり笑える。

最後はその大好きなジュリアンから否定される形で絶望して死んでいくのが救いがない。
ネギとラム肉の炒め物する所でいちいち煽られてテンパっていくのがめちゃくちゃ笑った。
本人的には最後一緒に燃やされて死んでいくのがハッピーエンドぽかったけどそれにも値しないと判断されている感じが馬鹿だけど気の毒。

全体的にはブラックジョークに笑いながら観つつも、何かを批評する事の滑稽さにドキッとしたり(僕も含めて映画の感想とか書いたりしてる人はそうなるんじゃないかな・・・)、その先に作り手と受け手のあるべきシンプルな関係性とかも提示しつつ終わっていく、なかなか見応えのある作品だったと思う。

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