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「ヤクザと家族 The Family」の感想(ネタバレあり)

この前まで映画館でやっていたのに観逃していたけど、早くもNetflixで配信が始まったこのタイミングで鑑賞。

そういえば綾野剛主演作品で言うと「ホムンクルス」も、もう配信が始まっていたし、日本映画もこういう劇場公開後、間を空けずすぐ配信になるパターン増えてきそう。

主観的な映像美

藤井道人監督は画面作りにとてもこだわりのある監督というイメージだったけど、今回も全カット美しかった。

舞台は海辺の工場ばかりの廃れた街なのに、太陽の光がキラキラしてとても解放感のある爽やかな雰囲気すらする前半のカメラワークが印象的で、血なまぐさい事件が起こるのに彼らの黄金時代を優しく見守る様な目線で撮られている。

観終わって考えるとこれが主人公の主観で人生の一番輝いていた時を振り返っている様に思えた。

冒頭、世界に対して絶望していた彼がついに組長に心を許し涙を流すシーンがやっぱりこの映画で一番美しい瞬間で、世間的に言うと最初から最後まで正しくない人なのだけど、正しくなれない人の視点で世界が輝いている瞬間を共感できるのがこういうアウトロー映画の醍醐味だなぁ、と改めて思った。

そういう意味では藤井監督は「新聞記者」でも思ったけど、実録派の映画を撮る人というより社会派の題材を料理する時にもファンタジー的に感じるような主観的で美しいルックで映画を撮る人という印象なので、主人公が海に落ちて死ぬ直前に見る走馬灯にも思える美しい物語にバッチリハマっていたと思う。

アウトロー映画として暴力描写も良くて、特に中盤の車が襲撃される長回しの所は思わずギョッとなる名場面だったと思う。

現代パート

映画後半、出所してからの街の寒々しさと、ヤクザである事の肩身の狭さ。組長にくそ真面目とからかわれていた中村、「老けてる」と言われ怒っていた由香の「そりゃそうだよ、14年だもん」というセリフ、悪ガキ三人で楽しく食べていた同じ席で竜太と二人きりで食べる焼き肉屋、など前半の黄金時代と分かり易く対比になる様な場面がいちいち切なくさせる。

前半の黄金時代からは打って変わり、舞台が2019年で完全に現代の話になるので現代のヤクザがどういう生き方をするしかないのか?という部分に説得力があり現実と地続きな世知辛さ。商売も出来ず、かといって就職も出来ず、銀行口座も作れず保険にも入れない、ほとんど人権が無いと言っていい。この辺のエピソードはドキュメンタリー映画の「ヤクザと憲法」とかを思い出したし、今作と同時期に上映していた「すばらしき世界」の主人公の九州でヤクザの兄弟分と会うエピソードとかと通じる部分があった。

そして元ヤクザである事がネットで広まりあっという間に、これから幸せを積み上げていこうとした暮らしが吹き飛んでしまい、結局自分が父親と同じ様に娘や翼、次の世代にも負の連鎖を引き継がせてしまう事を自らを犠牲にして断ち切る事を選ぶ。
父親と同じ様に海の中に沈んでいくのが、彼自身は負の因果から逃れられなかったけどだかこそその後、彼の人生が間違いだけじゃなかったと確かめ合うような若い二人のやりとりで映画が終わっていくのがとても優しい。

登場人物

賢治

父親が亡くなる所から映画が始まるのだけど父親に対して愛憎入り混じる苛立ちがあり「覚せい剤」やそれを売りさばく「ヤクザ」にもう既に運命が縛られているみたいに思える。

綾野剛はあんまり叫んだり怒鳴ったりする役がちょっと苦手だったけど、今回はちょうど良い塩梅だった。

柴咲

やっぱ「舘ひろし」力が半端ない。ヤクザの親分という役なのに説明不要で「絶対良い人でしょ!」と分かるし、持っている凄みみたいなもので誰もが付いてくるカリスマ性にも凄まじく説得力がある。
冒頭の半殺しにされた賢治にかける言葉が優しくて泣きだす賢治動揺こちらの涙腺も刺激された。

由香

綾野剛とはカーネーションのイメージが強くて、あちらもなかなか悲恋な関係性だったけど、糸子と周防が生まれ変わってもまた幸せになれなかったみたいで辛い。

後から考えると、賢治との最初の方の彼女に対してのアプローチが悉く全部アウトで観ていて「なんでこんな奴好きになったんだ、、、」とは思ったけど綾野剛と尾野真千子のコミカル演技の上手さで観ている間はそんな気にならなかった。ワイパー動く所とか良い。

現代パートで髪の色とかビジュアルもそうだし物心が付いて父親の存在に振り回されている感じが賢治の若い時と重なり見ていて危うい。

だけど賢治と違い彼は世渡りが上手で敵対するヤクザや汚職刑事の弱みを握ってしっかり対抗している感じが面白い。

賢治的には彼が自分や彼の父親と同じ様な負の連鎖に落ちない様に自らが犠牲になって悪党を一掃しようとした訳だけど、彼自身は嫌々アウトローの世界にいる訳じゃないし今後も堅気の世界には戻らない気がしてよく考えたらそんなハッピーエンドでもない気がする。
それと彼が亡き父親に縛られているという描写があんまりないので人生台無しにしてまで仇を取ろうとするのにちょっと違和感を感じた。

ただラストの表情がとても良かったので映画の終わり方としては凄く美しい。

中村

前半の若頭時代が超カッコ良かっただけに後半の廃れ具合が観ていて痛々しい。賢治との泥臭い喧嘩の後に「薬はやってない」というギリギリの強がりがとても人間臭くて切ない。

北村有起哉的には同時期に上映されていた「すばらしき世界」にも出ていたけど、今回と立場が真逆でやっぱり俳優さんってスゲー!というバカみたいな感想しか出てこない。

竜太

演じた市原隼人が本当素晴らしかった。僕はあんまり出演作を見ている訳じゃないけど今までで一番好きな役だった。
冒頭の不良からビシッと決まった中盤、そしてヤクザを辞め家族の為に覇気を捨て去った佇まい。全シーン説得力があって最高のキャスティングだったと思う。

綾野剛、二ノ宮隆太郎との相性も良かった。
というか綾野剛と市原隼人の間に最近は監督業の印象も強い二ノ宮隆太郎を持ってきたのは何気に凄い着眼点。
彼がいなくなった事で二人の関係が崩れた気もして、ラストの悲劇的な決着の時「ここに彼がいれば何か違ったんじゃないかな、、、」とより切なくなった。

という感じで、自粛していて観に行けず、通常のDVD発売タイミングとかだったら遅くて多分見逃していたと思うので、すぐに配信が始まって良かった。劇場で観れないとしても新作を早い時期に観れるのはやっぱりありがたい。

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