「マッドマックス:フュリオサ」の感想(ネタバレあり)
映画史に残る大傑作「マッドマックス 怒りのデスロード」のフュリオサを主人公にした前日譚。
「マッドマックス怒りのデスロード」が公開した2015年は個人的に映画を観始める様になって、少しずつ自分の中の映画の見方が確立していったり、一気に映画の友達が増えたり、今思うとちょうど1番映画を観るのが楽しかった時期でもあったりして、そこに最高のお祭り映画が来たせいで今思うとどうかと思う位、何度も映画館に足を運んで鑑賞して完全に中毒になってしまった。
そんな感じで非常に思い入れが強い作品の前日譚なのでめちゃくちゃ期待値を上げて鑑賞してきた。
あの世界に戻ってきた喜び
荒廃した世界観の作り込みは相変わらず考えぬかれているし、アクションもてんこ盛りで、どのカットもカッコ良い、何よりフュリオサという1人のキャラクターの生い立ちにのみフォーカスし、丁寧に描いたスピンオフとしてとても楽しめた。個人的には「怒りのデスロード」の方が完成度は高いとは思うけど、作りが全く違うので比べるのも野暮かなとは思った。
映画としての構造は「行って帰ってくる」シンプルな物語だった「デスロード」とは違い、十数年に渡る長い期間の大きな権力争いの中で色んな要素が絡み合いながら、主人公フュリオサが復讐を果たすまでを描いた大河ドラマみたいな印象。
冒頭の果実をもぎ取るシーンから始まり地獄巡りを通じてアイデンティティが形成されていくのが神話的だと思ったけど、その果実の種から次の希望に繋いでいく終わり方がめちゃくちゃ感動的で拍手を送りたくなる素晴らしいエンディングだったと思う。
今作の見せ場であるウォーボーイズとは違う、バイカーに特化したバイクアクションシーンも全部面白い。
特にパラグライダーを使っての上空からのアクションシーンやそれに対抗するべくトラック後部が回転するガジェットのカッコ良さとか、カーアクション映画として「怒りのデスロード」から更に面白いアイデアを追加している感じで「まだこんな事出来るんだ」という部分に感動してしまった。
そしてそれを何が起こっているか観やすく美しく撮影し、高密度でスピーディーに編集している映画としてのクオリティの高さがまあ素晴らしい。
あと残酷描写はデスロードよりかなりキツめで結構印象に残るバイオレンスシーンが沢山あった。
前半ディメンタス登場の時の、もう首から血が出て死にかけている人に、逆さに向けろと命令する鬼畜さと、そこから血の出た首を蹴っ飛ばすフュリオサ、最早残酷すぎて逆に笑えるバランス感とかが本当絶妙で最高。
フュリオサ
若きフュリオサをアニャ・テイラージョイが演じている訳だけど、シャーリーズ・セロンに負けない位素晴らしかった。
女性でありながら屈強な男達と肉弾戦でも勝てそうな強さ的な説得力はシャーリーズ・セロンが圧倒的だと思うけど、今作ではまだ少女から大人に変わっていく不安定さをアニャ・テイラージョイの華奢さで体現していた。
あと何と言っても眼力の強さが最高で、復讐を果たすまで、彼女にとって耐え忍ぶ時間がかなり長いのだけど、常に眼だけはギラギラ輝いていてアクションとか派手なシーンじゃなくてもアニャ・テイラージョイの表情の変化だけで画面に引き込まれてしまう。
ジョージ・ミラーはセリフに頼らない微細な表情の変化等で登場人物の心情を示す映画的な描写は相変わらず素晴らしくて、覚悟を決めた瞬間の眼力の変化とかだけで毎回グッときてしまう。
特にジャックを置きざりにして1人逃げるか迷う時の「今度こそ愛する人を失わない」と決意し直し戻る所とか本当に素晴らしかった。
非業の死を遂げてしまう母親も素晴らしい存在感だった。
冒頭のバイクで追いかけていく長いチェイスシーンから最高に面白い。
スナイパーとしての腕や、服が燃え上がりながらも女を乗せて怯まずにバイクで走っていくカッコ良さとか、後のフュリオサに繋がる要素が沢山あってしっかり彼女の魂がフュリオサに受け継がれていく佇まいがしっかり描かれていて感動してしまう。
フュリオサが故郷の人間以外で唯一心を許したジャックとの関係性も良い。
まだ未熟だった彼女を導いていく過程が丁寧に描かれていた。
結局母親と同じ様にディメンタスに目の前で殺されて悲劇的に別れてしまうのだけど、「怒りのデスロード」のマックスと重なる様な佇まいで、改めてフュリオサがマックスとバディ化していく過程の心情とかを思うと切なくも熱い気持ちになる。
ディメンタス
キャラクターとして本当に面白くて、最初「緑の地」を探そうと奮闘していたかと思うとイモータンの砦を見つけたらすぐ目的を変えて抗争を始めるし、かと思えばその場の思いつきみたいな作戦でガスタウンの占領が上手くいってしまう感じとか、正直マッド度で言うとイモータンより上でその場その場で周りの人間をめちゃくちゃにしてしまう狂人。
それでいて肝っ玉の小さい小物感もあってどこの会社にもいる困った上司みたいな嫌な人間臭さもあって、その辺の複雑さをクリス・ヘムズワースがチャーミングに演じきっていたと思う。
バイク3台を馬車みたいして立ち乗りしてるのが馬鹿馬鹿しさと、本人の「かましてやるぜ!」という考え方をビジュアルで示しているみたいで笑った。馬鹿の乗り物。
悪く言えば一貫性が無いのだけど、良く言えば追い詰められた後のその場しのぎにも見える立ち回りが異常に上手い。
本人的にはイモータンの地位を奪おうとめちゃくちゃな方法を取って権力に異常な執着は見せているけど、駄目なら駄目で命乞いとかせずにあっさり諦めてしまう感じとかなかなか変なバランス。
フュリオサが彼を追い詰めて復讐を果たそうとするのだけど、飄々としてこれで殺しても復讐の虚しさが勝ってしまう感じがするし、どう決着するのか?が物語的にとてもスリリングだった。
ぶん殴って痙攣して気絶させた後問い詰める感じは、韓国映画「悪魔をみた」のチェ・ミンシクみたいな救いの無さを感じた。
ただそういう復讐モノと違い彼女の復讐の決着の仕方が種を植えるという、予想の斜め上の様で「それしか無い」という見事さでめちゃくちゃ腑に落ちた。
ただただ復讐だけを糧に生きるのでは無く、それに種を植えて新しい希望を見つける母と同じ鉄馬の女としての生き方を体現しているみたいでめちゃくちゃ感動してしまった。
そんな感じでかなり期待して観た作品だったけど、「怒りのデスロード」とは違う面白さがふんだんに散りばめられた素晴らしい映画だったと思う。
この他にも作品の構想があるらしいので是非是非また実写で作品化して欲しいなぁと思う。