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「ビースト」の感想(ネタバレあり)

哀しき獣

主人公のイドリス・エルバは妻を亡くしていて、その最期に後悔があり、それがきっかけで娘達との関係が悪化して家族を失ってしまう事を恐れている。

写し鏡的に家族を失った怒りだけの存在である今回のライオンとの対決になっていくのだけど、ライオン側にも重めな背景が置いた事で、良くも悪くも独特なモンスター映画になっていたと思う。

このライオンの方にも共感できるバランスが結構切なくて、最初の仲間の群れが皆殺しにされてしまい人間を狩る事になる経緯がなんとも救いがない。
まだ自分が生きる為に人間を食べるというなら、よくあるモンスター映画として流して観れるのだけど、家族を亡くした怒りと哀しみで、もう自分がどうなっても良くて、死に場所を探している様にすら見えた。
しかも別に突然変異でパワーアップしているとか、特別に強い設定じゃなく、ただ捨て身になっているだけというのが、より哀しい。

前半の時点でこのライオンにとってのハッピーエンドは無いというのが分かるし、他社から暴力によって群れを無くし、孤独に暴力に走った彼の悲しい末路とかを考えると悲しい後味で映画が終わっていった印象。
ここの部分でモンスターパニック映画としての評価は分かれそうだけど、僕はこの切なさみたいな部分がとても好きだった。

イドリス・エルバ

という感じで、どちらかというと僕はライオン側に感情移入してしまったのだけど、人間側の主要登場人物もみんな良かった。
主人公が戦闘力の高い医者というのが結構都合が良い設定なのだけど、演じたイドリス・エルバがやっぱり圧倒的に華がある役者さんなので最初から最後まで馬鹿っぽく感じずに集中して観れた。

途中で彼の見る夢が入るのが神秘的で、彼が奥さんの後悔から抜け出すためにライオンを倒す事で通過儀礼になっている映画に思えた。
ラストの一対一での殴り合いとかアイデアとしては一見馬鹿っぽいのだけど、夕陽のアフリカの美しさもあって、抽象化されて神話的な美しさを感じた。

モンスターパニック要素

変わったバランスとは言いつつも、モンスター映画としてのツボの押さえ方とかもちゃんとしていて、ビクッとなる瞬間が何度もあった。

急に登場して驚かす演出も良かったけど、個人的に遠くにいる小さいライオンがだんだん近付いてくるのが怖い長回しでの撮影されていて、とても効果的に使われていると思った。
終盤の廃校での長回しのくだりも、ずっと緊張感があって素晴らしかった。

あとライオン以外の他の動物の出し方もさりげないけど怖くて、気付いたらそばにいる蛇とか、主人公が入る川の中にさっきまでいたワニとか、サバンナの中での人間が1人でいる事の心細い感じも表現されていて良かった。

あとシャールト・コプリーの頼りになるムツゴロウさんみたいな雰囲気もカッコ良かった。
人間としての落とし前を付ける様にライオンと共に心中しようと火を付けるラストの「すまない」というセリフも最高に熱かったと思う。

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