見出し画像

最近読んだ本の感想

気が向いたので最近読んだ本の感想などをメモみたいに投下します。
全部ではありません。特に印象に残った本を抜粋してお届けします。

◆中屋敷均『遺伝子とは何か?』 BLUE BACKS

「遺伝子とは何か?」という分子生物学の収束点のような問いを古典〜最新の生物学の知見を辿りながら噛み砕いて説明してくれる。
セントラルドグマの概念で一旦完成されたと思われた分子生物学にはその先があって、複雑な世界がまだまだ広がっている。DNA/RNAのノンコーディング領域が生体制御に多角的に関わっていて、その全容が明らかになっていないという生命科学の深淵には好奇心を抱かざるを得ない。
タンパク質翻訳系の個別の構成要素(因子)がどうやって漸進的に進化してきたかを説明できていないというのは、研究者の知的好奇心を刺激するであろう興味深い話題だなと思う。
個人的にはRNAワールドとか、ノンコーディングRNAの役割とかウイルスとの関連性とかすごい気になるので、最新の知見がどんどん発見されて、ブルーバックスみたいな一般教養本でわかりやすく読めることをこれからも楽しみにしているところ。

◆古泉迦十『火蛾』 講談社文庫

第17回メフィスト賞受賞作。最近文庫化されて話題になった。
宗教思想フルスロットルで進んでいくが、文章の練度が高くて一気に現実と幻想のはざまに連れていかれる。非常に蠱惑的で、酩酊感ましましの雰囲気が終始漂う。“火蛾”というモチーフに対してもすごく真摯な作品だと思った。
ミステリとしての面白さももちろん備えているが、それはこの作品の一側面でしかなくて、いろんなジャンルの枠を超えてる気がする。
メフィスト賞への興味が加速してしまった一冊。

◆小川哲『噓と正典』 ハヤカワ文庫JA

自分の中で今最も来ている小川哲さんの短編集。特に良かった話の感想を抜粋。
「魔術師」
本当にマジックを見てるような、煙に巻かれてしまったような読み味。文章でこれやられたらたまったもんじゃない。”禁忌”をおかしてすぐ2回読んでしまった。ラストのリドルストーリー感がすんごい好き。
「時の扉」
寓話めいた物語なのがまず好き。時間SF要素が怖さを上乗せしてくる。今思うと、テッド・チャンの「商人と錬金術師の門」を彷彿とさせる。もっと起源となる作品はあるんでしょうけど。
「ムジカ・ムンダーナ」
父と子と音楽を巡る物語。ラストで一気に視界が拡張する感じがとてもよかった。これが一番読後感が良かったかな。
「噓と正典」
共産主義、諜報活動、史実を元にした物語に時間SF成分をあくまでスパイス的に、でも濃いめに振りかけるとこんなに満足度の高い作品になるのかとびっくり。「正典」の意味に唸ってしまった。

◆劉慈欣『超新星紀元』 早川書房

超新星爆発によってもたらされた放射線バーストにより”子ども”しか生存できなくなってしまった超新星紀元と呼ばれる時代のお話。
展開が衝撃的過ぎて劉慈欣氏の頭の中はどうなってんだと思う。これがデビュー作とは恐ろしいな。

ただ、三体ほどの完成度なのかと言われると微妙なところはあるものの、それにつながっていく劉慈欣イズムのようなものがしっかりと感じられる作品。

◆春暮康一『オーラリメイカー(完全版)』 ハヤカワ文庫JA

『オーラリメイカー』(単行本版)に加筆し、書き下ろしの「滅亡に至る病」を追加した完全版。

「オーラリメイカー」
理論の奔流が淡々と押し寄せてくる想像以上のハードSF。国内作品でここまでのものってなかなかないんじゃ…? 時系列の転移と”知性”の階層構造に脳内掻き乱されながら収束する極大スケールの物語は圧倒的。

続く「虹色の蛇」、「滅亡に至る病」 の2篇は、「オーラリメイカー」と世界設定を共有しているものの、いくらか読みやすい作品だった。小説の感想で使ったら負けみたいな言葉ではあるが、「滅亡に至る病」が本当に色んな意味でエモい。めちゃくちゃ好き。

『法治の獣』を早く読まないと。

◆小田雅久仁『禍』 新潮社

全編高品質で独想的な怪奇譚の集合体。
夢現の境をぐしゃりと歪められた日常の”禍中”に読者も否応なしに堕とされていく。 各話のアプローチというかテイストが違うのに、しっかり全部面白いのがすごすぎた。
とりあえず「喪色記」が個人的ベスト。ただ、読む人によって一番面白い作品が異なる印象で、それはそのままこの『禍』の品質の高さを物語っていると思う。
最後の2篇は小田先生の筆致が設定の面白さを飛び超えてきてまあすごかった。全編すごいけど(すごいしか言ってない)。
これは『残月記』も読まないとな…

◆『中島敦』 ちくま文庫

「山月記」が好きなのに他の作品を全然知らないのは勿体ないなと思い…
中島敦が、世界各地(特にユーラシア)、さまざまな時代背景のバラエティ豊かな作品を書いた人だということと、個人的にこの人の人物の内面の描き方がめちゃくちゃ好きということがわかった。
「名人伝」、「弟子」、「文字禍」、「かめれおん日記」、「悟浄出世」、「悟浄歎異」がとても好みだった。
特に「かめれおん日記」、「悟浄出世」、「悟浄歎異」の主人公の内面の描写というか言語化が自分にはドンピシャに刺さり、こんな深い思考を普段している訳がないのに「わかる・・・。」としみじみ思ってしまった。
傑作を一冊にまとめてくれるこういうコンセプトの本はとてもありがたい。

◆テッド・チャン『あなたの人生の物語』 ハヤカワ文庫SF

読者のあらゆる”認識”を書き換えてしまうマスターピースたち。発生源を異にするアイデアで成立する各話だが、通底する芯となる主題も感じ取れる。 表題作、「ゼロで割る」、「地獄とは神の不在なり」が自分の中では頭ひとつ抜けて面白かった。
「地獄とは神の不在なり」の世界観、めちゃくちゃ好き。
以前読んだ斜線堂有紀さんの『楽園とは探偵の不在なり』はこの作品を参考にしているとのこと。
映画『メッセージ』の原作である「あなたの人生の物語」は、筆舌に尽くし難い沸々と湧き上がるような静かな感動を覚えた。

◆パオロ・バチガルピ『第六ポンプ』 ハヤカワ文庫SF

倫理観にノイズが入ったようなSF世界に突如放り込まれてもがいていると、強烈かつ繊細な記憶に残る結末と相対する10篇。 「ポケットのなかの法」ではじまり、表題作の「第六ポンプ」で締められる短編集としての構成も秀逸。
「ポケットのなかの法」、「フルーテッド・ガールズ」、「砂と灰の人々」、「ポップ隊」、「第六ポンプ」が特に記憶にこびりついてしまった…。
「第六ポンプ」のディストピア感というか、絶望感、虚無感のような読後の余韻は、現実と重ねてしまうと精神衛生上非常によろしくない気がする。そのくらい物語のというか描き出すビジョンの解像度が高かったように思う。
世界観がリンクしている作品もあったり、長編の『ねじまき少女』(未読)に繋がる作品群があったり、作者の作品を追う楽しみができた。

◆山本弘『神は沈黙せず』 角川文庫

兄の失踪、世界各地で起きる超常現象などのエンタメ要素が物語を牽引しながら、「神」の存在に説明を与えようとする形の一つの到達点かもしれない。超常現象報告ファイルのように展開する、世界各地で起きる事件の数々の圧倒的情報量は圧巻。
単なるオカルトの域に留まらないSF的な魅力も放っている作品で、とても多面的な鑑賞のできる作品であるとも思う。
主人公の兄の存在が物語の灯台的な役割を担っていて、喋り出すと安心するキャラクターだった笑。

◆テッド・チャン『息吹』 ハヤカワ文庫SF

不可逆的変化を余儀なくされた状況に対峙したとき、自由意志の介在する余地について、あくまで優しく、希望を添えて問いを投げかけるような至極のSF短編集。 特に表題作の「息吹」は、好奇心とセンスオブワンダーに導かれて迎える結末がとてもよかった。
「商人と錬金術師の門」、「息吹」、「予期される未来」、「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」、「オムファロス」、「不安は自由のめまい」 が特に良かった。
『あなたの人生の物語』とどちらがよかったか・・・という究極の問いをしばらく自分に課してみたものの、答えは出なかった笑。

◆スティーヴン・ウルフラム『ChatGPTの頭の中』 ハヤカワ新書

ChatGPTの難解な仕組みを抽象度をあげて解説してくれるので、「こういうことなんかな?」と何となくわかっ(た気になれ)て楽しい。それでもむずいけど笑。
人間の脳の神経細胞間の信号の伝播を模倣したモデルであるニューラルネットワークについてもっと知りたくなった。
言語の法則や脳、世界を記号的に扱えるか?ということまで拡張する内容だったのは嬉しい誤算。
ど素人にはすんごい難解だったものの、ハヤカワ新書で一番気になってた本だったので。 〜で何をするか?というハウツー本ではなく、〜は何をしているのか?という本なので、漠然としていたChatGPTの中身の解像度が高くなってめちゃくちゃ読んでよかった。
著者が開発したWolfram言語とChatGPT(GPT-X)のタッグにはとても未来を感じたが、Wolfram言語のダイレクトマーケティングみたいに読めたところも含めて面白かった。

この記事が参加している募集

読書感想文

SF小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?