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【詩】紅茶とロールケーキと歌声と

寒さ増す寒露の夜
私は再び武者修行の旅へ
ギターはまだ弾けぬ故、歌を歌って道場破り

一軒目 
「寒くないですか」
髪結いの亭主から差し出されたロールケーキ
子守りの御婦人から勧められた自販機の紅茶
教えてもらったアルペジオ

二軒目
駅前路上で歌う流し二人組 
稼いだお金の話を小耳に挟む
薄着で歌う私に向けて
「風邪ひかないで下さいね」

さり気なく優しい心遣い
別に天才じゃなくても、大事にされる幸せ
別に売れてなくても、大事にできる幸せ
無理して期待に応えなくても 
ただここにいるだけで
大事にされる幸せ

誰にも見下されず、誰も見下さず、
否定せず、否定されず、しがらみに囚われず、
ただ共に時間を過ごす幸せ

見てきたものや、聞いてきたことは違うのに
心と歌声は自然と混じりあって、
豊かで尊くて儚い歌になった

綺麗事じゃない思い出も、不安も悲しみも
自分の弱さもエゴも、声に乗せて解放したら、
心が満たされる豊かな歌になった

ただ、この世界で日々の生活の一場面を
私たちの喜び悲しみを、一緒に奏で歌っただけ

ただそれだけで、何もかもが報われた夜
君への嫉妬は、歌声とともに夜空に消し飛んで、
手の平に残ったのは、ささやかな幸せだけ


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