現象観察→抽象理解→具体実行のプロセス
ゴールは「現象」であることが多い。
多くの場合、クライアントはデザイナーに対して「具体的な指示」はしないことが多い。例えば、最近いくつか店舗のプロジェクトに関わっているが、その時の依頼として多いのが「インスタ映えするお店にしてください」だ。このような依頼は現在それなりの数の、店舗、グラフィック、プロダクトのデザイナーが多少なりとも投げかけられているものではないかと推測する。
インスタ映えはあくまで結果的に人々が行う行動であり、あくまで「現象」なので、そこから直接的に色や形などの具体的なデザインにすることは難しい。そういった「現象」を目指すデザインを行わなくてはならない時の方法の一つとして、実際に行ったアプローチについて自分の整理の意味も含めてまとめておきたい。
1.現象を観察する。
前提として自分はインスタグラムのヘビーユーザーでもなく、一応アカウントを持っているくらいでしかなかったので、当事者とは呼べないという自覚があったので、まずは現象の観察を自分ができる限り丁寧に行った。
この場合は
・インスタグラム上の店舗や飲食の写真をひたすら収集する。
・インスタグラム関連の記事や番組などの出来うる限りの読み解き
・インスタグラムのフォロワーが多いユーザーへの聞き込み
の3つを行った。目指す現象自体を、違う視点やプロセスでみることでヒントを探していく。その現象に関わる人にインタビューをすることは特に重要なことだと思う。
観察の中では、とても感覚的な表現だが、「これは面白い」「これは独特だ」と思えることにヒントが隠されていることが多い気がする。この場合観察の中で、ユニークだと感じた事象は、以下の三つだった。
・フードは俯瞰で、ドリンクは手に持たれて横から撮影されていることが多く、逆のパターンの写真は多くなかった。
・ニュースで女子高生の「写真を撮るためにいい壁を探している」という発言があった。
・「できるだけここだとわかる場所で自撮りをしている」というインタビューの中でインスタグラムヘビーユーザーの発言があった。
2.抽象的に理解する。
これらの現象を抽象的な言葉に翻訳してみた。そうすることで、理解が深まり、現象自体とは一旦切り離して扱うことができると思う。
例えば、前述の三つは、
【フードは俯瞰、ドリンクは断面をそれぞれの「正面」として扱う】
【インテリアは背景や小道具としての視点で扱う】
という2つの言葉に翻訳をした。できればこれらの言葉は、次のステップで具体案を考える時の方針やチェックリストとして扱えるものになると自分は使いやすい。
3、具体的に実行する。
抽象的に切り出した言葉をベースに、具体案を考えていく。
【フードとドリンクは正面が違うものとして扱う】という方針からは、撮影を前提に、フードの盛り付けや食器は上からの視点を、ドリンクは、クリアグラスに入れてあえて断面やエレベーションを、それぞれ意識したものにした。
【インテリアは背景、商品は小道具として扱う】という方針で、インテリアでは床や天井よりも、背景となりやすい壁に特に注力し、予算とデザインの工夫の重点とした。また、家具も座った時に撮影されるアイレベルに入り込むようなものを選んだ。
このような形で、「インスタ映え」という現象を目指し、抽象的に切り出した言葉から具体的なデザインを考えていくことができた。
自分にとっての「インスタ映え」のような、当事者ではない現象を目指して、いきなり具体的なものから考えると、実際は目指した現象と違うことになることも多い。その時に一つの方法として、「現象の観察→抽象の理解→具体の実行」という形で、目指すものを実現するのは有効な方法だと思う。
最後に、目指した現象は達成されたか、なのだが、指標は省略するが結果としてありがたいことに「インスタ映え」は達成できたものになった。同時に、開店後にこちらが予想もしていなかった「インスタ映え」の撮られ方をしている写真も多く見られた。現象というものはあくまで事前の予想がつかないもので、それが観察の意義でもあるのだと痛感した。
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