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原画強奪事件

※事件性の全くない笑い話です

私は創作活動をしていることを自ら言うことはないのですが、いわゆるオタクではない身内にバレてしまいました。以来私の絵が見たいとかペンネームを教えてくれなどと言われていたのですが、のらりくらりと躱しておりました。

しかしその方、会うたびに言ってくるのでついに根負けしてしまい、仕上げたばかりの漫画の扉絵をお見せすることにしました。
自身の人柄をある程度知っている人に絵を見られるのはとても恥ずかしいものですが、こんなに気にしてくださるなら、と私もまんざらではなかったのです。
漫画の中身は無理でも扉くらいなら良いだろう。タイトルも私の名前も入っていないし、と。

それは秋も深まってきた頃、真っ青な空と澄んだ空気が心地良い日のこと。
自宅に来ていただいたタイミングで原稿をお見せしました。

「これ、自分の絵です……」
ペン入れまで終わっている線画をお見せしました。デジタルで修正しようと思っていたので間違えた線もそのまま残っています。その下にはコピー用紙に描いた下書きがマスキングテープでくっついています。
(私はペン入れの際にトレース台を使うので下書きがそのまま残ります)
「これ智広ちひろちゃんが描いたの? すごいね!」
「ありがとうございます、ハハ……」
これで満足してくれるだろうと胸を撫で下ろしていたら、耳を疑うようなことを云われたのです。

「ありがとう! 貰っていくね!」
「あっ、はい」

……今、何て言った!?

内心パニックだったのですが、ポーカーフェイスが幸いし動揺を悟られることはありませんでした。
が、そのまま漫画の扉絵は持っていかれてしまったのでした。一体どうして。
差し上げるとは一言も言っていないのですが、まあ……絵を気に入ってくれたなら全然悪い気はしません。スキャンデータもありますし。
ただ、そのつもりならちゃんとデジタルで仕上げた完成品を持っていってほしかったなと、妙なところで絵描き根性が出てしまいました。

アデュー、私の原画。
愛しい我が子オリキャラよ、達者でな。

  *

ここで話が終われば良かったのですが後日、身内からさらに驚くべき連絡が入りました。

「絵を額に入れて飾ったよ!」

ーー嗚呼……儘よ。

この時の私がどのような気持ちだったか想像できますでしょうか。
驚き、羞恥、諦念……。様々な感情がごちゃまぜになり、ただ笑うしかありませんでした。
未完成の、修正すらしていない絵が百円ショップの額に入れられて飾られているらしい。何の意味も価値もない絵が、額に。
むしろ百円ショップで良かったです(?)
本来ならば絵を気に入って飾っていただけるなんて絵描き冥利に尽きます。しかし今回ばかりは未完成の絵……。

この事件から大分経ちますが、この扉絵を見るたびに当時のことを思い出して笑います。今も身内宅に飾られているのでしょうか。怖くて聞けません。

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9月22日に開催予定の「文学フリマ札幌」に参加します!
このエピソードを含め、noteで書いてきた創作にまつわるお話を加筆修正+書き下ろしたエッセイ集を頒布予定です。
その本には額に飾られた状態の画像を掲載していますので、ご興味を持っていただけたら是非ご覧ください。
そして、その問題の漫画『コネートル』もひっそりと持って行きます。

A6/56p/価格未定


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