恩讐の彼方に〜映画「判決、ふたつの希望」

早稲田松竹「判決、ふたつの希望」ジアド・ドゥエイリ監督、2018年。

これは予想以上に見応えのある社会派エンタテインメント作品だった。「解体屋ゲン」読者クラスタ向けともいえよう。この作品を解体屋ゲンのキャラクターで脳内コミック化してみたらちょうどうまくはまってしまうのだ。宣伝がかなり地味だし、レバノンという舞台も馴染みが薄いが、全く問題なく楽しめた。監督はタランティーノ門下生だそうで、名にし負う実力といえよう。

違法就労の土建技術者である初老のパレスチナ難民ヤーセルと、右派寄りの若いレバノン人トニーが工事のトラブルがもとでケンカしてしまう。レバノンでは、パレスチナ難民とレバノン人の右派の難民排斥をめぐる対立があるのだが、そこでトニーは難民に対するヘイト発言をしてヤーセルの怒りを呼び起こしてしまう。ヘイト発言が刺さっているヤーセルはトニーを許すことができない。トニーの側は右派寄りの弁護士を雇って裁判に持ち込もうとする。ヤーセルにはリベラル派の女性弁護士がつく。

パレスチナ難民問題のからんだヘイトが原因の一つであることから、まるでパイ投げ合戦のように話はどんどん大きくなり、国レベルで世論をおおきく揺るがしてゆく・・・そしてさらに裁判がすすむことによってレバノンの過去の歴史がはらむ様々な問題が浮き彫りにされてゆく。単なるヘイトスピーカーであるようにみえるトニー、なぜそうなったのか、それには理由があった・・・。

物語は邦題のように希望を示して終わる。おそらく現状はもっと厳しいのであろうが、物語であるゆえの救いでもあろう。その点も「解体屋ゲン」という作品の立ち位置に共通している。

レバノンの建築業界ねたが垣間見られる。イタリア製塗料、ドイツ製重機は質が良いが高い。難民労働者に保険をかけるための裏技。違法建築の修繕など。日本も移民労働者がもっと増えればこのようになるのだろうか?