短評:谷崎潤一郎原作と新藤の脚本の食い違い? 〜 「堕落する女」1967年、吉村公三郎 監督

シネマヴェーラ 「堕落する女」1967年、吉村公三郎 監督、新藤兼人 脚本、谷崎潤一郎 原作。

桑野みゆき 演じる良家の子女がピアノ教師に誘惑されて結婚し、零落してゆくという谷崎らしいプロットである。

桑野みゆき の女優キャリア最終作品とのことだが、残念ながら題材とうまく噛み合っておらず、もったいなかった。似たような題材でもっと優れた「夜の片鱗」という主演作が他にあるだけに、なおさらである。

思うにこれは、谷崎的なデカダンスと新藤の脚本の方向性が食い違っていたせいではないだろうか。どちらかといえば社会派的な題材を描くことを得意としている新藤の脚本は、たしかに伊藤整 原作の「誘惑」など理知的なロマンスではうまく機能している。

しかし谷崎潤一郎 原作の場合、ロマンポルノ的・耽美趣味的な描き方が向いており、それが吉村=新藤の傾向とうまく合わなかったのではないかと思われた。